第190話 ミツビオアルマジロ
兵士スマフ達の後続組、バラック軍団、教会組が続々と岩山ハウスに集合する中、セシル達は新たに魔物の素材を手に入れる事と水の補充を目的に洞窟から出て川に向かって動き出した。
家の中は魔物避けを切ってしまっている為、魚さん達が襲ってくる可能性も考慮し全員で移動している。
「交易する素材よりもミツビオアルマジロの甲羅が先に欲しいな」
「交易用の品を集める方が先じゃないのか? 取引にティタノボアの魔石だけじゃ足りないんじゃないか?」
「ん~それなんだけど、ティタノボアの鱗2~3枚付けようかなって。予備で取っておきたいけど何だかんだ結構余っているし」
「たしかに。蛇の身体大きかったもんねぇ」
「でも、マーモット達に鎧作っても良いんじゃないか?」
「あーそうだね。それカッコいいねぇ。鱗鎧のマーモット軍団。いいねぇ」
「全員分用意するってなると枚数足りるか怪しいよ?」
「後で必要枚数調べてみようか。さて、今日はどんな魔物が――」
ブオオオオオオオ
突然の鳴き声に全員がビクッとなる。
「にっ逃げろっ!!」
声が聞こえた方角から全力で走って離れる。
ぜぇー ぜぇー ぜぇー
「ふ~っ、これくらい離れれば大丈夫かな?」
「声の元はシャグモンキーの縄張りの奥の方かな? かなり距離あるのに鳥肌が止まらないよ」
「どんな魔物か分からないけどあれはダメだ。勝てない奴だ」
「あの声から逃げて来る魔物がいると思うから油断するなよ。ラプターなんか来たらヤバイ。休むのは後にして少しずつ離れよう」
「あっそうだね。木の上に逃げとく?」
木のてっぺんが平べったくなっている木が所々存在し、そのいくつかに梯子を設置している。
ラプター等の相性の悪い魔物から追いかけられた時の為に少しずつ増やしていたのだ。
「シャグモンキーが来たら木の上は逆に危ないし、マーモット達を上に上げるのはきつくないか?」
「そうか。今まではマーモだけだから背負って登れていたけど、何往復もして登るのは無理だね」
「あっ!!?」
ユーナが突然声を出した事でマーモット達を含め全員がビクッとする。
「どうした!?」
「魔物か!?」
「ミツビオアルマジロいた!!」
「マジ!? どこ!?」
「そこ走ってた! 3匹!!」
「3匹も!?」
「捕まえるぞっ!!」」
「着いてきて!」
「危ないからあまり急ぐな!」
ユーナが走り出すのを皆で追いかける。
ライン、ライアはマーモとナンバーに乗っており、すぐにユーナに追いつくと並走する。
「「ナー!!」」
マーモとナンバーの危機感の有る鳴き声でユーナが慌てて急停止すると、ユーナの目の前にミツビオアルマジロがバッと飛び込んで来た。
大きく口を開き鋭い爪も立てている。
止まらずに進んでいたら噛み付かれ、爪で大怪我をしていただろう。
ミツビオアルマジロは全長4~50センチ、体高20センチ程度と小柄だが、セシルの岩をも削る斥力魔法でも削れない全身鎧に包まれ、その強固な身体ゆえにほぼ敵になる様な魔物はおらず、よほど大きな相手でないと逃げる事は無い。
セシルはこの魔物への対処法を見付けるまではずっと手を焼いていた。
走れば逃げ切れる程度のスピードであるのが救いだったが、斥力魔法は効かず水魔法で呼吸を止めようとしても身体を丸め素早く転がるため顔を水で覆い続ける事も出来ず忌々しい存在だった。
見付けたら逃げるしかない魔物だったが、今では塩の魔法を開発した事で対処が可能になった。
「かく乱しながら塩魔法で倒すよ! こいつは僕とマーモ、ラインで先にやるよ! ナンバー、ライアで1匹、ヨトは残りのマーモット達全員で協力して1匹の足止めよろしく」
