第193話 ダンジョンの不思議
セシル達が川から戻っている時、岩山ハウスに侵入者がいた。
帝国の冒険者だ。
当然の事だが迷宮のお宝を狙っているのは貴族だけではない。
お宝を手に入れたカッツォ達は帝国ではほぼ武勇伝を語る事は無かったが、それでも一部の人間(信頼できる情報屋)に情報を売っていた。
カッツォ達の名前が秘されている情報だが売られた情報(商売の種)は当然他の者に売られ、一部の情報通に広まると代官の動きからもそれが真実味を帯び、一気に動きが活発になった。
帝国では帝国内の物は草木に至るまで全て皇帝の資産という国でもあるので、もしお宝を手に入れたとしても関所で取り上げられる可能性もゼロではない。
が、帝国と言えどあまりに横暴な強奪は反乱を招くので、献上する代わりに貴族お抱えの騎士や名ばかりの準貴族の地位を得られる可能性もある。
(貴族である代官ベナスはダンジョンで手に入れた品を皇帝に献上してもメリットがほぼ無い為、関所をすり抜け自分の物にする方法に苦心している)
お宝を献上する事で爵位を目指し、底辺の冒険者から卒業を目指すもの。
お宝を隠匿し他の地域に移りのんびり暮らす事を望んでいるもの(カッツォ達のルート)。
ただの金に目が眩んだだけの浮かれポンチと様々だ。
お宝を隠匿する場合、関所を上手くすり抜けるにはそれなりに手数料は取られてしまうが裏のルートはいくつか存在する。
その点に関しては貴族よりもはるかに冒険者の方が精通している。
ただ、裏ルートのチョイスを間違えればアングラな連中に餌情報をバラまいたのと同義であり後ろ盾の無い冒険者は闇で消され、お宝を奪われる可能性も十分にある。
そういった意味では道中に売り捌き小物に替え、関所を通り抜けたカッツォ達は上手くやったと言える。
当時は門番もまさか小汚い冒険者が大儲けして帰って来たなど、想像の埒外で軽いチェックでスルーしてしまったのだ。
そんなこんなで王国の方がダンジョンについて噂が広まるのは早かったが、帝国は従魔に関して王国の1歩先を行っておりポストスクスの数も多く少しだけ安価だった事もあり帝国の冒険者の方が先に到着していた。
それでも需要と供給の関係でポストスクス不足は否めないが、借金でレンタルする事に成功した夢見る帝国の冒険者達が続々とダンジョン(セシルハウス)に集まってきているのだった。
ダンジョンに着いた冒険者8名はポストスクスを繋ぐと2名を見張りに残し、6名でダンジョンの中に向かう。
『ここが噂のダンジョンか。この壁、完全に人の手で作れらている様に見えるが……遺跡なのか? 入口を塞いでいる木なんてまだ新しいぞ。まさか誰か住んでねぇよな?』
『流石にそれはないだろう。あるとすれば他の野郎どもに先を越されたか?』
『先住民の可能性もあるだろ』
『こんな森に住める奴なんざ人間じゃねぇよ』
入口を防いでいる木を避け、松明をで中を照らしながら入っていく。
『薄っすら光が入っているのは何故だ?』
セシルが採光の為に空けた穴だ。
『天井から太陽の光が漏れているんじゃないか?』
『太陽? どんだけこの岩山が高かったかお前も見ただろ?』
1人が光が漏れている穴を覗く。
『細くて良く見えないが空まで続いている気がしないでもない』
『この穴が巨大な岩山の天辺まで続いているのか? 人じゃそんな事無理だな。てことは天然の穴か?』
『迷宮の中がずっとこんな感じで光が入っているなら楽だが』
『どっちにしろこの程度の光じゃ足元も覚束ないだろう。松明は必要だな』
松明と盾の組み合わせが3人、盾と剣の組み合わせの3人と交互に並んでいる。
冒険者達は洞窟に入った経験が無いため、ここまでの移動中に考えた組み合わせだ。
