第191話 不和
楽しい追いかけっこの様になってしまった親らしきミツビオアルマジロは一旦諦めて、先に子供のミツビオアルマジロを倒しに行く。
子供はナンバーとライアがおちょくるように翻弄し時間を稼いでいた。
「ナンバー、ライアなるべくすぐ倒すからもうちょい頑張って!」
セシルは塩魔法を当てるべく、まずは冷静に動きを見る。
「おいおい……まさか……」
子供のミツビオアルマジロも最初は狩りのつもりだったようだが、明らかに楽しそうにぴょんぴょん跳ねながらナンバーとライアを追いかけている。
「こっちもかよ。クッ、やりにくい……僕だけ悪者な感じいやだな~」
だがすでに、父か母か分からないが親らしきミツビオアルマジロを1匹再起不能にしてしまっている。
たまたま木の位置の関係で生き残っている2匹には見えていないが、倒れている身内が見えた瞬間にこのほわほわした空気は無くなるだろう。
そもそもユーナ達を追いかけている親のミツビオアルマジロは遊んでいるつもりはないのだが。
セシルは深いため息を1度吐くと塩魔法を子供に当てていく。
半径1メートルくらいの範囲をぴょんぴょん飛び回っているだけなので魔法を当て続けるのもそこまで難しくない。
身体の塩分を持っていかれた子供は次第に動きが止まって来る。
「びえぇ~」
弱々しい鳴き声を出して転がった。
「ビャッ!? ビャーーー!」
少し離れた所で子供の鳴き声を聞き取った親らしき個体が怒りの声を上げ、急激にセシル達の元に迫って来る。
子供がグッタリ倒れている様子を見ると慌てて駆け寄り、「ビャー ビャー」と心配の声を掛ける。
急に様子が変わった親ミツビオアルマジロを追いかけて来たヨト達は、子供を心配している親を見て同情で目が潤んでいる。
ユーナは手を口に覆うように当て「なんでこんな悲劇が……」などとほざく始末だ。
ミツビオアルマジロはその強固な甲羅のお蔭で天敵らしい天敵がいない。
だからこそ子供を敵地で放置していたし、倒れている姿を見た今でもセシル達からやられたのではなく体調が悪くなり倒れていると思っている。
だからこそ堂々とセシル達にも背を向けて心配する事が出来るのだ。
セシルは子供を心配する親の背中に塩魔法をペタッと貼り付け、しっかり体内の塩分を取り出していく。
ヨトとユーナは、悲しんでいる親の背中に塩の塊が浮いてきているのを見てセシルが魔法を使っている事に気付きドン引きをしている。
「ビェッ?」
親も身体の異変を感じると、急激に力が入らなくなりヨタヨタと子供とほんの少し離れるように倒れてしまう。
だが、倒れてからも子供が心配でズリズリと身体をどうにか動かし寄り添っていく。
「ビエ~」
美しい親子愛を演じているミツビオアルマジロ。
その背中の塩はさらに大きくなっていく。
親は嘔吐しビクビクと痙攣をし始めた。
そのまま動かなくなっていく。
セシルは完全に動きが止まったのを確認すると、その後に子供に止めを刺した。
「あっそう言えば、もう一匹止めを刺さないとね」
セシルは淡々と仕事をこなしていく。
「よーし! やったね! 一気に盾が3つも手に入ったよ!!」
「……ん、おっ、おう。やったな」
「……うん。すごーい」
ニコニコ顔のセシルに対し、ヨトとユーナは明らかに乗り切れていない。
なんなら少しよそよそしくもある。
「……なんだよ……もしかして悲しい思いしているの自分達だけだと思っているの?」
「あっいや」
「僕だってね、あんな楽しそうにし追いかけっこしている所とか、子供への愛情見たら躊躇しちゃうよ。でもね。この森ではやらなきゃやられるの。分かる? ヨトとユーナはミツビオアルマジロを倒せないんだから僕がやるしかないじゃない。僕に守られて生きている癖に、お気持ち表明だけ立派でいいですね!!」
「それはっ」
「もういいっ!! 帰る。もう付いて来るな!」
セシルも話す内に興奮して完全に怒りモードになってしまう。
「ごっごめ、そんなつもりじゃ」
