第4章 ダンジョン編

第134話 太陽魔法と買い物


 トラウデン王国王都では冬に入ろうかと言う頃、セシル達はせっせと岩山の家を掘り進めていた。

 セシルの家があるディビジ山脈に雨期などはあるが、年中暑く季節感があまりない。


 夜、ライア達に森の中で光ってもらう事で虫を集め放題出来る様になった為、食糧事情が改善し水分補給以外で外をあまり出歩かずにほとんどの時間を家作りに捧げていた。


「だいぶ広くなったねぇ。これなら鼻の長い魔物が来ても安全だし快適な生活が出来そうだよ」 


 美味しくない成虫を食べてまで家作りに没頭したのは、もしまた鼻の長い魔物がまた現れた時に、鼻が届かない場所まで掘り進める事が目的だったのだが、段々と快適な住処を求めるようになり、部屋もいくつか用意するまでになっていた。


 玄関から直線の位置でないと太陽の光は入らず、奥や左右の部屋は日中でも暗いがライアとラインの光で活動出来ている。

 セシル1人の際も石で出来た家の中なので火魔法を使い明かりを取っている。相変わらず蝋燭に毛が生えた程度の火力なので酸欠になる事もない。


 さらに、壁の一部を削り取りワイバーン、サーベルタイガーなどの魔石や牙などを飾ってもいる。

 魔石や牙は売ればかなりの金額になるが、売却するお店がこんな場所にあるわけもなく、ましてや加工も出来ないので飾る事くらいしか出来ない。


 掘り出した事で大量に出来たブロックは、家の入口にゴブリンの集落から家が目立たないようにする為の壁として積んである。

 それでも巡廻のゴブリンが入って来る事はあるが頻度は減っているハズだ。


「よし、家が出来たから、ゴブリンの集落を壊滅させるよ! 帝国側の水源を我が物にせん!!」

「ナー!!」「ピー!!」「ピョー!!」


 意気揚々と家を出たが、3歩目で石を踏み靴が破けた。


「えぇ~? 嘘でしょ。もう? この前、ワイルドボアの皮で作ったばっかりだったのに。やっぱり鞣し作業しないとダメなのかな」


 ワイルドボアからは数枚靴用に切っていたので、代わりの靴に履き替える。


「このままじゃすぐに靴の在庫無くなるし、このダボダボの大人用の服も着替えたいな。そもそも帝国の服、凄く派手だし。河原とかだと凄く目立つんだよね。出来れば白っぽい服が欲しいな。土とかで汚して隠れやすいようにしたい」


 セシルは自分の着ている服を見ながらボヤく。


「よしっ!! ゴブリン退治は辞めて今日は行商人を探しに行くよ!」

「ナー」「ピー」「ピョー」


 と言いつつも、まずは水補給をしに行く。

 ゴブリンの集落とは反対側の仮宿方面の川だ。

 水は綺麗な状態に戻っており、問題なく飲める。


「ついでに久しぶりに魚も食べに行こうか。虫ばっかりで辛くなってきた」

「ナー」「ピー」「ピョー」


 道中は大雨による流木などで歩きにくくなっていたので、今後の為に邪魔なものを排除しながら移動していき、ようやく辿り着いた。


「ん~思ったより時間かかっちゃったね。よし、ライライお願い!」


 ライアとラインに魚捕りは任せてセシルとマーモは体を洗っていく。

 しばらく洗ってなかったのでボロボロと垢が落ちていく。


「あれ? あっ! 僕たちの垢を魚が食べに集まって来てる!? ライライ、僕たちより上にいる魚を取って! 流石に自分の垢を食べたばかりの魚食べるのは気持ちが付いていかないよ」


