第69話 雷鎖
「こんにちはー!」
「あらセシル様こんにちは! 注文の品は出来てるわよ! あなたー! セシル様が来たわよー!!」
「おーう。セシル待ってたぜ! 裏で具合を試してみな」
「ガンツさんこんにちは!」
裏の庭の行くと、持ち手が付いた鎖を渡された。
鎖は少し太くなっており、持ち手の木は何かの革でくるんである。
鎖の先の重りは、ガンツが使っていた鎖鎌より少しだけ小さくなっている。
「こんな感じでどうだ? 持ち手の革は手が滑らないようにする為だけの物だ。安いグレートボアの革で巻いている。とりあえず巻いているだけだから、手にしっくりくるように巻き直すといい。自分ですぐ巻きなおせるようになっておきなさい」
「はい! 分かりました! カッコイイです!」
「持ち手の中の鎖が動くと手を怪我する可能性があるから、ここの金具で動かないように固定している」
ガンツはセシルから鎖を受け取り、持ち手の革を解くと、その下に隠されていた金具を見せて来た。持ち手の上と下に鎖を固定するための金具が通してある。
「雷を通す時はこの金具もビリッとくる可能性があるあら気を付けるんだな。金具の上に革を巻いているから多少抑えられると思うが、用心に越したことはねぇ。試してみてくれ」
セシルは持ち方を色々試ながら雷を通していく。
「凄いです! 全然痛くないです!! 金具の所も変な持ち方しない限り、体に当たら無さそうです!」
「そりゃ良かった。手の大きさが俺と違いすぎるから、採寸してるとは言え不安だったんだ。次は鎖を飛ばしてみてくれ」
「もう一回お手本お願いしてもいいですか?」
「ああもちろんだ。離れてくれ」
ガンツは片手で持ち、もう片方の手で分銅に近い鎖を持って小さく回していく。
分銅の回転が早くなってくると、段々と回す鎖の長さを伸ばしていく。
身体の左右をブオンブオンと音を立てて大きく回し、フッというガンツの息を吐く音と共に鎖を振ると、勢いよく飛び出した分銅が案山子の肩口にドゴォッと激しい音を立てて当たった。
「こんな感じだな」
「凄いです!! 最初は短く回すのですか?」
「ああ。セシルはまだ背が低いからな。全部の長さを回すのは難しいだろうからな、短く回す方法でやってみた。短いままで投げて貰っても大丈夫だ。むしろ短い方が命中率は高くなると思うし、安全性は高いだろう。雷の魔法を使うのは相手に鎖が掛かってからだろう?」
「はい。そうですね。鎖が掛かるか手に持たれたら使います」
「おっそうだ。鎖を持って回すなら、回す方の手だけでも手袋をした方がいいな。ちょっと待ってろ」
そう言うと店の奥に引っ込み、小さい手袋を持ってきた。
「これは息子が大きくなってきて使えなくなったものだ。もう使わなくなったからやるよ」
「いいんですか?」
「問題ない。近所でサイズが合いそうな子がいたら譲ろうかと思ってた所なんだ」
「では貰います。ありがとうございます」
セシルは鎖を回す方の手だけ手袋をして、さっそく鎖を回し始める。
「おっおいおい。それを使う時は必ず周りを確認してからにしろよ」
その場から慌てて離れながら、ガンツが注意する。
「あっごめんなさい。つい」
「それだけは徹底しろ」
「はい! 気を付けます」
今度は周りをしっかり確認してから回し始める。
ひゅんひゅんと音が鳴り始め、ある程度の所で的に向かって投げる。
案山子の上を過ぎて行ったが、落下してきた鎖が案山子に当たり、分銅の勢いでグルグルと案山子にまとわりついた。
「よし! 上手いな! 最初はそれくらいの長さで回すといい」
「でも的から外れました」
「セシルはこれを分銅を当てる為じゃなくて、鎖を巻いて雷を当てる為にこれを作ったんだろう? 分銅を直接的に当てると、巻きつかないからな。ワザと外して巻き付ける必要がある」
「そっか!! 分かりました!」
「だが、的から適当に外して巻き付ける練習ばかりしてると、いつまで経っても精度が上がらないからな。的を用意してそこに当てる練習も必ずするように」
「はいっ!!」
「それと……この武器の名前はどうする? もうこれは鎌が付いて無いからな。鎖鎌とは言えないし、ただの鎖でもないだろう? 雷魔法用の武器は、恐らくセシルが初めて作っただろうからな。発明したセシルに命名権があるぞ」
「えーっ。鎖で良いんだけどなぁ。イルネどう思う?」
「せっかくだから付けた方が良いですよ! こんな機会、普通無いんですよ?」
「えーっじゃあ雷の鎖で『らいさ』?」
「雷鎖か! 分かりやすくて良いじゃねぇか。気に入った!」
「良いですね! 雷鎖にしましょう!」
「雷鎖は販売してもいいか?」
「ん~いいの? イルネ」
「そうですねぇ。大人がこれを使うと、背の低いセシル様では鎖の長さで負けてしまいますからねぇ」
「おいおい。対人で考えてるんですかい?」
「念の為だ。念の為。それとセシル様以外に使う人はほとんどいないと思うのだが? 魔術師で武器を携帯する人なんてほぼいないし、バチバチ雷魔法を使える人も少ないんじゃないか?」
「いや、非力な魔術師でも重りの付いた鎖を飛ばせるし、一発だけでも威力あるのをバチンッと出来るなら、護身に役に立ちますぜ」
「そうか。セシル様は長時間使えるけど1発1発は強くないからか……でも威力が強いと本人も痺れないといいが」
「そうか。自分が痺れる場合もあるのか。まあそれは使う人の自己責任だな。セシル、自分で決めていいぜ」
「やっぱりこれは僕だけので!」
「分かった! 俺から率先して売りに出す事はやめておこう。だが、注文が入ったら作るぜ? セシルが使ってるのを見て真似をされる可能性は高い。これは複雑じゃないから簡単に真似されちまう。人前で見せたら広まると思ってくれ。」
「分かりました! 注文入ったら作って大丈夫です。なるべく人前で使うのは止めておきます!」
「それがいい。出来るだけ人がいない所で使う事だな!」
武器屋の帰りに、練習に使う案山子を作る為の木材を2体分購入して帰る。
木材はお店の人に運んでもらう。
家の中に木材を運んでもらっていると、たまたま通りかかったクリスタが話しかけてきた。
「おや? セシルではないか。木材なんか運んでどうしたんだい?」
「クリスタ様!」
後ろに控えているキリエッタにもサッと頭を下げる。
「これは……えっと練習用です」
「何の練習かな?」
「えっと、剣です」
「セシルは剣の練習もしているのか? 魔法の授業で疲れているだろう?」
「魔法の出力が少ないので、魔法を使いきれないんです」
「そんな事があるのか……話は変わるが、休みの日にたまにマリー嬢達と出掛けているだろう? あれは何をしているんだい?」
「錬金術の勉強で図書館に行ってます」
「錬金術か……そうか。頑張るといい」
クリスタは『マリー達と楽しそうな事をしているな? ずるいぞ!』と思い自分も参加するつもりでこの話題を振ったが、錬金術の勉強など毛ほども興味が無かったので、参加する事をやめた。
「はい! ありがとうございます!」
セシルはクリスタに興味を持たれなくてホッとする。
早速、雷鎖が広まってしまう所だった。
しかし、発明のきっかけになったマリーとアルにだけは教えるつもりだ。
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