第70話 雷鎖と魔力の匂い
次の休日が来た。錬金術の勉強の日だ。。
朝の挨拶が終わると。馬車に乗る前にセシルが話を振った。それぞれの従者にも後ろで予定を聞いてもらうためだ。従者たちは街中では、ゆっくり進む馬車に徒歩で付いて行くため、馬車に乗ってしまうと会話が聞こえなくなってしまう。
「今日は、前回と同じように僕の家に寄って欲しいです」
「あら? セシルから誘うなんて珍しいですわね」
「あの、アル様が考えた雷魔法から考えた武器を作ったので、お二人にはお見せしようかと思って」
「えっ。あのビリビリするやつでございますの? ちょっと私は怖いのですけれど。アル様体験なさる?」
「いっいや、私も怖いですよ! マリー様、御冗談を!」
「2人にビリビリしないので大丈夫ですよ!」
「それを聞いて安心しましたわ。セシルは何をするか分からない所がありますからね」
「そうですか? 例えば何ですか?」
セシルは心外だという顔で聞く。
「そっそれは、あのライムの……」
「ライムの?」
すでに何のことか分かったはずのセシルが聞き返す。
「マリー様、ライムのって何ですか? 私も気になります」
アルが無邪気な笑顔で聞く。
「そっそれは、お花を……やっぱ言えませんわ!!」
「それは残念です……私だけ仲間外れなのですね」
アルが悲しそうな顔でボソッと言う。
「ちっ違いますっ! アル様違いますわっ! ……っあぁ~」
アルの涙ぐんだ顔を見ると、黙っているのはあまりに可哀想に思えてくる。マリーは諦めたように耳元に口を寄せお花伐採事件をコソコソと話す。
「えっ!?」
マリーは「誰にも言っちゃダメですわよ!」とアルに念を押すが、ここにいるメンバーはアルの従者以外、お花伐採事件の詳細を全員知っている。
マリーはカイネにもバレていないと思っているが……残念ながら知っている。
「セシルが何をするか分からないと言った意味が分かったでしょうか?」
「それはもう……このようなお話をさせてしまい申し訳ございません」
アルは頭を下げているが、笑うのを我慢しているのか肩が震えている。
「アル様? もしかして笑ってらっしゃる?」
「そっそんな! とんでもごっふぉいませんっっ」
「笑うの我慢し過ぎて、ごっふぉなってますやん……まあそれはいいわ。私も魔力の匂いの件で多少進展がありましたので、その時にお話ししますわ。では馬車にお乗りになって」
その日の図書館ではそれぞれが好きな事を調べて、またそれについてお昼を食べながら話すという形で終わった。
マリーもアル達の話を聞いているうちに錬金術に興味を持ち始めているようだ。魔力の匂いの件で未知を知る事の楽しさを知った事が大きい。
☆
昼も食べ終わり、セシルの家に着いた。
「私の話はすぐに終わるので、私から話しますね。魔力の匂いについてお父様を通じて従魔協会に手伝っていただくように打診しました。打診した際、職員も興味を持ったようで、その場で近くにいた職員の従魔に『魔力に匂いがあるのか?』と声を掛けた所、匂いがあるという風に従魔が反応したようです。その為、この推論は確度が高いと判断され、聞き取り調査を行った後、レポートで提出してくださるそうですわ。なので、こちらとしては待つだけと言った状態になってしまいました。内容は『魔物避けの効果は、魔力を込めた人物によって変わるのか?』程度で、一応発見者として名前が残るかもしれませんが、そのくらいで終わりそうですわ」
「マリー様! 凄いです! 発見者としてお名前が残るのですか!?」
「もしかしたら、そうかもしれないですわ」
得意げに胸を反らす。入学テストの件では父親にこってり怒られ、信頼を取り戻そうと必死なマリーであったが、今回の件で褒められた上に、セシルとの仲も良好と知った父親が終始ご機嫌な様子だった為、マリーもホッとし、調子に乗るには十分であった。
「では、セシルは武器でしたっけ? お見せいただけるかしら?」
マリーは直接口にはしないが、私の話を越えてくるような武器なんて難しいでしょうけどね。という気持ちが多分にあった。マーモをさわさわ触りながら、偉そうに言う。どんどん調子に乗るタイプである。
「はい。奥の運動場に来てください」
「運動場?」
セシルに着いて奥の運動場に行く。
「何ですの? 家の中にこんな広い運動場があるのですか!? 以前来た時は気付きませんでしたわ」
「ライムとマーモ用に作っていただきました。学園内を走らせる訳にはいかないので」
「それにしても特別待遇が凄いですわね」
アルとその従者のエリシュは驚いて呆然としている。
そんな中、セシルが案山子に掛けてあった雷鎖を取って持ってくる。
「これです。これは他の人に真似されたくないので、秘密にして欲しいのですが」
分かったわ。秘密ね。と言いながらマリーが雷鎖を受け取る。
「これ、どうやって使うのかしら? アル様分かります?」
「普通に相手に巻き付けて使うのではないのですか?」
「使ってみるので距離を取ってもらえますか?」
イルネがここまで下がってくださいと指示を出す。
