第51話 青い鳥


 次の日、早めに教室に着いたセシルは席に座って待っていた。


「おい! なんで貴族である俺たちがまだ座ってないのにお前が先に座っているんだ? 全員座るまで立っていろ」


 セシルは席を立って挨拶する。


「ゴライアス様おはようございます。分かりました」


「フンッ」


 ゴライアスは去って行き、セシルが席の横で立っていると、クリスタが教室に入って来た。


「おはよう。セシル」


「クリスタ様、おはようございます」


「君は何で立っているのだ?」


「ゴライアス様が貴族が全員座るまで立っていろと」


 クリスタがそれを聞くとゴライアスが座っている席まで歩いて行った。

 ゴライアスは慌てて立ち上がる。


「クリスタ様、おはようございます」


「おはようゴライアス君、セシルに貴族が全員座るまで立っておけと言ったそうだね?」

「はっはい」


「私は学院内で身分は関係ないと言ったはずだよ? それにもし身分を徹底しているなら、私が座る前に席に着いていた君は何なのだ? 私より位が高いと言う事かな?」


「いや、それは……」


「自分が出来もしない事を人にやらせるべきではないよ。 セシルは普通に座らせるよ? いいね?」


「……はい」


クリスタはやってやったと笑顔で戻ってくるが、その背後に見えているゴライアスはセシルを睨んでいた。


(はぁ何で僕だけ貴族の教室なんだろうな~)


「セシル、好きな時に座って良いぞ」


「はい。ありがとうございます」


「何かあったらどんどん言ってくれて良いからな! 何せ我々は友達だからな!」


教室内がざわっとする。

(あぁ~。クリスタ様の好意が辛い)


「クリスタ様、セシル、ごきげんよう」


「マリー嬢、おはよう」


「マリー様、ごきげんよう」


「何かあったのかしら?」


「それが、セシルが貴族が全員座るまで座るなと言われたみたいでね。もう解決したから大丈夫さ」


「あら、そんな事が。セシル、気にしなくてよろしいですわよ。何て言っても私達はお友達ですもの」


 また教室内がざわざわとする。

 クリスタもマリーも立場上、友達と言えるような人が中々出来ず、友達と言う言葉に飢えていたのだ。

 セシルもライムとマーモと出会って以来、友達が出来なかったので嬉しいのだが、場所を考えて友達と言って欲しい。と頭を抱えるのであった。


 午前中の座学が終わりお昼の時間になる。魔力を使い切るとグッタリしてしまう為、基本的に1日の最後の授業が実戦授業となっている


 入学から2日目からは少しずつ授業時間が伸びる為、一度お昼を食べてからまた授業に戻るスタイルになる。

 ほとんどの生徒は学食で食事を取るが、セシルは貴族まみれの所では落ち着かないのでお昼も自分の家でイルネと食べる事にしていた。


「今日の授業はどうでした?」


「まだ何とか大丈夫。勉強は良いんだけど、絡んでくる貴族がめんどくさい。平民のクラスに移れないのかな?」


「ん~ちょっと事務の方に問い合わせてみますね」


「ありがと。移れると良いな。じゃ午後の授業行ってくるね」


「いってらっしゃい」



 今日の午後は1時限で終わる為、最初から魔法の授業だ。

 クラスの生徒たちはグラウンドに集合しており、セシルは1人教室でライオットが来るのを待っている。


「待たせたかな?」


「ライオット様、こんにちは! いえ、大丈夫です」


「今日も昨日と同じことをするよ。昨日は帰ってからもやったかい?」


「はい。少しやりました。疲れますね」


「おっ偉いな。魔力切れじゃなくても微細なコントロールは疲れるよね。じゃ昨日の復習ね。体内にある魔力を出来る限り細くしてゆっくり身体中に巡らしていく。筋肉の形、内臓の形、骨の形全てが分かる用に髪の毛より細く細く。魔力の流れに全神経を集中させて全身の身体の形が分かるまでやる。いいね?」


「はい」


「よし、じゃ好きな体勢で続けられる限り続けて」


 胡坐をかいて瞑想をするように目を閉じて静かに魔力を巡らせていく。

 セシルの様子を見てから問題無さそうだと判断したライオットは、セシルの隣に座って一緒に魔力を巡らせていく。

 すっかり静かになった教室にはしばらくすると鳥の鳴き声が聞こえて来た。

 セシルが耳を澄ませると近付いてきたのは窓までだったようだ。鳥につい気を取られて魔力が太くなってしまう。

 慌てて自分の魔力に集中しなおす。

 その横ではすでにライオットがへばってグッタリしていたがセシルは気が付いていない。


 セシルが汗だくになり、もう限界かもと思っている頃にライオットから声が掛かる。


「そろそろ時間だね。終わって良いよ」


「はい。ありがとうございました。ライオット様も一緒にされていたんですよね?」


「ああ」


「ほとんど汗かいてない。凄い」


 ライオットは限界が来るのが早く、そこそこ休憩出来たから汗が引いているだけである。


「いや、これはまあ……たいしたことないさ。今日はもう帰っていいよ。こっちは自由に解散していいことになったのだよ」


「わかりました。ありがとうございました」


 自由解散はセシルにとってありがたい。

 ゴライアスに突っかかられる事も無く、クリスタ達に突如家に着いて来られる事もない。


 授業が終わると、家に戻りイルネ達と剣の訓練と勉強の予習復習だ。

 普通の人なら魔法の練習の後に剣の訓練なんかきつくて出来ないが、セシルは魔力切れで疲れているのではなく、神経を集中させている事で疲れているので、身体を動かすのは気分がスッキリし、むしろ楽しく感じるくらいであった。


 入学してすぐにも関わらず、休む暇がないほど予定が詰まっていたが、魔法も勉強も上手くいっていないので、毎日やるしかなかった。


 数日同じように過ごしていると、魔力巡回訓練の最中に鳥がセシルに乗ってくるようになった。掌に乗るような大きさで、青色のもこもこ毛で覆われている。

 巡回訓練が終わってセシルが目を開けるとすぐ飛び去って行く。


「ライオット様、あの鳥も魔物なのですか?」


「いや、普通の鳥じゃないかな? 魔石がある動物を魔物と呼んでいるけど、魔石を宿している魔物は最低でもスライムの大きさぐらいはあると言われているね。あの鳥はセシルの手の平くらいの大きさしか無かったからほぼ間違いなく普通の鳥だな。たしか……ブルーシマエナガとか言う名前だったような?」


「じゃ僕の従魔になった訳じゃないんですね?」


「そうだね。魔石のない動物に魔力のパスを通す事は無理だと思われるから、ただセシルに懐いているだけじゃないかな?」


「そんな事あるのですね」


「セシルの集中の邪魔になって、いい練習になっているね。せっかく来ているから今度エサでも持って来てみたらいいんじゃないかな?」


「持ち込んでいいのですか?」


「あー校則はどうなっているのか。うーん。ほんの少しならいいだろ? バレないようにね」


「はいっ!!」

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