第49話 マリーが摘んだお花を摘むライム


 マリーがお花を摘みに行った。


 お花を摘んで(小)いるのか、はたまた伐採(大)しているのか。 

 マリーが戻ってくるまでの時間が長い程、伐採の確率が上がる。

 伐採であってくれと祈る。


 しばらく時間が立ちマリーが戻ってくる。

 セシルは伐採を確信した。


 ライムがのそのそと目立たないようにトイレに向かう。

 そう。セシルが以前から温めていた『ライムうんこ処理作戦』だ。


 事前にセシルが考えた問題点は3つ。

 

 問1:ライムが嫌がらないか?

 

 解:全く嫌がる様子はなかったのでクリア


 問2:消化が終わるまでライムの半透明な身体に食べ物が浮いている事。

 すなわち、ウンコが浮いている状態でウロウロされる事になるのだ。

 イル姉が自分のウンコが歩き回るのを許容できるか?


 解:イル姉じゃないからクリア


 問3:ウンコ食べたライムに歯を磨いてもらうのってどうなの?


 解:ライムの身体を洗えば良いからクリア


 こうして作戦が決行される事になった。

 セシルは完璧だ。と自身を持っていたが、考察が穴だらけである。


 だが、決行されてしまった。


「失礼しましたわ。そろそろマーモ? でしたっけ? の毛は乾いたでしょうか?」


「乾いてそうですね。ブラッシングしますので少々お待ちください」


 イルネがブラッシングの準備を始める。


「あれ? ライムは何処に行ったのかしら? ライムー」


 あろうことかマリーがライムを呼んでしまう。

 するとライムがのそのそと現れた。


 そう。トイレの方から。


「ん? ライムの体内に何か浮い……ギャアアアアア!?」


 慌ててマリーが自分のスカートでライムを覆い隠す。


「何!? 何よこれは!?」


「何ってそれはマリー様の『ギャアアアアアアそれ以上はダメーーー!!』」


 マリーとセシル以外は何が起きているのか良く分かっていない。


「ライムがどうかしたのか? 何やら身体に茶色い『ギャアアアアアア』」


「マリー様!! クリスタ様のお話を遮るなど許されませんよ!!」


 第二王子の話を遮るなど、流石に失礼が過ぎる! と、カイネが叱る。


「ちっ違うのです。申し訳ございません。クリスタ様。これは……その……」


 マリーがどうしようもなくなって遂に泣き出してしまった。

 こっそり笑っていたセシルが、ここになって初めて自分がやらかした事の酷さに気が付き、あわあわし始める。


「セシル様、何があったのか教えて下さいませんか?」


「いやぁあああ! 言わないでぇ~!!!」


 セシルはどうしたら良いか分からず、途方に暮れる。


 イルネは何があったのか考察する。自分達の家で問題が起きたのだ。

 対応しなければマズい。


 『お花を摘みに』

 『トイレから現れるライム』

 『ライムの身体に茶色』

 『それはマリー様の』


 会話を思い返しハッと気が付いた。

 イルネはあっちゃーと顔をした後に、マリーに声を掛ける。


「マリー様、そのままジッとしてくださいませ。少し待っていただければ消えますので……ライム急ぎなさい」


「マリーは泣きながら頷く」


 ライムは多少体力を使ってしまうが、消化液の調整で早めに消化してしまう事も出来る。


 イルネはキリエッタとカイネをマリーにバレない様に端に手招きで呼び、事のあらましを説明し、セシルの失態を謝罪する。

 説明された2人は何とも言えない顔をする。


 マリーは圧倒的に被害者だったのだ。

 マリーを叱ってしまったカイネの心境は複雑だ。叱った事を謝罪したいが謝罪すると、事のあらましを知ってしまった事がマリーにバレてしまう。


「クリスタ様、ライムが小動物を食事している所をクリスタ様に見せない様にマリー様が気を使われたのでございます。少々グロテスクなものですから、ご容赦くださいませ」

 

 イルネはどうにか言い訳をする。


「分かった。マリー。心遣い感謝する」


 クリスタも、どう考えても違うだろう? と思ったが、泣いているマリーを見て無理やり納得する事にした。

 8歳にして中間管理職の苦しみを味わっているのは伊達じゃない。その場の空気に合わせて自分を殺す事など朝飯前だ。


「とりあえず、マーモの毛をブラッシングしてきますね。申し訳ございませんが少し中座いたします」


 深々と頭を下げイルネが出ていく。


「そっそうだ。私もブラッシングを経験してみたいと思っておったのだ」


「マリー様、私共もお手伝いしてきますね」


 小型であるマーモのブラッシングに何人も必要無いのだが、皆気を効かせて外に出ていく。

 セシルも出て行こうとしたが、イルネが目で謝罪しろと訴えてきた為、足を止めて部屋に残る。

 2人きりになった部屋でセシルが勇気を振り絞って話しかける。


「あのぉ」

「…………」

「マリー様?」

「…………」

「ごめんなさい」


「ねぇ。何でこんな事になったの? いつも……その、お花の処理はライムがやっているわけ? 処理中に私が呼んでしまったのなら私が悪いとも言えるわ」


「初めてです」


「ふふっ」


 まさか「初めて」なんて答えが返ってくると思わなかったマリーは意図せず笑ってしまう。


(しまった! このままだと許した雰囲気になってしまう。私は怒っているのよ! そう! 私は怒っているの!) と自分に言い聞かせ、笑うのを我慢して続ける。


しかし、この世の終わりみたいなどんよりした顔のセシルが笑いに拍車をかける。


「なっなんで? ぶふっ。 なんでこんなタイミングで、ぶふっ 初めてなのよっ!?」


 完全に笑ってしまっているが、どうにか言い切る。


「チャンスだと思って……」


「チャンス? チャンスなんて毎日あったでしょ!?」


「イルネは嫌がるかもしれないし、僕のもなんか違うなって」


「ぶふぅっ。何で自分だけゆるゆる判定で外しているのよ? なんか違うって何よ!? ほんで、何で私はオッケーなのよ! 私も嫌だし、上級貴族よ? どう考えてもセシルより違うでしょ!?」


 セシルはハッとする。


「何で今、ハッとしたのよ!? 気付くのが遅すぎでしょ!」


 元気そうな声が聞こえて来たので、もう大丈夫かと思いイルネ達が入ってくる。


「セシル様、ちゃんと謝れましたか?」


「うん。上手に謝れた」


 セシルは満足げだ。


「流石です!」


 イルネがセシルを褒めそやす。


「どこがよっ!! なんでそんな満足げな顔が出来るの!? ねぇ? 何で!? あれ?ちょっと待って、これデジャブ」


 マリーは頭を抱えて混乱している。

 そう。入学式の時も同じやり取りをしたのだ。

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