安全な位置に移動したのを確認すると、セシルが分銅を回し始めとブオンブオンと恐怖を感じる様な音が響く。
室内の為、音が反響して迫力がある。
フッ!! とセシルが息を吐き、案山子に向け分銅を飛ばす。
案山子の上を通過した分銅が落下すると一気に案山子に巻き付いていく。
巻き付いた事を確認すると、すぐに持ち手に雷魔法を流し込む。
バチッッ
雷魔法を流し込み続け、バチバチバチッィと鎖が音を立て光る。
案山子は木で出来ているので、案山子には雷魔法はほとんど流れていないが、鎖がバチバチとなっている様は迫力があり、鎖が接している部分は黒くなっている。
少ししてから雷魔法を止め、こんなもんかと満足してマリー達を振り返る。
「こんな感じです」
「おっ、思ったよりやるじゃない」
(先に私の話をしておいて良かったわね。後だったら完全にインパクト負けしてたわ)
マリーは分銅の風切り音と雷魔法の音を聞いて、若干足が震えている。
「ちょっと、いえ、かなり恐ろしい武器ですね。正直怖かったです」
アルは手が震えており、エリシュに握ってもらっている。
そのエリシュはどさくさに紛れて、反対側の手でイルネの侍女服を掴んでいる。
「やってみますか?」
「いえ、大丈夫ですわ。アル様はどう?」
「私も大丈夫です」
「強い雷魔法使ってみたらどうなるか見てみたいのですが、一回だけ試して貰えませんか?」
アルはマリーの方を見て、立場的にやるのは自分か。と小さく溜息をつく。魔術科に通っていない従者達では威力が乏しくて実験にならない。
震える手を抑えて質問する。
「以前、雷魔法を使ったセシル様も痛がっていましたが、それは大丈夫でしょうか?」
「魔法を出してる場所は痛くないです。なので、この持ち手の魔法を出す所だけ鎖に触れるようになってます」
「なっなるほど」
セシルに無造作に持ち手を渡され、恐怖で思わず落としそうになる。
鎖はまだ案山子に絡まったままだ。
「……まずは少ない魔力からでも良いでしょうか?」
「大丈夫ですよ」
フーーフーーと2度3度と呼吸を整え、意を決して雷魔法を使う。
セシル以外の皆が心配そうに見つめ、頑張ってくださいとエリシュが小さい声で応援する。
「いきます」
バチッ
「大丈夫ですか?」
「……はい。痛くないですね。では次威力を上げます」
ホッと安心したい所だが、まだ威力の強い雷魔法を使ってないので安心できない。
心臓が早鐘を打つ。
「いきます」
バチィィィィィッ!!
眩い光を一瞬出してすぐ消える。案山子からは少し焦げた匂いがする。
アルはハッ ハッ ハッと短い呼吸を繰り返し座り込む。
「大丈夫ですか?」
イルネがすぐ近くに寄り、座り込んだアルの背中を支える。
「少しだけピリッと来た気がしますが。大丈夫です。ありがとうございます」
エリシュがイルネに支えて貰っているアルを羨ましそうに見つめる。
「やはり、凄い威力ですね。やはりこれは広めなくて正解でしたね」
「うん。広めなくて良かった。――僕もアル様くらいの威力出せたら良いのになぁ」
セシルがちょっと悲しそうな顔をするのでアルがフォローをする。
「でも、雷魔法を強くやるのは初めてだったのですが、かなり疲れる感じがありますね。同じ威力でもう一発は撃てなさそうです。それに比べてセシル様は、連続で雷魔法を続けられるので凄いですよ!」
「そう、ですか?」
「ええ。私はわりと魔力量が多い方なのですが、それでもこんな感じなので、他の方が使う場合も隠し玉に1発か2発だけという感じでしょうね。威力を抑えればもちろんもっと撃てると思いますが、威力を押さえたら相手も我慢できると思いますし」
「そうね。それを考えるとセシル専用とも言える武器ではないかしら? 特に捕縛に向いてるわね。あの重りが当たったら捕縛どころでは無いでしょうけど」
「そっそうですか?」
セシルは専用武器と言われて、さっきと打って変わって上機嫌になり鼻の穴がピクピクなる。
「セシル様専用武器とは言え、一撃は怖いので広めない方が正解でしょうね。扱い方を間違えると自爆しちゃいますし」
「あっそうそう! 今回は木の的だったので大丈夫だったのですが、的が鉄とか人間相手みたいに雷が通るのだったら、自分にバチッと来ちゃうんですよ。理屈は分からないんですけど、的に雷が向かってから返って来てるのかな? それでも魔法を出してる所は大丈夫だと思いますけど」
「さっ先に言ってくださいよ! 的に鉄とか付いて無いか確認とかしたかったです」
「先に知ったら、見た感じ鉄とか無くても、もしかして何かあるかもと考えると、アル様が怖くて出来なくなるかもしれないと思いました」
アルはさっきの雷魔法が自分に返ってくるのを想像し、手汗が出てくる。確かに、先に聞いてたら怖くて出来なかったかもと不本意ながら同意する。
「セシルは変な所で気が利くわね。決して誉め言葉ではないのですけれど」
マリーの言葉にアルはウンウンと上下に頷くのであった。
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