第7話 魔力結果発表


 ルーレイが魔石を受け取り確認する。


「ふむ。トール君のご両親は来ているのかな? ああ、そういえばさっき、2人とも声援が飛んでいたな。ご両親を呼んできなさい」

「おとー! おかー! こっちに来いって!」


 トールの両親が慌ててやってくる。


「お待たせしました」

「トール君の魔力は平民の平均よりほんの少し多いくらいかな。魔術師になるのは難しいが、魔法を覚えると生活が楽になるから教えてあげなさい」

「はいっ」

 とトールの両親が頷く。


「トール君も最初は魔法を使いたくて仕方ないだろうが、絶対に1人で使わない事。ご両親も周りの安全を確認して、必ずどちらかが見ている所でしか使わせないように徹底するように。それと最初は少しずつ魔力を使わせる様に。幼い頃から無理して使っていると魔力漏れをするようになって将来使えなくなってしまう可能性があるからね」

「はい。分かりました。気を付けて教えます。ご指導ありがとうございます」


 トールの両親が頭を下げて戻って行った。トールは椅子に座ったまま待機だ。

 ルーレイがセシルの方を見る。


「……っ!? まだ魔力を入れているのか!?」


 びくっとしてセシルが答える

「ヒッ……はい。ダメでしたか?」


「ああすまん。驚いただけだ。体調は大丈夫か?」

「はい。大丈夫です」

「魔力をたくさん使ったな。といった感覚は?」

「ん~よく分からないです」

「そのまま続けて」と言いルーレイが魔石の色を確認する。


「これは……もう十分だ。魔力を止めて良いよ。セシル君のご両親も来ていたね。呼んでもらえるかな?」

「はい。お父さん! お母さん! 来て!」


 トールの両親を見ていたので、ロディとカーナもスムーズに現れるが、セシルの測定の時のルーレイ様や騎士様達の様子がおかしかった為、ロディもカーナも緊張した顔をしている。


「はっきり言おう。大賢者様の再来かもしれん」

「……えっ?」


 ロディとカーナは固まった。

 セシルはルーレイと両親をきょろきょろと見る。何が起きているか理解が出来ていないのだ。


「まあその反応も頷ける。引力と斥力両方使えるなんて前例が無いのだよ。ああいや前例があるにはあるのだが、それが歴史の資料に載っている大賢者様しか居ないのだ。しかも魔力量もかなり多いと見た。お友達の魔物もいる……正直、私もこんなのは初めてでね。まず間違いなく特待生として学院に通う事になる。入学の2~3か月前くらいに学院まで送る馬車がやってくるので準備しときたまえ。もちろん騎士の護衛も来るので安心して欲しい」


 ロディとカーナの脳みそが動き始めると二人で見つめ合い

「やっぱりうちの子は天才だったのよ!!」

 と二人で抱き合う。

 その後はセシルを挟むように一層激しい抱擁だ。

 周りで見ていた村人も遅れて大騒ぎだ。


「僕凄いの?」

「凄いよ! それもとんでもなくな!」


 ロディがセシルの身体を持ち上げてクルクルと回転する。


「ちょっ! ちょっっと!! 父さん! ルーレイ様の前だよっ!!」


「あっああ!? 申し訳ございません」


 二人と一緒にセシルも頭をペコペコ下げる。


「はっはっはっ構わんよ。そりゃそうなる。ただ、ちょっと問題があるんだ」

「問題……ですか?」


 ロディの顔が引き攣る。先ほどの浮かれっぷりを思い出し、段々と顔色も青くなってくる。

 先ほど構わんよと言って貰った事をもう忘れているようだ。


「ああ。恐らくだが、この噂は国中に広まる。ここが辺境領の中でも田舎なので多少の時間はかかるだろうが、噂を止める事は出来ないだろう。そして、恐らくその噂はこの国だけに収まらないだろう」


