第141話 川と迷子
ガプッ
「ぎゃあああああ」
セシルは得体の知れない何かに足を噛まれ、慌てて足をぶんぶん振り回す。
「離れろっ!!」
噛んできた何かは、壁に打ち付けられるように飛んで行った。
「何? 何?」
ラインその何かを照らしてもらう。
「またトカゲ? その割に平べったい身体しているね。ぴくぴくしているうちに殺しておこう」
セシルが斥力魔法で止めを刺し、謎の生物の身体をよく見てみる。
「うぉぉ。気持ちわるぅ。ぬっめぬめしているし平べったいし目がない? トカゲを踏んで平べったくした感じだね。色も真っ白だ。歯はギザギザで危なそう。噛まれたのが靴の上で助かった」
「ナ~」ぽよんぽよん
「……マーモ、ラインこれ食べたい?」
マーモが近付いてスンスンと匂いを嗅ぐ。
「ナー」ポヨンポヨン
食べられると判断したようだ。
「じゃここで休憩しようか。40センチくらいの大きさあるからマーモとラインで食べても足りるでしょ? ライアの分は現地調達出来ないから持ってきた葉っぱ食べてね」
ポヨンポヨン
その場に座り込み皆でご飯を食べる。
セシルは洞窟に入る前に取ってきた魚だ。
「何か地面湿っているね。湿気で汗かいていたけど、少し寒くなってきた。皆寒くない?大丈夫?」
「ナー」ポヨンポヨン
「耐えられなさそうだったら早めに言ってね。多分僕が一番ギブアップが早いだろうけど」
「ところでキモトカゲ……いや、平トカゲって呼んだ方がいいかな? 平トカゲ美味しかった?」
「ナー!」
マーモが元気よく返事をする
ラインは美味しい美味しくないの感情はあまりないようだ。
「凄く美味しかったんだね。僕も今度食べてみようかな……いやぁ勇気いるなぁ。ものごっつい気持ち悪んだもの」
食事を終えると再び歩き出す。
「どんな生き物がいるか分からないから気を付けながら歩こう。そう言えば、マーモはさっきの平トカゲが接近してるの臭いで気が付かなかった?」
「ナ~」
「あっごめんごめん。責めているんじゃなくて、ただの確認だよ。臭いはあまりなかったって事かな?」
「ナー」
「そうかそうか。暗くて見えにくいのに臭いもあまりないなら怖いね。さっきは靴の上から噛まれたから大丈夫だったけど、肌を噛まれたらどんな毒があるか分からないし……あれ? マーモもラインも毒は大丈夫だった?」
「ナー」ぴょんぴょん
「ごめんね。気にしてなかった。毒あったら分かる?」
「ナーン」
「怪しい返事だね。多分分かるかも? って感じかな?」
「ナー」
「どうせ毒があるかどうか分からないしね。人間は肌に当てて時間を置いて調べる方法があるって習ったけど、マーモは毛深いから分からないよね」
「ナー」
「ライムはそもそも毒が効かなさうだし……でも今度から初めて食べるやつは一気に食べずに少しだけ食べて様子をみるようにしようね」
「ナー」ぴょんぴょん
「あっそうだ。さっきの平トカゲ、肌に塗ってみれば良かった」
それからいくつかの分岐を適当に選び、たまに現れる数匹の平トカゲを避けながら進む。
中にはマーモが絶対行きたがらない強烈な悪臭を放つ道も数か所あったので、そこは避ける。
「平トカゲは刺激しなければ襲ってこないね。目がないし、臭いで判断しているんだろうけど。さっきはこっちが先に踏んじゃったか、蹴ってしまったのかもしれないね」
「ナー」ぴょんぴょん
「食糧不足になったら洞窟にくればどうにかなりそうなのはありがたい。動きもまったりだしね。それにしても虫も増えて来たね」
先ほどからトンボの様な翅の付いた虫が頻繁に飛び回って邪魔くさい。
「ここら辺の虫はライライの光には寄ってこないんだ? 何が違うんだろうねぇ」
下に落ちた虫の死骸を持ち上げて見てみる。
「あっこの虫も目がない? この洞窟にいるのはみんな目がないのかな? 見えないのにどうやって飛び回っているんだろう? それを言えばライライもどうやって見てるのか謎のままだけど……」
ぽちゃん
「ん? あっ!! 水が流れてる!!」
水が跳ねる音の方を見ると幅の狭い川が流れていた。
天井が低くなっていたので中腰で川に近付いていく。
「ライライの光を反射してすっごく綺麗。飲めるのかな? それにしても寒すぎっ」
セシルは念のため周りや水の中を念入りに見渡す。
以前、川から巨大なトカゲが出てきた事があるので初めての川は注意深くなっているのだ。
とは言え幅60センチ程度の狭い川ではそんなに大物はいないいだろうが、未知の生物がいる場所では何があるか分からない。