『壁が綺麗すぎる。こんな綺麗に岩が削れるものなのか?』
『それがダンジョンだろ』
『そもそもダンジョンってなんだよ。入り組んだ洞窟をかっこよく言っただけだろうが』
『普通の洞窟はもっと壁がボコボコしてるよ』
『……だからダンジョンか……なんだよダンジョンて』
ダンジョンはカッツォが勝手に言っているだけだが、それが広まった形だ。
『それにしても臭いな』
『……奥を見ろっ、なんか動いているぞ』
松明を奥に当てる。
『人か?』
『人だと!?』
『……くっせぇ』
『おえっ』
キシャー
『人? じゃないっ! 顔が魚?? きんもちわりぃ』
『近付いて来るぞ!』
『石を持ってやがる。盾を構えろ』
『ほんとに人じゃないよな?……殺して良いんだな?』
『よく見て見えろ。あんなヌメヌメテカテカして臭いやつが人間なわけないだろ』
冒険者達の前に現れたのは魚おっさん改め魚っさん改め雑魚っさん(セシル命名)の群れだった。
以前ミニ魚っさんに負けていたので、魚っさんから雑魚っさんに格下げされた経歴がある(セシルによる降格)。
人間の様な形で魚と人間が混じった様な顔をしてお腹はぶよぶよ。質感はテカテカヌメヌメしているように見える。身長は人間に近く不気味な迫力がある。
髪の毛はなく背面は深緑で身体の内側や顔は白っぽい。
手は水搔きが付いているようだ。
目が退化している為、冒険者達を視覚で捉えている訳でないが臭いと音で判断し石を投げてくる。
セシルハウス内には石は転がっていないが、洞窟内からバケツリレーの様に渡しているようだ。
ミニ魚っさん(別種)に比べれば低知能だが、稀にほんの少し賢い個体が生まれボスになるとこれくらい出来るようになる。
ガン ガンと盾に当たる。
雑魚っさんによる投石はほとんどの個体が下投げでポーン ポーンとさほど強くないものの、中には少し賢いのか上投げでビュッとそれなりに速い石を投げる者もいる。
雑魚っさにとっては意図しての事ではないが、上と正面からの同時攻撃になっている。
上を防げば正面から石が当たり、正面を防げば頭に石が当たってしまう。
冒険者の盾は丸盾で、さほど大きくないので肩や足に被弾し始める。
「クソッ、全部真っすぐ投げてくれた方が防ぎやすいぜ。ワザとやっているなら相当知能が高いぞ」
知能は低い。
「下がるぞ。一度撤退して入口で一体ずつ仕留めよう」
冒険者達は擦り傷と多少の打撲をしながらダンジョンを出た。
すぐさま入口から数メートルの距離を取り、入口を囲う壁に隠れるように構える。
すると雑魚っさんがダンジョンからヌッと顔を出してきた。
ギシャアアアア
のたうち回る様に入口から引っ込む雑魚っさん。
「なんだ?」
「ダメージを負ったような声だったが……何もしてねぇぞ? してねぇよな?」
全員が何もしてないぞと首を軽く振る。
様子を見ていると、別の個体が手をゆっくりと出して来たがギシャーーーと叫び声を上げて手を引っ込めた。
生まれてから一度も暗闇に包まれた洞窟から出た事が無かった雑魚っさんは太陽の光で火傷を負ったのだ。
洞窟内にもセシルが開けた穴から光が多少漏れていたが、ほとんどの光は通路の端であり、その程度では肌がちりちりする程度で済んでいたのだろう。
『もしかしてダンジョンから出る事が出来ないのか?』
『ダンジョンって何なんだよ』
ダンジョンの不思議が増えていく。
『クソッ。追いかけられないのは安心だが、それはそれで仕留める事も難しいぞ。どうする?』
☆☆☆☆☆
更新おそくなってすみません。次回もしばらく家にいないので遅くなります。
2週間以内には更新します。
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