 ライライ達が水の中で返事をしようとしたようだが、失敗したようで水から顔を出して「ピー」「ピョー」と返事をし直す。


「ライライ達は光が反射して綺麗だねぇ」

「ナー」


 セシルが褒めた事で機嫌が良いのか、ライアとラインが魚捕りより優先して身体を水面から出してアピールし始める。


「ふふっ。反射して眩しいっ。魚捕ってよ~」


「おっ!? 良い魔法思い付いた!! 」


「ナ~?」「ピ~?「ピョ~?」

「魚食べながら説明するから、とりあえず魚お願いねっ!」


 ライアとラインは新しい魔法が気になるのか、先程と違いすごいスピードで魚を捕獲していく。


「ふふっ現金だなぁ」


 あっという間に捕られてきた魚を焼きながら説明する。

 いつものようにマーモとラインは生のまま食べ、ライアは岩にこびり付いた藻を食べている。


「新しく思い付いた魔法は、その名も太陽魔法!」

「ナ~?」「ピ~?」「ピョ~?」

「えっとね。太陽が出ている時しか出来ないと思うんだけど、眩しくして目がうわぁってなる魔法」

「ナ~?」「ピ~?」「ピョ~?」

「うん。まあそうなるよね。たまにキラッって眩しくなる事あるよね? あれを狙って出来ないかなと思って。水魔法で」


「てことで、水魔法で色々光の方向を変える練習して見よう。まずはあの岩に光りが当たる様に狙ってみて」

「ナー」「ピー」「ピョー」


 皆で食事しながら水魔法を出す。


「光当たっているけど弱いね。柔らかい光が当たってもなぁ。ん~こう、何と言うか水魔法の形変えられないのかな?」


 水魔法を行使する引力魔法は、魔力の中心に水分を引き付ける力があるだけなので、球体の水しか作る事が出来ない。


「ん~ダメか~。おっ? 魔法は球体しか出来ないけど、ライライの体を変形させたら上手い事出来るんじゃない?」

「ピー」「ピョー」


 ライアとラインが体を伸び縮みさせて色んな形を取り、光の位置を調整していく。

 するとライアが体の中で水魔法を使い、動かし始めた。

 雷魔法で体を光らせる要領で水魔法を使っているようだ。

 セシルは体内の水分を動かして身体は大丈夫なのかな? と心配になるが特に問題なさそうだ。ラインもそれを真似するように水魔法を動かす。


 すると、岩にぼや~っと当たっていた光が一か所に集まり始めた。


 ライアとラインの体は円盤の様に平べったく伸びている。


「おおー! 凄い!! 出来たね!!」

「ナ~」


 興奮して喜ぶセシルと違いマーモが悲しい声を出す。

 光魔法に続き、またマーモだけが出来ない魔法が増えてガッカリしているのだ。

 セシルはそれを見て、しまった!という顔をする。


「マーモ。ごめんね。マーモの魔法考えるって言っていたのにね。次こそは、次こそはマーモに合う魔法考えるから!」

「ナ~」


 セシルはマーモを抱きしめてヨシヨシしてあげる。

 その間もライアとラインは色んな所に光を当てて楽しんでいる。

 同じ体勢のまま光を当てる位置を変えるのは水魔法で多少調整できる様だが、大きく場所を変えるには身体ごと向きを変えなければいけないようだ。


「あっそうだマーモ!! ラインをいつものように乗せてごらん」

「ナ~?」「ピョ~?」


 言われるがままマーモの上にラインが乗る。


「じゃラインそのまま正面に太陽魔法使って!」


 ラインが正面に光を収束させる。


「ラインが光を当てながら移動するの大変だから代わりに動いてあげればいいんだよ!」

「ナー!」


 マーモが嬉しそうに走り出す。

 が、大きく移動すると太陽が当たる位置が変わるため、ラインが反射する光の方向が安定しなかった。


「ナ~」


 上手く行かなかった事でマーモが下唇を出して拗ねる。


「ごっごめん。もうちょっとゆっくり動いてあげて」

「ナー」


 ラインが再び正面に光が当たる様に体の形を調整すると、マーモは光を見ながらゆっくり体を動かしていく。

 多少のブレはあるがある程度上手く行き、マーモは嬉しそうだ。


「ナー」


 正直、その場から動かない場合はライン自らが体の向きを変えた方が光の位置を変えるスピードが早いがそれは言わないでおく。


