第188話 バラック軍団
スマフ達とセシルが遭遇したその日。
セシルの岩山ハウスから数日の距離にはバッカ率いるバラック軍団、少し遅れて王国発の聖騎士団、そこに随伴するセシルの両親、ロディとカーナの姿があった。
ロディとカーナの首にはそれぞれ不幸を打ち払うネックレス、腕には幸運を寄せ付けるブレスレッド、ボロボロの服には願いが叶うお札が縫い付けてある。
ゴリゴリの信徒になっていた。
――経緯はこうだ。
【トラウデン王国 シルラ領】
ここで、1人の男が気合を入れていた。
バッカ改めバラック、されどバッカだ。
「おいトリー、俺はやるぞ」
「何だ? まあお前の事だ。予想は付いているがな」
「お前なら分かってくれると思っていたぜ」
「予想が付いているだけで話も聞いてないし同意もしていない」
「せっかちな奴だなぁ。まあ、落ち着いて聞きなさいよ」
ギリッ トリーが思わず歯を食いしばる。
バッカと幼馴染の温厚なトリーでさえ、いまだにイラッとさせられる事は多い。
「……お前は人をイライラさせる天才だな。最初から聞いてやるって言っているだろうが」
「おいおいテリー、いいか? 良い事を教えてやる」
「……なんだよ」
「短気は損気だぞ」
「お前っ!……くそっ! 謎のドヤ顔すんじゃねぇよ。あ”ぁ~ストレスが溜まるぜ……とりあえずさっさと話せ」
「話せって何を?」
「……っあぁーっ!!」
テリーは思わず叫び、一度ストレスを発散させる。
「なぁテリーよ。お前、時おり突然叫ぶ事があるが、バカに見えるから止めた方がいいぞ」
「……ッ……あぁーっ!! くそっ! くっそっ! いいから最初の話をしろよっ! どうせあれだろ? 迷宮のお宝を手に入れに行きたいとか言い出すんだろ!?」
「おっなんだ。お前もやる気だったか。話が早い。そうだ。俺は迷宮で一山当てるぞ。なぁ、大金手に入ったらどうする?」
「気が早すぎるだろ。いや、ちょっと待て。そもそもどうやって行くつもりなんだ?」
「どうって? 普通に行きゃいいだろ」
「お前、歩いて行ける距離だと思っているのか?」
「いやいやいや、お前……ぷっ、ぎゃーはっはっはっ」
バッカが突如大笑いし始める。
テリーは笑われる意味は分からないが、馬鹿にされている事だけは分かる。
怒りを耐え、こめかみがピクピクとなる。
「……なにがおかしい」
「お前、だって、ぎゃーはっはっはっ「歩いて行ける距離だと思っているのか?」だって? 大河でもない限り、歩きゃいつか着くだろうが! どこでも歩ける距離だっての! ぶふーっ」
「バッカ、まさか……しばらくここで生活していたのにディビジ大森林の事を何も知らないのか?」
「バラックだ。なんだ? 距離が遠く途中で休憩する村が無いだけだろ?」
「はぁ~。お前分かってないな。いいか? 休憩する村が無いって事はだ。それなりの食糧を運ばなきゃならん。ポストスクスに荷車を引かせるか背負わせて運ばにゃならん。足りない分は現地調達になる」
「食料は虫でも捕まえりゃ問題ないだろ。荷物減らして馬で行けばいい」
「そう甘くないんだよ。ポストスクスじゃないと魔物が襲ってくる可能性が高い。魔物避けが効かない様な強力な魔物が襲ってくるんだぞ?」
「じゃポストスクス使えばいいだろ」
「ポストスクスは今、迷宮ブームもあって金のある商人が押さえている。領主も動き出してるという噂もある。圧倒的に数が足りん。それにたまたま空きが出ても俺達に借りられるような値段じゃねぇよ」
「ふ~ん」
「ディビジ大森林に行く事の難しさが分かったか?」
「なぁ商人の護衛として行けば良くないか?」
「お前の冒険者ランクはまだ鉄級じゃねぇか。俺も銅級。シルラには銀級どころか金級がゴロゴロいるんだぞ。俺達が護衛に付けるはずないだろ」
「銀級と金級は依頼料が高いだろ? 安く仕上げたいって奴もいるだろ」
「ぬっ……そう言われると、可能性あるか?」
「それかよぉ。うだつの上がらねぇ商人と冒険者集めて金出しあったらいけるんじゃねぇのか? ポストスクス1体で後は馬を使うとかよ」
「なるほど……お、お前、ほんとにバッカか?」
「バッカなんか最初からいねぇよ。天才バラック様だ」
「あるな……全然あるぞ。行ける。そうだ行ける! よしっ! 俺達もこれで金持ちになれるぞ!!」
バッカのお目付け役としてまともな人間に見られがちなテリーだが、バッカと冒険者をやらざると得ないくらいだ、決して賢いとは言えない。
冒険者をやる若者として夢見がちな所もある。
バッカに説得されて、もう脳内は金持ちになった時の事を考え始めた。
――賢くは無いが、2人に共通して行動力は非常に高かった。
すぐさま動き出し、数日のうちにうだつの上がらない冒険者(バッカが勝手に決めつけている)を集めてバラック軍団が出来上がったのだ。
迷宮に行きたい冒険者は多かったのだ。
ちなみにバラック軍団の名称はバラックが名乗っているだけで、誰も認めてはいないし実力も階級もほぼ全員が上だった。
バラックから声が掛かったうだつの上がらない冒険者の中にはロディとカーナもいた。
「せっかくのイルネ様との縁だ。おっさん達も参加しねぇか?」
予想外の展開にロディとカーナは目を合わせる。
「……少し、時間をくれませんか?」
「ああそれは良いが」
「ありがとうございます」
「だが、近いうちに出発するぞ。あっしますよ。馬の手配などもあるので明日には返事が欲しいです。行くにしても行かないにしても俺に声をかけてくれ、さい。絶対バッカに声かけないでくださいね。コイツは全く把握してないんで」
「分かりました。えーっと」
「俺はテリーです」
「分かりましたテリーさん。それと敬語じゃなくて大丈夫です」
「それは助かるが、賢者の卵の親って貴族みたいなもんじゃないのか?」
「いえ、私たちは賢者の卵の親ではなく平民のセシルの親です」
「そっか。じゃああんたらも敬語じゃなくていいぜ。そもそもなんで俺達に敬語なんだ?」
「セシルの情報をくれるかもしれない人に横柄な態度は取れないと思いまして。ここ数年貴族様や神殿騎士の方と話す事も多いですし」
「なるほどなぁ~まあ頑張って。じゃ明日返事くれよな。ギルドの近くにいると思うわ」
「はい。分かりました」
――バッカ達と離れたロディとカーナは安宿に戻ると深刻な顔で話始めた。
「迷宮に行くのは辞めようって話し合って決めていたが、今回の話は良い話だと思った。どう思う?」
「そうね。皆で費用を出し合うのよね。良い話だと思うわ。でも参加するメンバーが気になるわね」
「ああ。気性が荒い連中が多いからな。しかも実力があるのが厄介なんだ」
「……そう言えば、まだ教会がどうするか聞いてなかったわね。今から聞きにいかない?」
「そうだな。教会の話を聞いてからでも良いかもしれない。情報も教会の方があるだろうし、何より力があるからな」
教国が一度目の遠征でディビジ大森林から逃げ帰った事はまだ一般人には伝わっていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます