第194話 お祭り騒ぎ


 セシル達が水の補給などを済ませ家に帰るとそこは小さな戦場と化していました。


 正確に言うと、冒険者と雑魚っさんが石の投げ合いをしていた。


「ナー」

「は? どうなってんの?」

「とりあえず隠れて様子見ようよ」


 ユーナは以前冒険者に襲われた経験から、争っている様子を見て恐怖感が出てくる。

 ユーナに促され各々が近くの木や岩に隠れて覗く。


「あいつら数日後に来るとかじゃなかったっけ?」

「そもそも誰と争ってんの?」

「んん? 良く見たら昨日来たやつらと違くないか? なんか昨日の奴らより全体的に汚い」


 昨日交渉に来た兵士達は川で身体や服を洗った後だったので、多少見た目がマシになっていたのだ。


「じゃあ知らない人って事ね。僕の家に石投げ込みやがって。殺してやろうか」

「ちょっと待て。あいつらが何と戦ってるかちゃんと見てからの方がいいだろ」

「ここからじゃ見えないね」

「ちょっと近付くか」


 隠れながらそーっと近付く。


「あっ今、腕がチラッと見えた」

「腕? 人って事?」

「多分、魚っさんか雑魚っさんだよ。なんかテカってるように見えたし」

「最悪じゃん。あいつら帰っても家の中臭くなっているんじゃないの?」

「えっそれ最悪。魔物避け消したから入って来たんだ」

「とりあえず手前で家に石投げているやつらどうするんだ?」

「ん~家に侵入した魚っさんを退治していると思えばいきなり殺すのも違う気がするね。離れた所から声かけてみようか?」

「友好的にって事だな?」

「攻撃してくるようだとすぐ殺すよ。そのつもりでいてね」

「おっ、おう」

「とりあえずあの小汚い奴らは肌の色から帝国人みたいだね」

「チッ、ここにやってくるの帝国人ばっかりじゃん。帝国人は行儀の悪いやつしかいないのかよ」

「私は違うでしょ」

「俺も違うぞ」

「……栄えある第一侵入者じゃん。行儀悪い国の代表者じゃん」

「いや、あれは無理やりだったから」

「……そんな事よりヨト、やつらに話しかけて」


 ヨトが帝国の冒険者に声を掛けようと息を吸った所でマーモ達が騒ぎ出した。


「ナー! ナー! ナー!」

「どうした?」


 マーモ達の鳴き声にセシル達が慌てて周りを見渡すと30m程離れた木の陰から体高3メートルはあろうかという巨大な魔物が静かにヌッと顔を出して来た。


「ヒッ!? 鎧トカゲだっ!」

「あっあっアンキロドラゴン……」

「逃げろっ!!」


 アンキロドラゴン(=鎧トカゲ:セシル命名)はポストスクスのように大型のトカゲみたいな顔や身体をしているが全てのパーツが太く、硬そうな甲羅のようなものを鎧の様に身に纏っている。

 尻尾も長く、先っぽには重りみたいな物がくっついている

 飛行能力を有しない陸のドラゴンだ。


 


 マーモ達の危険を知らせる声に、ポストスクスと馬の見張りをしていた冒険者2人も反応していた。

 

『おっマーモットの群れじゃねぇか。今日の夕飯用に狩ろうぜ。へへへラッキーだな』


 冒険者の位置からは木の陰になって多少見にくいが30匹を超えるマーモットの群れはどうしても目立ってしまう。

 

『いいねぇ』


 様子を見ながらひそひそ声で話しつつ腰に差した剣を抜く。


『あっ、逃げ出すぞ。行くぞっ』


 2人はマーモットを逃さない様に走り出す。


『ん? おいおいおいおい嘘だろ、子供がいるぞ』

『そりゃマーモットの子供くらいいるだろ』

『馬鹿、人間の子供だ』

『ハッ、こんな所に人間の子供がいるわけないだろ。ゴブリンの間違いじゃねぇか?』


 そう言いながらマーモットの群れを追いかけつつ全体を見渡す。


『はあっ!? まさか、嘘だろ? 人間じゃねぇか。こんな所に3人も!? 村でもあるのか?』

『だから言ったろ。ん? おいおいおいおい。嘘だろ……なんだあの影は! 止まれ!』


 1人が急ブレーキで止まるともう1人も慌てて止まる。


『どうした?』

『あっちの奥見て見ろ! 戻れ! 急いでポストスクスの縄をほどくぞ!!』

『奥?』

『いいから急げっ! ポストスクスよりデカい魔物がいるぞ』

『うわっなんだありゃ』


 冒険者2人は慌てて引き返すとポストスクスと馬の縄を解き始めた。




『なんだ!?』


 雑魚っさんと石の投げ合いをしていた冒険者も少し離れた所が騒がしい事に気が付きようやく振り向く。


『えっ!? あっあああああ』

『どうしたっ!?』

『アンキロドラゴンだぞっ!? にげろおおおおお』


 アンキロドラゴンの他に何故か人間の子供とマーモットの群れの後ろ姿が見え、他のメンバーも目を見開くがそんな事を気にしている場合ではない。


 石を投げるのを止め、大慌てでポストスクスの元に走るが30~40mは離れている。


『こっちだ! 急げっ!』


 ポストスクスの番をしていた2人の素早い準備により、すでにポストスクスと馬は縄を外され撤退出来る状態になっていた。

 馬にさえ乗ってしまえば逃げ切れるだろう。


 アンキロドラゴンは少し顔をふり状況を見た後、近くに居るマーモット達よりも冒険者達の方が食いでがあると思ったのか、グッと踏み込むと急激に加速し地面を揺らしながら冒険者を追いかけはじめた。


『ヤッヤバイ』


 50m程は離れていただろう6人の冒険者との距離はほぼ一瞬で詰まる。


 ポストスクスは牙を出しその場で威嚇しようとしているが、馬は暴れ出し冒険者を振り切って走り出す。


 馬が走り出したのを見て『……ッ』と声にならない声を上げた所で、6人の冒険者は追い付いて来たアンキロドラゴンの尻尾でまとめて横薙ぎにぶっ飛ばされた。

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