第140話 家の奥の洞窟
セシル達はゴブリンの集落からの帰宅中、いくつかのゴブリンの見回りを見付けたが、避けながら家に戻ると家作りを再開した。
ゴブリンを全滅させる事を辞めた事で、またゴブリンがこの家に入ってくる可能性が高い。
「何か罠でも作ろうかなぁ。削ったブロックが余ってるから、それを使って侵入者を防ぐ罠作れないかな?」
罠をどんな形にするか悩みながらも、とりあえず広さは必須になるだろうと考え奥に掘っていく。
その時だった。
ボコッと言う音と共に掘り進めていた壁に穴が開いたのだ。
「えっ!? 何?」
開いた穴の中を覗くが真っ暗で中が見えない。
周りの岩も削り、顔程の大きさまで穴を広げると穴の中に雷鎖をジャラジャラと垂らして雷魔法で光らせる。
バチバチバチッ
雷鎖の光に照らされた先には大きな空洞が広がっていた。
「……えっ!?」
穴の中からスーッと冷たい風が流れてくるのを感じる。
しばし絶句した後、慌てて周りの岩も削っていこうとした所でまた手を止める。
「やっぱりここを開けるのは明日の朝からにしよう。奥から何か出てきたらと思うと怖くて眠れないもんね」
「ナー」「ピー」「ピョー」
「よし、じゃあ夜ご飯を狩りに行こうか」
もう一度外に出て夜ご飯の狩りをしに行くことにした。
「久しぶりに鳥食べたいなぁ」
セシルは鳥を探しながら歩く。
弓矢も無いし鳥を捕まえることは無理だと決めつけていたが、魔法ならいけるのではないかと思ったのだ。
以前ブルーシマエナガのバーキンが魔法の練習中に寄ってきた事を考えると魔力に対する嗅覚が鋭いのかもしれないが、ブルーシマエナガが鋭かったからと言って他の鳥も鋭いとは限らない。
「もし鳥がバーキンみたいに僕の魔力の匂いに寄って来たらどうしよう。そんな鳥がいたら捕りやすいけど食べるのは躊躇するね」
「ナ~」「ピ~」「ピョ~」
「あっ、いた。静かにね」
セシルは目立たない様に木に隠れると、場所を確認し直し斥力魔法を放つ。
マーモ達はセシルの後ろで見守っているようだ。
木に止まっていた鳥に斥力魔法を見事に当てることに成功したようだが、鳥はビクッとした後普通に飛んで逃げて行ってしまった。
「あっ……そりゃそうだ。体軽いし逃げ道があればすぐ逃げられるよね」
「ゲヘヘ」「ピッピッピッ」「ピョッピョッピョッ」
「あーまた馬鹿にして! 皆の斥力魔法で取り囲みたいけど的が遠いし小さいから難しいよね。どうしたらいいんだろ」
何度か斥力魔法での狩りを試すが、一度も成功しなかった。
魔力の匂いを感知する鳥は半々といったところの様だ。
寄って来る鳥は1匹もいなかった。
「――ダメだ。また虫を集めるしかないのか……豪雨の後は幼虫たくさん見つかったのに今はあまり見付からないんだよねぇ。成虫か~。うわっ成虫の苦み思い出しただけで口がキューッってなってきた……」
渋い顔をしながらも薄暗くなってきたので、ライライに光魔法をお願いする。
すると間もなくして虫たちが集まってきた。
セシルが虫に集中しているとマーモが緩めの警戒の声を出してきた。
「ナー」
すぐさま周りを見渡すと遠目に野生のマーモット達が、集まる虫を羨ましそうに見てきていた。
「あーあの子達か」
マーモットは食料になる。
だが、マーモの前でマーモットを食べるのは気が引けるし、今のところ立派な角を生やしたマーモに委縮しているのか襲ってくることも無く、無害なので放置だ。
セシル達が居なくなった後で、余った虫の死骸を食べに来るだろう。
ライライの周りを飛び回る虫たちを火魔法で撃ち落としていく。
森で虫を撃ち落とす時は斥力魔法を使っていたが、火魔法を使うと虫が自ら当たりに来てくれる事に気が付いたのだ。
虫を撃ち落とすくらいなら山火事になる可能性も低いだろう。
「おーおー、たくさん集まってくるねぇ。これで美味しければねぇ……」
マーモも魔法を使いながら下に墜落した虫を食べる。
ラインは身体に止まった虫をそのまま身体に取り込んでいく。
「雷魔法を身に付けたスライムはその場から動かなくても生きて行けるね」
セシルはラインを見て苦笑いする。
ライアは植物だけを食べる様にお願いしているので、足元の雑草を食べている。
「よし、こんなもんかな。皆お腹いっぱいになった?」
「ナー」ぴょんぴょん
朝ご飯用に両手いっぱいに虫を集めると、家に帰って行く。
少し進んで振り返ると、野生のマーモット達が「待ってました!」とばかりに虫の死骸に集まってきていた。
「ふふっ。可愛いね。マーモはあの子達とお話したりしなくていいの?」
「ナー」
興味ないとばかりに首を振るマーモだが、明らかに1匹のマーモットをチラチラと見ていた。
「おやおやおやぁ? あの子が好きなのかなぁ?」
「ぴっぴぴー」
「ぴょっぴょ~」
ライライが一時的に明かりを消してまで、口笛でマーモを揶揄う。
「ナッナー!」
「話しかけてきても良いんだよ?」
「ナー!」
マーモが怒った素振りを見せる。
「ぷぷっ、もう強がりなんだから」
「ぴっぴぴー」
「ぴょっぴょ~」
セシルはマーモを揶揄いながらも、マーモを自分に縛り付けずにマーモットの群れに入れた方が幸せなんじゃないだろうかと悩んでいた。
