第135話 キース


 行商人を求めて交差路で待機し3日目にして、ようやく帝国側から人が来たのをマーモが臭いと耳で感知する。


 念の為隠れて様子を見ていると、ポストスクス1体と馬3頭が進んできていた。

 それぞれに男が1人ずつ乗っている。

 荷台を引いていなかったのでお目当ての行商人ではないと判断し、隠れたまま過ごす事にした。


 男たちはキョロキョロと何かを探しながら進んでいるように見える。


 先頭を走るポストスクスが一度セシル達の方を見た気がするが、男の指示のまま進んで行った。

 セシルは無事気付かれずに通過して行くのを見てホッと息を吐く。



「残念。行商人じゃなかったみたいだね。というか、馬に乗っていた男、見覚えがあった気がする……ん~誰だったかな? あっそうだ!! 僕たちを縛って連れ去ろうとした奴だ!!」

「ナー!」「ピー!」「ピョー!」

「あっぶない。あんな奴に見付かったらどうなるか」


 通過した男たちはカッツォ率いる冒険者グループだった。

 カッツォ達は商人の偽装などをする必要が無いため荷車を引いておらず、セシルの場所まで到達するのが早かった。


 だが、結果的に荷車を引いてない事が災いしセシルが木の陰から出てくることは無かった。


「ん~王国側からの行商人だけにした方が安心かな?」



 また誰も現れなくなったので、暇な時間で雷鎖や剣の練習、梯子を作ったりしながら待機をする。

 梯子は丁度良い細い木も見当たらなかったので、倒れた1本の木から斥力魔法で削り出した一枚板ならぬ一枚梯子だ。

 木の中に空洞もない為、かなり重量がある代物が出来た。


 作った梯子を使ってマーモを背負い木の上に登る。

 ライライ達は自力でスルスルと登ることが出来る。

 木は上部が広がっており、広々と休憩できる様な形になっていた。


「上で休める形の木がちょこちょこあるから助かるね」


 木の上でゴロゴロしながら手以外の場所から魔法を出す練習をしつつ、たまに遠視の魔法で行商人が来るのを確認していた。


 次にやってきたののもまた帝国側からで、荷車無しであった。

 ポストスクス1体に馬5頭の組み合わせだ。

 徐々に近づいてきている。


「また行商人じゃないのか~。ん? あいつ僕の父さんと母さんを脅してきたやつの仲間だ!! 王国側に向かっているってことは父さんと母さんに何かするつもりかもしれない。皆、あいつらやっちゃうよ!」

「ナー」「ピー」「ピョー」

「火魔法をデカトカゲの顔に当てて驚かして止めようか。目の近くね。可哀想だから目は当てちゃダメ」


 全員でポストスクスの顔の前に火魔法を放つ。

 セシルとマーモの火魔法は3センチ程度、ライアとラインは体が分裂したことでさらにその半分程度の火しか出せない。


『なんだっ!? 火? おいっ落ち着け! ぐあっ』


 小さいが5つの火が一斉に目に向かって飛んでくるとポストクスも慌てて前足を大きく上げて停止した。

 乗っていた男がたまらず落下する。

 落ちた男はキースだ。


「よしっ! そのままポストスクスにご帰宅願うよ。マーモは斥力に変えて」


 火を避けようとするポストスクスに一つだけ斥力魔法で刺激を与える。


『クソッ! あぶねぇ。避難しろ!』


 ポストスクスはしばらくそこで逃げ惑っていたが、遂に帝国方面に走って帰ってしまった。


 キースたちはポストスクスが暴れるのに巻き込まれない様に道から外れ、森の中に避難していた。

 馬も一緒に避難できたようだ。


『あの魔法はセシルに違いない! 近くにいるぞ』

『ほんとですか!?』

『間違いない。あんな縦横無尽に飛び回る火魔法なんて賢者の卵しか有り得ないだろ』

『たしかに』

『探せっ』


 キース達は馬を木に繋ぐと手分けしてセシルを探し始めた。

 

「セシル殿、話、したい、出てきて」


 キースが片言でセシルに呼びかけるが伝わっているか怪しい発音だ。


『おい、お前ら通訳のために連れてきたんだ。王国語で声かけろ』

『なんと言えばいいので?』

『話がしたい事、謝罪したい事、決して手を出さないと伝えてくれ』


「セシル殿―、こちらの兵士の方が謝罪したいと言っていますー。話がしたいので出てきてくださーい。決っしてーこちらから手を出しませーん」


「セシル殿ー。出てきてくださいー」

「セシル殿ー」


 だが、セシルからの反応がない。

 キースの後ろにいた兵士達はコソコソと話す。


『キース隊長がいる限り出てこないんじゃないか?』

『ああ。いきなりポストスクスを攻撃されたんだ。友好的でない事は間違いがないだろう。

キース隊長を殺さないと話が出来ない可能性が高い。仕方ない、気は進まないが……命令通りやるぞ』


「セシル殿ー出てきてくださいー」



「ん~どうした方が良いと思う?」

「ナー?」「ピー?」「ピョー?」

「話だけ聞いてみようか。お母さん達が無事か知りたいし。……ん?」


 セシルが木の下に降りようとした所で、キースの後ろに控えていた兵士達が縄を持ち出したのだ。

 セシルは降りるのをやめ、木の上から様子を見る。


「僕を捕まえるつもりかな?」


『ん? なっ何をやってるんだお前らっ! 放せっ! 放せっ!』


 セシルが様子を見ていると、キースが同行している兵士に縄で縛られてしまった。


「えっ!? 何? 何? 何が起きているの? 僕を捕まえる縄じゃないの? 仲間割れ!?」


 セシルは動きを止め様子を見る。

 通訳役で連れてこられた奴隷たちも困惑している。


『おい、お前』

『はっはい』

『今から俺が言う言葉を通訳してセシル殿に伝えろ』

『はい』


『セシル様、以前、セシル様に不敬を働いた不届き者は捕らえました』

「セシル様、以前、セシル様に不敬を働いた不届き者は捕らえました」


 キースはその言葉を聞いて青褪める。


『おい、どういう事だ!? 放せ』

『静かにしろっ』


 兵士はキースの膝裏を蹴り跪かせると、口を布で縛り声を出せなくする。


『んーんーんー』

『よし、これでいい。キース隊長、すまないな。上からの命令なんだ』


『この男の命を持って償いますので、どうか話を聞いてください』

「この男の命を持って償いますので、どうか話を聞いてください」


「えっ何それ? 何を言っているの? あの人殺されるの?」


 セシルは木の上で未だ困惑している。

 両親を襲わせない様にする為に足止めをしたが、自分の為に人が殺されるとなると話が違ってくる気がする。

 意味が分からなくて感情が追い付かない。


「とりあえずお声だけでも聞かせてくれませんか?」


「いるいる! ここにいるからっ! 何してんの!?」


『よし、セシルが居るのが確認出来たな。やはりキース隊長を捕らえるのが正解だったか。殺るぞ』

『ん”ーん”ーん”ー』


 兵士はキースが原因で出てこなかったのだなと判断し、セシルの話を良く聞かずに命令を執行した。


 ザンッ


「えっ!? 何やってるの!? 殺しちゃった!?」



 キースの頭部は地面に転がり、呆気なく命を散らしてしまった。

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