第189話 信者
ロディとカーナの2人が教会に向かうと、神殿騎士の知った顔がちょうど教会側に向かっている姿が目に入った。
神殿騎士としては珍しい、女騎士のリマだ。
「リマ様、こんにちは」
「ん? あぁ、こんにちは。ロディ殿とカーナ殿ではないですか。今から礼拝ですか?」
「それもあるのですが、ちょっとお尋ねしたいことがありまして、今お時間大丈夫ですか?」
「時間は大丈夫ですが……私に聞きたいことでも?」
リマは不思議そうな顔をする。
「リマ様個人と言うより教会の判断を訪ねたいと言いますか」
「? 私に答えられることであれば」
「ありがとうございます。リマ様はディビジ大森林で見付かった迷宮についてご存知ですか?」
「えぇ。それはもちろん。騎士の間でも毎日の様に話題に上がりますよ。それがどうされたのですか?」
「神殿は迷宮探索には行かれるのですか?」
「そうですね。教国からすでに迷宮に向けて出発していますし、シルラ領側からも向かう事が決まりまして、私も行くことになっています」
「あっあのっ、もし、もしセシルの、私たちの息子の情報が手に入れば欲しいのです。ディビジ大森林で目撃情報があって以降何も情報が無く……どんな情報でも良いので。お願いします」「お願いします」
リマは必死に頭を下げる2人の姿に憐憫の眼差しを向けるが、意識して笑顔を作り返事をする。
「そういう事でしたら、もちろん協力させていただきますよ」
「「ありがとうございます!!」」
「ただ、我々にも任務がありますゆえ、セシル殿の捜索の為の時間を割くのは難しいと思うのです。そこはご了承いただきたい」
「それはもちろんです。情報をいただけるだけでも……」
「あっあのっ!」
カーナが何かを思い付き、ロディの言葉を遮る。
「どうしました?」
「あの……私たちも付いていく事は出来ないでしょうか?」「おっおいカーナ」
カーナの突然の予定にない発言にロディが驚く。
「それは……」
「荷物持ち、料理、現地での食材採取など下働きをなんでもやらせていただきます! お願いします」
「なるほど……たしかに現地での食材の見分けが出来、さらに自分で自分を守れる人物は希少かもしれませんね。しかし、付いてきても捜索の為の自由な時間は取れない可能性が高いですよ?」
「はい。それでも大丈夫です。少しでもセシルの生きている痕跡を見付けられる可能性を信じたいのです。あなたも賛成してくれるでしょ?」
「あ、ああそうだな。リマ様お願いします」
改めてロディとカーナは頭を下げる。
「分かりました。隊長に掛け合ってみます。ただし、まだ行けると決まったわけではないですからね? さらに報酬は……最低限な食事以外は出ないかもしれません。食材も馬車でそれなりに持っていく予定ではありますが、それでもディビジ大森林では現地調達に頼る分も多いと聞きますし満足に食べられない可能性もありますよ? それでも良いですか?」
「もちろんです! 連れていっていただけるだけで有難いです。よろしくお願いいたします!」「よろしくお願いいたします!」
リマは2人の手を取ると、優しく話しかけた。
「きっとお二人はアポレ神様のご慈悲に賜れますよ。私も微力ながら全力を尽くさせていただきます」
「「ありがとうございます」」
その後すぐにリマが上役に掛け合いロディとカーナも神殿側に帯同する事が決まった。
実はディビジ大森林には神殿騎士のみならず奴隷を多数連れて行くことになっていたが質の問題を抱えていたのだ。
冒険者上がりの犯罪奴隷はそれなりに戦えるが、反乱や逃亡の可能性を考えると武器を持たせるわけにはいかず、ロディとカーナの様に教会に好意的で戦える下働きの申し入れは渡りに船だったのだ。
だが、リマはそんな内情は言わず帯同の許可のみを知らせると、2人はリマが苦労してねじ込んでくれたと勝手に勘違いし感動で打ち震えていた。
ロディとカーナは神殿騎士に助けられて以来、神殿騎士の気高い振る舞いや神父様の優しい言葉にボロボロだった心が癒され、教会に依存していたが今回の件でさらに依存度が増していく。
2人はセシル捜索の為にディビジ大森林に行くお金を少しずつ貯める事を目的としており、お世話になっている教会への喜捨が全然出来ていなかった事に心苦しく罪悪感を覚えるほどだったが、ディビジ大森林への切符が手に入った為、少しずつ貯めていたお金を神殿への恩返しに使えるようになった。
早速、ほんの少し、お小遣いにも満たない少額を喜捨しようとしたが、それをあろう事か神父様が止めた。
「まだセシル殿は見付かっていないのです。喜捨する段階ではないでしょう?」
「なんと慈悲深い……」
2人は感動で続く言葉が出ない。
「そうだ! お2人のお役に立てるようこちらのお札や腕輪はいかがでしょうか? きっとアポレ神様もお助けくださいますよ」
まさか喜捨さえ断られると思っていなかった2人はあまりに高潔な神父様に感銘を受け、涙ながらにお礼を言うと、自分達に役立つ物ばかりを購入する事に恥ずかしさと罪悪感を覚えつつもご利益のある商品を生活費ギリギリまで購入していった。
翌日、ロディとカーナが教会の小間使いとしてディビジ大森林にいく事をバッカとテリーに報告をする。
「神殿騎士に同行?」
テリーが深く思案し始めた。
問題があったかと不安そうにロディ達が見ていると、
「なぁ、神殿騎士たちはディビジ大森林の通行に慣れていないだろう?」
「ん~どうでしょう。私は詳しく知りませんが、たしかに勤務内容からするとおそらくほとんど経験ないんじゃないでしょうか。シルラ領付近のディビジ大森林を最近調査していたくらいですので。何より帝国と行き来する事はあり得ないと思います」
「なるほどなるほど。これは良い。良いぞ」
「おい、1人で納得してないで俺にも説明しろよ」
「ああ、俺達のチームにはディビジ大森林の護衛をメインの職業とする冒険者達もいるだろ?」
「それがどうした」
「一緒に行けば良いんだよ。教会組とよ」
「何の意味があんだよ」
「そりゃ、聖騎士団がいれば安全……でもねぇか」
「いくら鍛えていようが大森林の素人が増えるだけじゃねぇか。お守りなんかしてられるかよ」
「その通りだな。まあ、俺達も素人だけどな」
「騎士団に先を越される前に行くぞ。出発を早めるぞ」
こうしてバッカ軍団が大慌てで準備し翌日の朝には先行し出発すると、そのさらに翌日聖騎士団がディビジ大森林に向かったのだった。
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