別れの可能性を想像して鼻がツンと痛くなるが、涙をグッと我慢して笑顔を見せる。
すっかり暗くなった頃、家に着くとさっさと寝支度をするが、マーモの事を考えて中々寝付けない夜を過ごした。
(また次マーモット達に会ったらマーモをあの子と話しさせてみようかな。向こうの群れのボスが許してくれると良いけど)
翌朝、
「ナー」「ピー」「ピョー」
ゆさゆさ、ぼっふんぼっふんと身体の上で暴れるマーモ達に起こされてしまう。
「おっふ。おっふ。起きる起きる……」
あまり寝付けなかった事で寝足りず、ぼーっとしながら挨拶をする。
「……おはよう」
「ナー」「ピー」「ピョー」
「今日も元気だねぇ」
身体を起こし朝ご飯の準備をする。
と言っても死んだ虫が入った木皿を持ってくるだけだ。
虫をもっしゃもっしゃと渋い顔で食べながら今日の予定を話す。
「今日は皆のお楽しみ、痛っ。あっ虫が歯茎に刺さって痛い。ちょっとライン取って」
「ピョー」
虫の足は棘が多く、時々口に刺さる。
ラインが口の中を綺麗に掃除してくれると再度話始める。
「ラインありがと。えーっ改めまして、今日は何と!!」
「ナー」「ピー」「ピョー」
「家の奥の洞窟らしき場所を探検したいと思います!!」
「ナー」「ピー」「ピョー」
「と言うことで、まずは水の補充をして、お昼用の魚を取ってから奥に行くよ!」
「ナー」「ピー」「ピョー」
「洞窟はもしかしたらすぐ行き止まりかもしれないけどね」
セシル達は足早に川に向かい、水を補給し魚の処理を終えると何事も無く家に戻ることが出来た。
「準備は完璧だね。じゃ出発するよ。と思ったけど、まずは身体が入るサイズの穴を掘らないと」
背負った荷物を置き、穴を拡げる作業をしていく。
いつもは削った岩は入口の強化などで綺麗に並べているのだが、今はとりあえず端に寄せるだけに留めている為、ライアとラインのどちらかが交代で身体を光らせ残りの1人と2匹が全力で削る事に集中することが出来、割と短時間で体が入るくらいの穴を開ける事が出来た。
「もう通れそうだけど、少し穴を拡げて荷物を通せるようにしよう」
作業を続け荷物もスムーズに入れられるくらいの隙間が空いたため、ようやく探検が始まる。
まずはライアに中に入ってもらい、中を照らしてもらう。
「大丈夫そう?」
「ピー」
「よし、じゃあ次は荷物を入れるからそこから離れてね」
「ピー」
穴は最初に空いた穴から拡げる様に削っていったため、セシルのお臍ほどの高さに空いており、荷物は手を伸ばしても少しだけ落とすことになってしまう。
ドサッ
「ライア大丈夫? 荷物に挟まってないよね?」
「ピー」
「よし、じゃ次はマーモに入ってもらうね。荷物を踏んでいいからね」
「ナー」
マーモを持ち上げて中に入れる
トサッ
マーモが中に降り立つ。
「大丈夫?」
「ナー」
「じゃ、ラインも中に入って皆で荷物を横にズラしてもらえる?」
「ピョー」
ガサガサと音が横にずれていく。
「もう大丈夫かな?」
「ピョー」
セシルも頭から身体を潜りこませて入っていきながら、途中でハッとする。
「うわっ。しまった。頭から着地じゃん」
今更仕方ないのでウネウネと身体を滑らせながらゆっくり地面に手を付く。
「前に転がるから、皆横に避けて」
「ナー」「ピー」「ピョー」
「せえのっ」
掛け声とともに前に転がる。
「ぐえっ」
地面のボコボコで背中の一部を打ったようだ。
「いったぁ……次は歩いて通れる穴を開けてから入ることにしよう」
背中の痛みが引くのをしばらく待つ。
「ごめん待たせたね。そろそろ行こうか」
荷物を背負うと、ライアがセシルに飛び乗り、マーモにはラインが乗りいつものポジションになる。
「よし、行くよ! ライアとラインはずっと明かり点けていてね」
「ナー」ポヨンポヨン
「あーそっか。洞窟内ではライアとラインはずっと明かり点けているから、口笛吹けないのか。ちょっと寂しい気もするね」
ライアとラインの口笛は風魔法を利用しているため、明かりを点けるために雷魔法を使っている現状、洞窟の冒険では音を出すことが出来ない。
もちろん明かりを消せば音を出せるが、洞窟を冒険するのは初めてなので少しでも明かりが欲しい。
「ナ~」
「まあ何がいるか分からないから、無駄に音を出さなくてちょうどいいか」
セシル達はポッカリと空いた広間から、1本だけ繋がっている横幅1メートル程の狭い道に入っていく。
「少し屈まないと頭ぶつけそう」
頭に気を付けながらセシルが前を進み、マーモが後ろに続く。
少し進むと道が2方向に分かれていた
「あれ? 道が分かれているね。ん~右にしよっと」
屈んだり、四つん這いになったりしながら進むと、広間が現れさらに分岐が出てきた。
「またか。今度は道が大きそうな左に行こうかな。それでいい?」
「ナー」ぽよんぽよん
両手を拡げられるほどに広い道を進んでいるとグニッと何かを踏む感触があった。
「ん?」
ガプッ
「ぎゃあああああ」
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