第89話 血魔法


「よし! 今日も頑張るぞぉ!!」

「ナー」ぴょんぴょん


 くっ付いて寝たので、暑さでびっしょり汗をかいて目覚めたが元気一杯だ。


「今日は、ライムの血を吸い取る実験と、僕の血魔法の実験をするよ! 後は川沿いに移動しながら、住みやすい場所を探そう」

「ナー」ぴょんぴょん


 セシル達は川まで戻り、ザバっと頭を水に浸けて汗を流すと上流に登って行く。

 上流の方が水が綺麗である可能性が高く、生活に向いていると思われるからだ。


 しばらく登って行くが、川幅はほとんど変わらず50メートルはありそうだ。


「うっわ。まーたゴブリンいるよ。どうしよう。殺したらまた狼達がワオーンだよ」


 ゴブリンを迂回し避けながら上流に移動する。

 まだ朝一のためか、ゴブリンは2匹しかいなかった。


「よし、結構離れたし、ここからゴブリンヤッちゃうか」


 そう言いながらゴブリン達が見える高岩に登っていく。マーモは鎖で引き上げる。ライムは意外に自分だけでどこにでも登れる。

 岩は大きく、狼などの四足歩行の魔物では、登るのが難しいであろう高さだ。血の臭いに誘われてやってきても、これなら安全を保てるだろう。

 座りの良い場所に腰かけると、川に入っているゴブリンに向かって、ライムたちと一緒に斥力の魔法を使う。


「ゴブリンから血が出たら、血の魔法使うから斥力の魔法止めてね」

「ナー」ぴょんぴょん

「手前のゴブリンから!」


 魔法を放つ。


 ギャアアアアアア


 昨日のゴブリンと同じように、斥力魔法の痛みから逃れようとして川べりの苔で滑り転倒する。


 グゲェッ

 ギャアアアアア


 斥力魔法が貫通したようで川にゴブリンの血が流れ始めた。


「よし、血魔法使うよ!」


 セシルは自分の血を集めるイメージをしてから飛ばし、ゴブリンの血を集めていく。


 ……はずが、どうもゴブリンの血を集められないようだ。


「あれ? おかしいな。遠くだから見えてないだけかな? 集まってないように見えるな……当たってるよね? ん~血魔法の実験中止。斥力で止めさすよ」

「ナー」ぴょんぴょん


 すぐさま斥力の魔法を打ち直し、ゴブリンに致命傷を与える。

 残りの1匹も逃げようとしてた所を、足元を狙い転倒させてから致命傷を与えた。


 セシル達からも斥力魔法は見えていないが、学院にいた時も時間さえあればずっと魔法のコントロールを行っていた為、かなりの精度がある。

 火魔法や水魔法であれば、現象自体が目に見えるので、操作は簡単だ。


 ワオーーーーーーーン


「はっや!! もうワオーン来た! 倒しやすそうだったら、ご飯用に殺そうかな」


 岩の上で狼の魔物を待っていると、狼の代わりにのそのそとサーベルタイガーがやってきた。


「でっっっか!! 嘘でしょ? この辺、あんなのいるの!? サーベルタイガーってやつだよね?」


 サーベルタイガーが川辺で弱っていたゴブリンを食べ始めると、それを囲むように5匹の狼が現れる。

 しかし、サーベルタイガーが食べてる間も、威嚇はするももの一定の距離を保ち襲う事は無く、おこぼれを与るつもりのようだ。


「これ、サーベルタイガーを倒すチャンスかな? 狼が囲んでるから斥力魔法から逃げられないだろうし、怪我さえさせれば狼が襲うでしょ? そしてそれを襲ってる狼を……わたくしめの魔法でイチコロよ。どう思う?」

