第50話 お友達になりたい


「マリー様、さらっさらですよ。触ってみてください」


 カイネが声をかけると、マリーはすぐマーモを触りに行きそうになるが、直前でライムの事を思い出し消化具合を確認する。

 ほとんど消化され、お花(大)と確認出来ないほどになっていたので、ホッと息を付いてマーモを触りに行く。


「あら、ほんとにさらっさらね! カイネ、私も欲しいわ」


「無理でございます」


「では、ここに度々触りに来たいと思うわ。 良いわね? セシル」


「無理でございます」


「……カイネと同じ口調で断ればサラッと流されると思ったのかしら? 残念だけれども、私はライムを触りに来たいの」


「まあ! 一度断られたのに無理やり押し切ろうとしていらっしゃるのですか!? 大問題ではありませんか!? お嬢様がそこまで恥知らずだとは……」


「あら? またデジャブったわ。私疲れているのかしら」


「いえ、お嬢様が同じ過ちを繰り返しておいでですので、疲れているのは我々の方でございます。勘違いなさらぬよう」


「とんでもない言いぐさね……私とて成長するわ。まずは理由を聞きましょう。何故お断りするの?」


「え……お勉強あるし」


 ライムとマーモの事を隠したいのだが、それを言うわけにはいかない。


「なるほど……私が教えるわ! それで解決ね!」


「それだったら私もセシルに教える事が出来る」


 何故かクリスタまで参加してきた。


「えっとえっと、まっ魔法の訓練あるし」


「私にも宮廷魔術師様の訓練教えて下さらないかしら? もちろん私が教える事も出来るわよ」


「それは私も興味がある。何と言っても大賢者用の訓練だ」


「ひっ秘密の訓練なので」


「ますます気になりますわ」


「私も気になるぞ!」


 ズビシッ


「痛っ!! カイネ! 言葉の暴力で飽き足らず遂に手を出したわね!?」


「お嬢様いい加減になさい!! セシル様に嫌われたいのですか!?」


「そんなっ! 私は友達になろうと思って!」


「友達とは相手が断っているのに自分の意見を突き通す事ですか!?」


 当然のようにカイネの言葉のパンチは、マリーだけでなくクリスタも一緒に殴っている


「で、ではどうしたら良いの!?」


「それはご自分で考える事ですよ?」


 マリーはどうしたら良いか分からず涙目になる。

 カイネは溜息をついてヒントを与える事にした。


「度々来るのを断られたのですから、どれくらいの頻度なら良いのかお聞きしたら良いのです」


「上位貴族である私が平民の予定に合わせるのですか!?」


「はぁ~。お嬢様、お友達になりたいのでは?」


「だから先程からそう言っているではないですか!」


「お嬢様のお友達とは上下関係がおありなのですね。例えばですけれど、隣の国の皇帝がお嬢様と友達になりたいからと、毎日マリー様の家に来たらどうですか? 嬉しいですか?」


「そんな事ある訳ないじゃない」


「例えばと言っているでは無いですか、セシル様の立場になってみてください。平民であるにも関わらず、侯爵家、さらには王家の人間が無理やり家に来ているのですよ? マリー様がおっしゃられている、あり得ない様な事態が今! まさに! セシル様に起きているのです!」


「そっそれは……」


 クリスタも横でハッとした顔をしている。

「セシル、申し訳無かったわ。また来てもいいかしら? 今度は事前に予定を確認しますわ」


「お断りします」


「この流れで断るんかいっ!! カイネッ! 話が違うじゃない!?」


「これは……お嬢様ドンマイッ」


「少々、お待ちください」


 イルネがセシルを端に呼びコソコソと話し始める。


「セシル様はマリー様とお友達になりたくないですか?」


「お友達にはなりたいけど、ライムとマーモがいるからここに呼んじゃいけないと思って」


「でしたら、1週間以上前に言っていただけたら半刻ほどなら大丈夫と言う事にしませんか? 授業お休みの日はライムとマーモを連れて冒険者のお仕事もやって行こうと思っていますので、出来れば学院の授業がある日がよろしいですね」