「はぁ……」

 ロディはまだ何が問題なのか理解できていない。


「杞憂だったら良いのだが、貴族からの自領への誘致はまだ良いが、他国の場合は武力行使に出る可能性がある。両親を人質に取ってセシル君を利用しようとしたりな」


 ロディとカーナが先ほどより青い顔になる。

「えっ? 僕のせいで父さんと母さんが悪い目に合うんですか?」


「可能性の話だ。そこで領主様に言って騎士を何名かこの村に住まわせて、警護と、セシル君の読み書きの勉強、後は念のためにセシル君とご両親に最低限の剣術の稽古もしてもらおう。本当は領主様の町で保護するのが一番だろうが、農作業もあるだろうしな。残念ながら騎士への命令権は私は持っていないので、一度領主様にお伺いを立ててからとなるがよろしいかな?」


「はっはい! もちろんです! そこまでしていただいてありがとうございます!!」

 両親がペコペコと頭を下げる。


「騎士が住む家が必要だな。村長殿はどちらにいらっしゃるかな?」


「村長ー! 村長ー!!」

 ロディが周りを見渡しながら叫ぶ


「うるさいっ! そんなデカイ声で呼ばんでも聞こえとるわ!」


 すぐ近くで耳をそばだてていた村長が2、3歩前に出て来た。

 見た目は50代後半と言った所だろう。細身で白髪交じりの髭を生やしている。

 村で長寿だと持て囃されている婆様でも60代半ばなので、村長も長生きの部類に入る。


「騎士様の家ですね? ん~今ルーレイ様が泊まられている空き家しか空いている家が無いのですよ。その家も個室は2部屋しかないですからね。騎士様達がセシルの入学まで約8カ月程度利用するとしたらちょっと手狭かもしれませんな」


「そうか。簡易的な小屋を1軒建てても構わんかね? 毎年の選定の儀でもその小屋に泊まるようにすれば、村としては気を遣わんで良かろう」

「ははぁ。お気遣いありがとうございます。領主様側で手配していただけるなら何の問題もございませぬ」

「うむ。では後で隊長に空いている土地を教えておいてくれ。あぁ。セシル君が入学するまでは、今使わせて貰っている空き家も使わせて貰うのでそのつもりで。動き始めるのは領主様の許可を貰ってからだが、1週間以内には動き出すと思う。そのつもりでよろしく頼む」