「これで危険な時もマーモが走る事でラインと一緒に逃げる事が出来るね!」

「ナー!」「ピョー!」


 ラインの援護もあってマーモは機嫌を取り戻す。


 一通り太陽魔法の実験が終わると保存食用に焼いていた魚も焼き終わり、薬草を回収しながら家に帰宅していく。

 家の近くに植えるための分は根元から採っていく。

 家の周りに薬草園を作る計画は、魔物に踏まれたり食べられたりする事があるが、少しずつ薬草が増やせているので順調と言って良いだろう。

 豪雨後も思ったより残っており、逞しく育ってくれている。

 雑草はライアが食べてくれているので、薬草の栄養状態も問題ないはずだ。



 魔物に会う事もなく家に帰れたので、近辺に根から採取した薬草を植えると行商人用に荷物を入れ替えていく。

 家の中に飾ってある安めの魔石をいくつかと残っているお金をもって、久しぶりに整備された道に向かう。

 整備されたと言っても、木が抜かれ軽く均されただけの道で結構ボコボコだが。


 家から道までは半刻ほどの距離で辿り着く。

 ちょうど王国、帝国、教国を繋ぐ三叉路だ。


「よし。ここで暫く待機だね。僕は雷鎖の練習しようと思うけど、皆もあまり離れない場所なら好きに過ごしていいよ」

「ナー」「ピー」「ピョー」


 するとマーモ達はそれぞれ何かを探しに行った。

 戻ってくると、それぞれが剣に出来そうなくらいの枝を持っている。


「おー。剣か! 練習しばらくしてなかったもんね!」

「ナー」「ピー」「ピョー」


 3匹は枝の邪魔な部分は斥力魔法でカットし、剣の形に整えていく。

 元々の枝が曲がっており多少歪だが、3匹ともそれなりに剣っぽいものを作り上げる。


「すっ凄いね」

「ナー」「ピー」「ピョー」


 剣を作ると森の中で早速打ち合いを始めた。

 この辺りは木と木の間が広いとは言え、それなりに障害になる。


 マーモは剣を手で持つことも出来るが、リスとカピバラの間のような体型のため、剣を縦に構えることが難しい。

 手で横向きに構えるか、口で咥える事になるが、当然周りの木に当たってしまい上手く扱えない。

 それに比べ、ライアとラインは剣を持ったまま木に登って飛び掛かったり、体を低くして草むらに隠れてから突然飛び掛かったりと縦横無尽に動き回っている。


 1対2でやっている訳ではないのだが、一方的にマーモがポコポコと叩かれる構図になってしまった。

 マーモは体当たりが得意技の1つだが、立派な角が生えている為使わない様にしているようだ。


「ナハハァ~~~ン」


 遂にマーモが泣いてセシルに抱き付いてきた。


「おーおー。ヨシヨシ。辛かったね。そんな鳴き声出せるんだね。初めて聞いたよ」


 泣いて悲しそうな顔をするマーモを撫でながら、どうしたものかと悩む。

 身体を撫でる流れで尻尾を撫で始めた時にハッと思いつく。


「マーモ、身体大きくなったし尻尾で剣を持てるんじゃない?」

「ナー?」


 マーモの尻尾は20センチから25センチほどの長さだ。

 恐る恐る尻尾で剣を持ってみる。


「ナー!」


 持ち上げる事が出来て満面の笑みでセシルを見てくる。


「おぉ~良かったねぇ。振れる?」


 マーモが剣を振ると、まだ不慣れな為かベシッと音を立てて自分の頭に剣が当たってしまい、剣の重さも相まってバランスを崩すとコロンと倒れてしまった。

 本来尻尾は身体のバランスを取る為のものなので、こうなってしまうのも仕方がない。


「ナハハァ~~~ン」


 剣を放り投げてセシルの胸に飛びついて泣いてしまう。


「ぷっ」「ピッピッピッ」「ピョッピョッピョッ」


 思わず皆で笑ってしまう。


「ナハハァ~~~ン」


 さらにマーモが激しく泣いてしまった。


「ごっごめんごめん。きっと練習すれば大丈夫だよ」



 その後はライアとラインが打ち合いをし、マーモとセシルは自主練の様な形で時間をつぶしたが、結局この日は行商人が通る事は無かった。

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