セシルとマーモは自分の汗塩をきっかけにして引力魔法(塩魔法)を発動させる。
ライアとラインは体内に塩が存在し無いのか、塩の魔法が使えない。
ライアは別角度から飛び掛かってきた一回り小さいミツビオアルマジロを水魔法で牽制すると、ナンバーが挑発しつつ避けてコントロールする。
小さいミツビオアルマジロの狩りの様子を後ろで眺めていた残りの1匹がマーモットの群れに向かって走り出してきた。
マーモットを庇うようにヨトが移動する。
ヨトは水汲み様に持ち歩いていたミツビオアルマジロの甲羅を盾として使う。
甲羅はお腹に当たる場所だけミツビオアルマジロの筋を残してあり、普段はそれを持ち手として使っている。
盾で使う場合はそこを持つとバランスが悪くなるため腕を通す形になるが、非常に持ちにくい。
「ちょっ、盾で止めるの難しくね!?」
足元に飛び掛かって来るミツビオアルマジロを盾で受け止めるのを直前で辞め、横跳びで避けながらヨトが文句を言う。
背が低いミツビオアルマジロを盾で受け止めるには座るくらいしゃがむしか無いのだ。
「頑張れっ!」
「くそっ! やってやるっ!」
ヨトはしゃがみ込むと歯を喰いしばり、ミツビオアルマジロの突撃に備える。
……が、ミツビオアルマジロは座り込むヨトを放置して逃げ惑っているマーモット達を追いかけていった。
「……おいぃっ! そこは俺に当たる所だろっ!」
「何やってんのお兄ちゃん!!」
「今のは仕方ねぇだろっ!」
「捕まえてっ!」
「無茶言うなよ!」
「よし、こっちは終わった!」
セシルとマーモによる塩魔法で甲羅に2~3センチ程の塩の塊が浮き出たミツビオアルマジロがヨタヨタと足元をふら付かせ口から吐瀉しながらゴロンと転がって苦しそうに痙攣しはじめた。
もう放置しても大丈夫だろう。
ナンバーとライアに上手く翻弄されている子供らしき個体は一先ず放置し、マーモット達を追い回しているミツビオアルマジロに狙いを定める。
追いかけまわしているミツビオアルマジロはまだ仲間がやられた事に気が付いていないようだ。
それどころか自分たちがヤラれる事など微塵も考えていないだろう。
ちなみにユーナはマーモットの子供を両脇に抱え木の裏から状況を見ながらヨトに文句を言いつつ隠れている。
「ヨト、そいつの動き早く止めろよ!」
「だから無理だって!」
ミツビオアルマジロから逃げるようにマーモット達がワラワラと駆け回っている。
まだ大人になりきれていないマーモット数匹は、ミツビオアルマジロの危険性が分かっておらず、追いかけっこが段々楽しくなって来たようで短い尻尾をぶんぶん振っている。
ユーナが両脇に抱えているマーモットも参加したいのか暴れ出した。
「ちょっ大人しくしてなさいっ! お兄ちゃん早くしてっ!」
「分かったよっ!」
ヨトは置いていた荷物籠に走ると甲羅盾を置きロープを取り出す。
序列戦で使った時のまま輪っかになっているのを確認すると、ミツビオアルマジロを追いかけて投げかける。
「くそっ、掛からん」
追いかけながらロープの輪を投げ付けるが全く思い通りにいかない。
しまいには周囲のマーモットに引っ掛かって慌てて取る始末だ。
グダついている所にミツビオアルマジロが襲って来て、大急ぎでワーッと逃げる。
気付けばユーナも一緒に両手を上げてワーッと逃げていた。
抱えていたはずの子供も飛び跳ねながら楽しそうに走り回って逃げている。
「……いや、何やってんだよ」
これにはセシルも呆れる他なかった。
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