「承知ししました。食料品を扱うお店にも取引を増やすようにお願いしておきます」

「ああ。頼む。大丈夫だとは思うが万が一、騎士の常駐が叶わなかった場合は、余分に購入した食糧だけは買い取りに来るので安心して手配してくれ」

「何から何まで気を遣っていただいてありがとうございます」

「いや何、領民を困らせる様な事をしたらうちの領主様に怒られてしまうのでな。はっはっはっ」


 セシルには何が起こっているのか、よく分からないまま物事が進んでいく。


「父さん、僕どうしたらいいの?」

「ん……ん~……分からん。母さん、どうしたらいい?」

「あなたしっかりしてくださいよ! 私にも分かる訳ないでしょ。とりあえず分かっている事を整理するわよ」

「おっおう」


「とりあえずセシルは天才。これは間違いないわ。私たちの子だから当然よね。元から分かっていたけれど、お墨付きを得たわ」

「まあ分かっていた事だな。だって俺たちの子なのだから」


 確信があったような事を言っているが2人ともただの農民で、先祖も本人も特別な力は何もない。

 強いて言うならば元気とポジティブが取り柄である。


「ええ。それは当然の結果として、次ね。私たちを守るために騎士様がこの村に駐在してくださるみたいね」

「そうみたいだな。領主様の返事を待ってからみたいだが、ルーレイ様の様子を見るとほぼ決まりみたいだな」

「ええ。そして、セシルに読み書き剣技を教えて下さる事と、剣技に至っては私達にも教えて下さるみたいね」

「ああ。辺境の地だから魔物を退治した事はあるが、自慢じゃないが鍬しか持った事ないぞ」

「そんなの私もよ……あっ3人分の剣を買わないといけないのかしら……?」


 カーナがロディに顔を近づけてひそひそ声で「家にそんな蓄えないわよ?」と話す。


「そうだな……正直1本買うのも危うい。木剣で良いなら作るが。その辺りは聞いてみよう」


 カーナがロディから顔を離して元の距離に戻る。


「では次ね。大事なのはセシルと一緒に居れる時間が後1年も無い事よ。1分1秒を惜しんで目一杯……いや命一杯愛情を注ぐしかないわ」

「そうだな」


 そう言うと2人してセシルを抱きしめ始めた。

「もうっ!! だから! まだっ!! ルーレイ様の前だってのっ!!」


 2人はハッとなりルーレイ様に頭を下げる。

「「申し訳ございません」」


「はっはっはっ良い家族だな。何か聞きたい事はあるかね?」

「あの~その非常に言いにくいのですが、セシルの読み書きに使うような紙や剣術に使う剣なども持ち合わせておらず、さらに購入するような資金も持ち合わせておらず……」


 ロディの声が後半になるにつれてボソボソと小声になる。


「そうか。そうだな。失念しておった。紙は高級なので書きの練習は地面になってしまうだろう。読みの方は領主様に本を貸し出していただくので問題ない。領主様にはセシル君の1つ上の年にリビエール様と言うご子息がいらっしゃるので、それを借りられるハズだ。剣の練習は木剣で構わぬが、自衛の為に剣を学ぶのに、肝心の剣を持ってないでは話にならないからな。そこは領主様にお願いしておこう。隊長殿よろしいかな?」


「はっ! 恐らく問題ないかと。私の方で両方手配しておきます」

「ありがとうございます。それとここまでお世話になるのに大変言いにくいのですが……」

「なんだね? 言って見なさい」

「あの~その……お恥ずかしい話、勉強の時や稽古の時におもてなしするような物も出せるような余裕もなく……」

「こらっ!! そんな事をルーレイ様に言うでない!! すみませんルーレイ様、精一杯おもてなしさせていただきますので、ロディも悪気が合ったわけでは……何卒ご容赦を」


 ロディを叱りつけた村長が、不敬を詫び頭を下げる。

 ロディの言葉は上の立場の者が便宜を図ってくれているのに、持て成すつもりはないと言ったような物である。ルーレイ様は次男とは言え貴族の出、騎士達は準貴族で平民より位は高い。不敬罪に問われても仕方がないのだが、辺境の村でお金に余裕がないのも痛い程理解している村長は、どうにかロディが罪に問われないように頭を下げてくれているのである。

 それを見たロディが自分の失態に気付き、慌てて地面に膝を付き頭を下げた。

 カーナも慌ててそれに続く。


「大変。大変申し訳ございません。決して歓迎しないというわけではなく……」

「頭を上げなさい。辺境の村の経済状況はだいたい把握しておるから大丈夫だ。水か茶くらい出してくれれば良い。それ以上は求めんし、求めさせないから安心しなさい。水と茶は出せるであろう?」

「もちろんです! 精一杯お茶を入れさせていただきます!!」


 ロディの言葉にカーナと村長もまた一段と頭を下げる。


「はははっそれはお茶が楽しみだな。我々はおもてなしなぞ無くても、ちゃんと領主様からお給金はいただいているのだ。そんなに畏まる必要はない。領にとって、いや国に取ってプラスになると思われるから行われる……そう。言わば投資だ。だから気にする必要はない。セシルが立派に成長したら役に立ってもらうさ」


「ありがとうございます」

 ロディとカーナも立ち上がって改めて頭を下げた。


「セシル、恩に報いる為これから頑張らないとねっ!」

「はい! 母さん! 頑張ります!」



 こうして表面的ににこやかに選定の儀が終わったが、セシルの心に楔が打たれた事にセシル本人を含め誰も気が付くことは無かった。



 その日の夜も村から大賢者様が出たと大騒ぎの宴がひらかれた。セシルの元に大人たちがたくさん集まってきたが、セシルの食事が終わるとロディとカーナがすぐ家に帰し守った。

 セシルはルーレイや騎士達には恐怖を感じなかったが、まだ村の男達が来るとセシルの目に恐怖の色が見て取れるのだ。


 翌日にはルーレイと騎士たちは次の村に向かい、1人は別のルートで領主様に先触れで連絡をしに行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る