「小魚が少し泳いでいるね。そもそも水が飲めるかどうかってどうやって判断したらいいの? 直接飲んでみるしかないかな」
「ナー」ぴょんぴょん
マーモが早速水を飲み始め、ライライ達も身体を光らせながら川の中に入っていった。
「ライライ、冷たくないのっ!? あまり離れちゃだめだよ! 気を付けてね」
セシルも水を手で掬う。
「ひぃ~冷たいっ! 手がかじかんじゃう」
勇気を出して口に運ぶ。
んぐっんぐっ
「うわぁ~美味しい。凄い美味しいな。けど、冷たすぎてこれ以上飲んだらお腹壊しそう」
セシルは水筒に水を汲みながら周りの様子を見る。
ライライは小魚を捕まえ始めているようだ。
見えている範囲では3センチ程の小魚ばかりしか見当たらないので、セシルのご飯にはならないだろう。
「あれ? 光っているのに逃げられないんだね?」
ライライが次々と魚を捕まえていく。
ライアは捕まえた魚を川の中からピュッピュッと飛ばし、マーモにあげているようだ。
「もしかして魚も目が無いのかな?」
マーモの前でぴちぴちと跳ねる魚を火魔法で照らしながら見る。
「目あるじゃん……あれ? いや潰れている?」
他の数匹を見ても、目があるべき場所に目らしきものがあった形跡があるが、全て潰れているように見える。
「潰されたの? 目だけ食べる生物でもいるのかな? こっわ。マーモ、目を狙ってそうな奴がいないか注意してね!」
「ナー!」
実際は進化の過程で退化しているのだが、セシルはそんな事実を知る由も無い。
もちろんマーモも分かるはずもない。
程なくしてライライが戻ってきた。
「時間が分からないけど、そろそろ戻ろうか。帰るのも時間かかるし、変な生き物が多いからここで寝たくないしね。何より寒いから早く帰ろう」
「ナー」ぴょんぴょん
セシル達は通ってきた道を戻る事にしたのだが、2つ目の分岐でセシルの足が止まる。
「……ん? あれ? この道どっちから来たんだっけ?」
「ナ~?」
幾度となく通ってきた分岐を適当に選んできたツケが回ってきてしまった。
セシルは身体が冷えているはずなのに嫌な汗がタラーッと背中を垂れるのを感じる。
「やっばい。帰り道が分からない。行きと帰りで全く別の場所みたいに見えるね。マーモ臭いで家の方向分かる?」
マーモがクンクンと臭う。
「ナァ~?」
家の方に風が流れていたので風上に立ってしまい臭いの判断が難しいようだ。。
また、途中で何か所かあった悪臭の強い道も邪魔している。
マーモはしばらくクンクンとした後、首を傾げながら一方の道を短い手で指す。
「そっちに行ってみよう!」
「ナァ~」
マーモも不安そうな顔をしている。
「間違っていても気にしないでね。自慢じゃないけど僕はサッパリだからね」
「ナァ~」
とは言えマーモの嗅覚にはいつも助けられるので道を間違えるとは露程も疑っておらず、笑顔になって歩き出すセシル。
マーモが指した先をずんずんと進んでいく。
しかし辿り着いたのは行き止まりだった。
「やっやっべぇ」
「ナァ~」
「だっ大丈夫だよ! 行き止まりだったし、こっちがダメってわかって良かった。道を戻ろうか」
また先程の分岐に戻り、残りの道に入っていこうとして足を止める。
「あっなんか印付けていこう。来るときにそうしておけばよかった」
斥力魔法で自分の目線の高さに痕を付けていく。
先ほどの行き止まりの道に×印を書く。
川に繋がる道には矢印と川という文字を書き込み、残る道には矢印と家と書いた。
「あれ? ちょっと待てよ。今回は片方が行き止まりと分かったから、家までの正しい道が分かったけど、今後の分岐点ではどの道が正解か分からないんだから矢印書きようがなくない?」
しばらく絶句して動きが止まってしまった。
「あぁ。印の目的は次通る時用って事忘れていた。反対から入った時に入口が分からないとダメなんだから、分岐の入口に印を書くんじゃなくて、出口にここ通ってきましたよって印を書けばいいのか」
ふむふむと納得しつつも、帰り道の困難さを想像し絶望する。
「マーモの臭い作戦はダメだったから、大きい通路を選んで帰るようにしよう。行きもそうしたし。でも入口広かったけど出口は狭かったとかもあったんだよなぁ……だめか……頑張って思い出しながら適当に行くしかないのね」
セシルは恐怖と寒さで、自分の足がカタカタと震えるのを感じた。
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