ヨトも流石に自分たちが悪いと思ったのかすぐ謝るが、ヒートアップしたセシルに届かない。
「うるさいっ! もういいっ!!」
どうしていいか分からず立ち尽くすヨトとユーナに対し、セシルはプリプリしたままミツビオアルマジロのゲロを水魔法で流した後、3体運ぼうとする。
が、3匹を持てるはずもなくもたもたする。
甲羅を外してない状態はずっしり重い為、1匹を背負い籠に入れて運ぶだけでもかなりキツい。
2匹持つことも出来るがヨタヨタだ。
マーモとナンバーはライアとラインを乗せている。
その他のマーモットに持たせるにはサイズ的にも少し厳しそうだ。
ライアとラインも最近はだいぶずっしりと重くなってきている。
「……持つよ」
「……」
セシルはもう付いて来るなって言ってしまった手前、お願いの言葉が言えない。
だが、ミツビオアルマジロを1匹入れた背負い籠を持ち上げるとムスッとした顔のまま歩き出す。
明らかにヨトとユーナが運ぶ事を想定している動きだ。
ヨトとユーナは顔を見合わせるとヤレヤレと肩を竦める。
「なあ、一度家に戻るのか? 水の補給もあるしここで解体した方がいいんじゃないか?」
「……」
その言葉にセシルは無言のまま足を止めるとスッと荷物をおろし、不機嫌な顔のまま甲羅と本体を斥力魔法で解体を始めた。
「ここで解体するんだな? よし、じゃライライ、マーモこっちのやつも解体手伝ってくれ」
ミツビオアルマジロは甲羅だけでなくお腹部分もかなり硬く、岩をも削る斥力魔法でも解体に時間が掛る。
当然、解体出来るのはセシル、マーモ、ライライだけになる。
マーモ達はセシルの様子をチラチラ見ながらヨト達の解体を手伝い始める。
「……」
「……」
「……」
空気が悪く、無言で作業が進んでいく。
手伝いを出来ないマーモット達は不機嫌なセシルに戦々恐々としながら周りで立ち尽くしている。
「ねぇ、セシルさんごめんね」
空気に耐えられずユーナが謝罪する。
「……」
「機嫌直してくれよ。俺達が悪かった。魔物を殺すのいつもセシルに任せっきりなのに、あの態度は無かったよな。ミツビオアルマジロがちょっと可愛いって思ってしまってさ。ほんとうに悪かったよ」
ヨトもユーナに続き謝罪する。
「……」
まだ座って解体作業をしながらふくれっ面しているセシルに、2匹の子供のマーモットが近付きそれぞれ左右から顔を近づける。
「ナー」「ナー」
誰もが、セシルの顔を舐めて慰めるのかな? と想像し、ほんの少し空気が緩む。
セシルは子供のマーモットが近付いて来ても、怒ってますよアピールの為にプリプリした顔を崩さない様に気を付けていたが、それでも可愛らしさに満更でもない顔が隠せないでいた。
その時。
バシッバシッ
子供のマーモットがセシルの顔を左右から短い手で叩くと、逃げていく。
「えっ!?」
「えっ!?」
「えっ!?」
子供のマーモット達は楽しく追いかけっこしていた遊び相手を殺したセシルに怒っていたのだ。
子供たちの親でもあるナンバーとそれぞれのメス親2匹は「やってしまった!」
と口をあんぐりと開け顔面蒼白状態で動きが停止してしまっている。
顔が毛でおおわれているにも関わらず顔色が悪いのがパッと見で分かる程だ。
逃げて走る子供達以外はしばらく時間が止まったような時間が流れる。
ナンバーの顔がギギギと動き出しセシルの顔色を伺う。
顔から大量の汗が出ている。
「ぷっ……ぶはははっ。なんでだよっ、ぶははははっ、なんっっで、そこは、叩く場面じゃないだろっ、ぶはははっ」
ナンバーの引き攣った顔とあまりに予想外の事が起きた事で、セシルは思わず笑ってしまう。
「ぶっぶははははっ」
「ふふっ、ふひっはははっひーっ」
「ナー ナー」
セシルが笑ったことで周りも思わず大笑いしてしまう。
ナンバーと子供のメス親2匹だけはどうしたらよいか分からず固まっていた。
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