「分かった」と頷いてセシルがマリーの元に小走りで向かう。


「マリー様、1週間以上前に言っていただけたら半刻程なら大丈夫です! 学院がある日が良いです!」


「さっ最初からそう言いなさいよ!」


「私も来るぞ! マリー嬢、私にも連絡してくれたまえ」


「クリスタ様、承知いたしましたわ」


「ところで休日は何でダメなのよ?」


 断られて泣きそうな顔になっていたが、今は得意げな顔になっている。


「ぼう……秘密の特訓です」


 クリスタとマリーの顔がぱぁっと明るくなる。


「秘密の特訓ってなによ!? 私もやるわ!」


「私もだ! 私も秘密の特訓をやるぞ!」


 冒険者の仕事をすると言って、付いて来られても困るので、出任せで言ってしまった『秘密の特訓』この言葉は幼い2人の子供の心を掴んでしまった。


「いや、あの。秘密なので」


「秘密の特訓か! 楽しみだな! 何時に来たら良いのだ?」


「いや、だから秘密なので」


「我々だけの秘密だな! キリエッタ! 次の休みの予定を開けておくように!」


 スパーンッ


「あいたっ」


「何度言えば分かるのです?」


「ヒッ」


 キリエッタの顔が鬼の形相になっており、手にはハリセンがあった。

 ハリセンを見たカイネが、ほぅと感心した目で見ている。

 ハリセンはキリエッタが発明した物で、わざわざ冒険者にクロコダイルの魔物の皮の採集依頼を出して取り寄せ、手作りした唯一無二の発明品である。


「ちゃんとセシル様の言葉を聞きなさい。ワタクシはもう少し大人だと思っておりましたよ。クリスタ様」


「いっいや! しかしだなキリエッタ」


「いやもかかしもありません!!」


 スパーンッ


「あいたっ!」


「さあクリスタ様、帰りますよ。ご挨拶を」


 第二王子がここまでスパンスパンやられてるのを皆が呆気に取られて見ていると、クリスタが急にキリッとした顔で挨拶してきた。


「世話になったな。本日は突如訪問した事を許して欲しい。マリー嬢とまた改めて訪れたいと思う。では失礼する」


「私もお世話になりましたわ。次はお茶菓子があると嬉しいわね」


 スパーンッ


「あいたっ!」


 カイネがキリエッタにハリセンを借りて使ったようだ。

「これは素晴らしい。後で作り方を……」とキリエッタに相談している。


「ぐっ。また来ますわ。では明日授業で。ご機嫌よう」


「クリスタ様、マリー様。ごきげんよう。あっマリー様、今日はごめんなさい」


「なっ何のことかしら? ここでは何も起きてないわ」


「え? 何って、あのマリー様のウ『ぎゃああああああ』」


「分かっているのよ!! 分かった上で何もなかった事にするって言っているの!! 察しなさいよ!!」


「なるほど。ではごきげんよう」


「なんか釈然としないわ」


こう言い残して、ようやく4人が帰って行った。


「疲れたぁ~」


「ほんとですね。ところで、これを教育係として聞かない訳にはいかないわ。ライムの件、何故あんな事になったのかしら?」


 セシルはツイッと目を逸らす。


「なんであんな事をしたのですか~? よりにもよって侯爵家の御令嬢相手に」


「マリー様にも言ったけど、イルネは嫌がるかもしれないし、僕のもなんか違うなって」


「いやまず自分で試しなさいよ。ライムは嫌がってないのですか?」


「うん。ライムが嫌がるなら辞めようと思っていたけど、意外や意外、乗り気で。ヘヘッ」


「へへっじゃないのよ。とにかく! 貴族で実験してはダメですよ! 絶対ですよ! 今回はマリー様が寛大だったから良かったですけれど、他の貴族じゃ大問題になっていたかもしれないわ」


「はい。分かりました。でも今度から家のうんちの処理はライムに任せてもいい? そしたらイルネがわざわざ捨てに行かなくてもいいし」


「ぬぅ。それは魅力的ね……でも消化中に部屋をウロウロされるのは……」


「消化中は食事と一緒だから、わざわざ呼ばないと動かないんじゃないかな?」


「それもそうですね。ではお客様が来てない時はお願いしようかしら。あっでも用を足している最中に入ってくるのは絶対だめですよ! 絶対!」


「ライム分かった?」


ライムが上下に動いて反応する。


「分かったなら良いですよ。とりあえず処理してもらいましょう。それにしても自分のウンチが歩いてやってくる恐怖は凄いものだったでしょうね。マリー様かわいそうに。では、この話はこれくらいにして明日の為に予習するわよ」


「はーい」

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