「ナー」ぴょんぴょん


「賛成多数で可決です。やろうぞ!」

「ナー」ぴょんぴょん


「避けにくそうだし、お腹狙おうか! いくよー! はっしゃー!」


 可愛らしい掛け声と共に、無慈悲な魔法が放たれる。


 魔力の匂いを感知したサーベルタイガーがゴブリンを食べるのをやめ、その場を離れようとするが、狼が囲んでいる為、安易に動けない。


 狼も魔力を感知した方角からは微妙に移動したが、サーベルタイガーからは目を離さず警戒している。


 サーベルタイガーは身体が大きく、逃げ場も少ない為魔法が命中してしまう。


 ギャンッ


 身体を捻じって痛みから避けようとするが、胴を狙った魔法を避け切るのは難しい。

 このままではまずいと思ったのか、魔力の匂いがしてきた方に向き直り、威嚇で狼を散らすと猛烈なスピードで走り出す。


「きっ来た! やばいやばい! 魔法出し直して、顔に当てて!!」


 出していた魔法を一度切り、改めて向かってくるサーベルタイガーに魔法を放つ。

 しかし、サーベルタイガーは嗅覚が鋭いのか、魔法が来るのを察知すると走りながら大きく躱す。


「やっやばいやばい!! まっ魔法をぐるぐる回しながら飛ばして!!」


 再度魔法を出し直し、当たる範囲が広がる様に魔法をぐるぐると横に大きく回しながら飛ばす。

 4本の魔法が大きくぐるぐると回っている事で、魔力の匂いの位置が不確かになり、サーベルタイガーは慌てて足を滑らせながら止まる。


 止まった事にホッとするが、すでにセシル達が乗っている岩との距離は5メートル程しかない。


「僕が後ろから魔法寄せるから、ライムとマーモは魔法回したままで前から攻めて」

「ナー」


 前と後ろから囲う様に魔法が襲って来たサーベルタイガーは、魔法を当たるのを覚悟でグラアアアアアと威嚇するように叫び、前に飛び出す。


 しかし、ライムとマーモの魔法が正面から突き刺さる。


 グオオオオオオ


 岩に飛びつこうとしていたが、痛みからか地面を蹴る最後の一蹴りがまともに出来ず、岩の半ばに顔からぶつかり、地面に転げまわる。


 セシル達はここぞとばかりに斥力魔法を心臓付近に打ち込む。


 ズチッ

 ガアアアアアア


 サーベルタイガーの皮は硬くなかったようで、比較的早く斥力魔法が突き刺さる。

 しばらく心臓付近を攻め続けると、サーベルタイガーは動かなくなった。


 岩の上から動かなくなった巨大なサーベルタイガーを見て、セシル達は今になって恐怖で身体がガクガクガクと震えてくる。


「こっ、こっわー……怖すぎでしょ。先にオシッコしてて良かった。……ちょっと漏らしたけど……あっマーモはガッツリ漏らしてんじゃん」

「ナァ~」

「ぷぷっ可愛い奴め! おーよしよし! 照れてるのかい? おーよしよし!」

「ナァ~」


「あっ血抜き忘れてた! 血魔法!!」


 血魔法でサーベルタイガーの血を集めようとするが、一向に集まらない。


「……やっぱり血魔法無理みたいだね。何がダメなんだろう? ライム、血吸える? 狼に気を付けてね」


 ライムが岩の上からぴょんとサーベルタイガーに飛び乗り血を吸い始める。

 ライムの身体がみるみる赤く染まる。


「おっいいね! どんどん吸っちゃって!」


 すると、もう無理とライムがフルフルと身体を振る。


「あーサーベルタイガーデカすぎるのか。今日も切り取るしかないね。狼達はゴブリン食べて満足したみたいだけど、他の魔物が来るかもしれないから早めに処理して離れよう。マーモ、今の内にお肉食べてていいよ」

「ナー」


 セシルは魔石を回収し肉を切り取りながら、また肉を焼く場所を作る必要があるな。と考えた所で、ふと思い付く。


「岩の上で焼こう!! 僕がお肉焼くから、ライムとマーモは風の魔法でお肉の匂いが上に上がるようにしてくれる? ……あー小さい風しか出せないし余計匂い広まっちゃうかな? 岩の上なら何か襲ってきてもどうにか対処出来そうだし、普通に焼いても大丈夫か。風の魔法はいいや。燃やす木、集めて貰える?」

「ナー」


 岩の上に移動し、肉を木串に刺し焼き始める。

 保存用と、その場で食べる分だ。


「おー! サーベルタイガー美味しいねぇ。殺したてだからかな? お腹のお肉やわーいい。魔物寄って来なかったら、後でもうちょっと切り落としておこう」

「ナー」ぴょんぴょん


 もきゅもきゅと肉を食べながら血魔法を考察する。

「しかし、なんで血魔法使えないのかな~。あっそういえば『魔力もみんな同じようだけど、人によって異なってるから、魔力を奪う事出来ない』って習った気がする。血も人や魔物によって違うのかな? 見た目は一緒だけどなぁ」

「ナー」

「それにしても、サーベルタイガーは怖かったね。もうちょっと強くならないとここで生き残れなさそう。そう言えば、ライムとマーモって今は魔物の中でどれくらい強いんだろうね? なんか2人ともデッカくなったよね。マーモなんて角生えて来てるし……狼相手なら勝てる?」

「ナー!」ぴょんぴょん

「おー! やる気に満ちてるね。今度数が少ない狼がいたらやってみる?」

「ナー!」ぴょんぴょん

「怪我しちゃだめだよ。よし! じゃ今日も上流に向かって歩いて行くか!」


 魔物が近くにいないか確認しながら、鬱蒼とした森の中を歩いて行く。

 川沿いを歩いた方が歩きやすいが、魔物から見付かりやすくなってしまうため、仕方なく川から少し離れて森の中を進む。サーベルタイガーを見てから、ビビっているのだ。


「う~歩くのシンドイねぇ。帝国に繋がる道があったはずだから、そこを探して歩くかな?

そしたらまた川を見失うかも知れないのが悩ましい所。とりあえず今日はこの辺で寝床を作ろう」


 いつものように土壁を探し寝床を作ると、ご飯を食べて就寝した。

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