第192話 ブルーシマエナガ


笑いも一段落し、子供のやらかしに固まってしまっていたナンバー達にも大丈夫だと伝え安心させるとミツビオアルマジロ解体作業を再開する。



 ピピッ ピピッ


「ん?」


 セシルが可愛い鳴き声がする方を見ると、小さく可愛らしい鳥が2匹セシルの周りに飛んできた。


「ブルーシマエナガだ!!」


 セシルが学校時代に飼っていたバーキンと同じ種類の鳥だ。

 セシルの魔力の匂いがこの鳥を惹き付けるようだ。


「ブルーシマエナガは皆僕の魔力の匂いが好きなのかな? 嬉しいなぁ」


 セシルはニコニコと満面の笑みを浮かべ、ブルーシマエナガに手を伸ばす。


「良かったら僕のペッ「てりゃーーー!!」トに」


 バツンッ

「ピッ」


 一瞬にしてブルーシマエナガが目の前から消え、代わりにユーナが視界に入って来た。


「え?」

「え?」


 セシルだけでなくヨトも驚いている。


「セシルさんやったよ!! 2匹もいっぺんに!!」


 セシルは満面の笑みで剣鉈を持つユーナから目を逸らし、数メートル先の地面に横たわったブルーシマエナガを見る。


 2匹ともすでに動きが無いようだった。


「?」


 セシルは何が起きたのか理解が出来なかった。


「おっおいユーナ、急にどうしたんだよ」


 ヨトが慌てて確認する。


「どうした? ってセシルさんばっかり狩りをさせて申し訳ないって話だったでしょ? だから私頑張ったんだ!」

「おっおう。なるほどだな~。なるほどなるほど。そうだな。ユーナ偉いな」


 ヨトはセシルの様子に気遣いながらも少し小さめの声でユーナを褒める。

 ユーナもセシルの呆然とした顔に違和感を持ったが、あえて見ないふりをして自分の功績を誇った。


「少ないけど、お肉食べられるね! ねっ? セシルさん! ねっ!?」

「……えっ? あぁ、うん」

「ねえ? その反応おかしくない?」

「え?」

「私が頑張って食料を手に入れたのに、私が悪いみたいな雰囲気出してるのおかしいでしょ? さっきそれでセシルさん怒っていたんじゃなかったの? 私達と同じ事してるよね? ちゃんと狩りをした人に対してその態度ってないんじゃない? 結局、セシルさんがその魔物を可愛いと思うかどうかで決めるって事? それって、おーぼーじゃない? 確かにセシルさんが私達のリーダーみたいな所あるよ? でもね。配下になったつもりはないわけ。分かる? ねぇ、ほうけてないで何とか言ったらどうなの? 聞いてる!? だいたいさ――――」

「ごっごめん。ごめんって」


 セシルは怒涛の説教に思わず謝る。


「何がごめんなの? 言ってみな」

「えっ? いやあの」

「私の話を止める為に適当に謝ったよね? ちゃんと理解して謝ったの? そんなんだから――――」

「ユーナ! ユーナ! もうそこら辺にしとけ! セシルも反省してる! なっ? そうだろ?」

「そう! うん。反省した! 反省した!」

「……そう。ならいいけど。でもねセシ「そのぐらいにしろっ! 早く移動しねぇと魔物来るぞ」」

「それもそうね」

「ったく。いつの間にそんなに王国語がりゅうちょうに話せるようになったんだ。ユーナはその鳥ちゃんと処理しろよ」

「……うん」

「ミツビオアルマジロの処理早く終わらせよう。血の臭いが流れているだろうし……川で……しまった」

「あー川で解体すりゃ良かったね」

「今から持っていくか?」

「ここで解体終わらせないと血の臭いを撒き散らす事になるんじゃ?」

「たしかにそうだな。とりあえずここで解体急ごう」


 慌てた所で作業スピードは上がらないが、ミツビオアルマジロの内臓部分はその場でマーモットの子供達にガツガツと喰わせながらどうにか作業を終えると、筋だらけの硬い筋肉などはその場に放置し甲羅だけを持ち川に走った。


 いつもの膝丈ほどの水深の場所でミツビオアルマジロの甲羅を洗っていく。


「魔物に襲われなくて良かったね」

「最近、不自然に少なくないか?」

「確かに。いつもはもっと頻繁に襲われるよね……さっき吠えてた魔物のせいかな?」

「何がいるんだろうな……」


「昨日、魚を大量に獲ったばっかりだからいつもよりさらに水深が深いところまで移動しよう」


 見た感じ腰当たりの水深がある所まで移動する。


「いつもより深いから念のため先に雷魔法流すね」


 セシルは雷鎖を取り出すと分銅部分を川に入れ、2度、3度雷魔法を放つ。


 ビリッ ビリッ


「うっうぉ~でっけぇ」


 細長く1mはありそうな魚や、両手で抱き込むように抱えなければならないような丸々と太った魚が浮いて来る。


「それほんと便利だよなぁ。俺も練習しようかな」

「雷魔法は消費魔力が多いらしいから流し続けるのは難しいらしいけど、一瞬なら練習すれば使えると思うよ」

「そうなんだ? 私もやる」


「ライライ回収お願い。まだ生きているやついるかもしれないから気を付けてね」


 ライライが水の中に入ると水と同化しスッと見えなくなる。


 そのまま浮いていた魚がライライにより川辺に上げられセシル達が回収していく。

 太った魚は運んでいる最中に目を覚ましバタバタと暴れる事があったが、なんとか無事に回収を終えた。


「大きい魚は雷魔法3回じゃまだ危険だね。今度は5回はやろう」


「うわっ! セシルさん! あれ見て!!」


 ユーナが指さした先には水面から目だけを出した魔物が、気絶して流れていた魚をバグンッと食べる所だった。


「ヒッ」

「こっわぁ。少し離れよう」


「うわっ、こっち見ているやつもいるぞ!」


 少し川下を見ると目が出している魔物が複数匹いた。

 ワニの様な魔物だ。


「デッ、デカトカゲの子供だ!!」


 以前、デカトカゲ(セシル命名)がゴブリンを丸呑みしたのを目撃したセシルは恐怖で足がカタカタと震える。その時は体長3mはあろうかというサイズだった。

 今回のはそれより2周り程小さく見えるが、それでも恐怖感が拭えない。



 目を逸らさずに一定距離下がるとヨトが落ち着いた様子で魔物の説明をする。


「多分サルコスクスだな」

「言いにくっ。デカトカゲでいいじゃん」

「ポストスクスやらなんやらデカトカゲで通用しそうな魔物が多すぎるから分かりにくいだろ」

「それもそうか。ポストスクスと言い、スクスってのがトカゲって意味なの?」

「元が何語なのか知らんけど、サウルスとスクスがトカゲって意味らしいぞ」

「じゃサルコトカゲでいいじゃん。サルコの意味も分からんけど。てか、魔物の名前は帝国語も王国語も共通なんだね」

「賢者が付けたんだろ」

「賢者仕事しすぎじゃない?」

「ディビジ大森林の道も賢者が切り開いたんでしょ?」

「作り話じゃないの?」

「仮にも賢者の卵って言われていた奴が賢者伝説を否定するのな」

「セシルさん、賢者伝説の否定は賢者の子孫である皇帝閣下を否定する事になるから殺されちゃうよ?」

「皇帝? 子孫に何の価値があるんだ。バカたれめ」

「急に暴言吐くじゃん」



 セシル達がどうでも良い話をしている間にまたも岩山ハウスに侵入者が現れていた。


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