第19話 実践
ゴブリン対策は仮想ゴブリン役としてマーモに出来る範囲で動きを真似してもらい、練習していたので、2人はスムーズに動き出す。
「あなた! そっちに言ったわよ!」
「分かった! 引き付けている間、後ろから刺してくれ」
ロディが剣で盾を叩いて音を出し、ゴブリンの注意を引き付ける。
「よし! そうだ! こっちに来い!」
ゴブリンがロディに襲いかかろうと近寄って行く。
その隙にゴブリンを挟んで反対側に静かに移動するカーナ。
ロディに集中しているゴブリンの背後からカーナが近寄り、レイピアを脇腹から胸に突きあげるように突き上げる。
ズッ
レイピアが肉に刺さる感触が手に伝わる。
ギャアアアアア
ギャアアアアア
お腹を通って胸に刺されたゴブリンが痛みに叫び暴れるため、レイピアを抜いて離れて様子を見る。
ゴブリンは倒れ、次第に静かになっていった。
「大丈夫か?」
青い顔をするカーナにロディが声を掛ける。
魔物を退治する事は当たり前とは言え、やはり人型の魔物を殺すのはそれなりに覚悟がいる。
辺境の開拓民とは言え、女性は危険な人型の魔物を退治する経験がほぼ無い上に人間の子供程のサイズな為、最後の断末魔が心にクルのだ。
ウッぷとなりながらカーナが答える。
「大丈夫よ。セシルに迷惑を掛けない為に強くならないとね」
「カーナ……」
「ロディ……」
2人が見つめ合いいい雰囲気になりかけた為、ダラスが強制的に空気を断ち切る。
「ゴホンッ……馬鹿もん!! まだ危険な森の中だぞ! イチャイチャするのは帰ってからだ!」
一緒に来ていた騎士も呆れた顔だ。
「2人は十分良くやっている。その戦闘後の油断が無ければ・・・だが」
ロディとカーナは状況を思い出し赤面する。
「今日はもうこれくらいで良いだろう。そうだな。このゴブリンは村の近くまで持って帰って処理しよう。持って帰るのも訓練だ」
「はいっ」
人型の魔物は食べると病気になると言われている為、食用は避けられている。
そのまま森に放置する事も可能だが、他の魔物のエサをわざわざ用意してやる事も無い。と魔石を取った後、埋めるか燃やすかして処理をする。
ゴブリンの魔石だと小さく、大した金額にはならないが、魔道具師のちょっとした実験などの需要がある為、一応売れる。
他の領地の騎士では屑魔石を拾った所で給料が変わる事は無いので放置する者が多いが、トラウス辺境領では領民の税を減らすために少しでも稼ごうの精神なのだ。
冒険者であるならば、右耳を切り落とし討伐証明として少額の報奨金を貰うが、トルカ村には冒険者組合は無いし、騎士の指導による討伐の為そのまま焼いてしまう。
もちろん有用な素材であれば魔石同様しっかり処理をして手に入れるが、討伐は騎士の職務の1つであるので素材で使われない討伐証明箇所などは一々取ったりはしない。
2人はゴブリンを交互に持って息も絶え絶えに森から出て来た後、次はゴブリンを燃やす為の木を用意して火の魔法で燃やす。
カーナが引力の性質で生活魔法レベルは使いこなしている。魔力量は一般人レベルなので生活魔法の域を超えてはいないが。
ゴブリンを燃やし終わってようやく終了だ。
「よーし今日はここまで。返り血などは綺麗に流してから家に上がるように。病気の原因になるからな」
「「はい。ありがとうございました」」
2人は頭を下げた後、ドサッとその場に座り込んでしまう。
「はぁ~キツイわね。騎士様達はなんであんなに元気なのよ。全く疲れてないじゃない」
「農作業とは全く違うものなのだな。何よりずっと警戒しながら歩くのが精神的にキツイ」
「そうね。もう少し休憩したら帰りましょ。セシルも頑張っているはずだから美味しい夕飯作らないとね」
居残りのセシルはと言うと……
「えいっ! ていっ!」
カンッ
セシルの木刀が弾かれる
「あぁっ!? いたっ! いたいっ!」
「そこまで!」
そこでライムの剣が止まった。
打ち合いをする時は木刀に布が巻かれてる上に、ライムも当てる時は軽く当てるようにしている。
それでも痛い物は痛く、7歳には結構辛い物がある。
剣術ではライムとマーモに1対1で負けるようになっており、セシルは野生の魔物と戦おうなんてチラリとも思えないようになっていた。
勝てるイメージが全く湧かず精神的に負け癖が付いてしまっていたのだ。
実際はセシルも平民の同年代では上位の実力が付いているのだが実感する機会が無かった事が大きい。
それに比べ、セシルの弱っていく心に対し反比例するように強くなっている2匹の成長は凄まじいものだった。
ライムは普通にビュッと音がするように木刀が振れるようになっており、身体が小さい為攻められにくく、逆に人間が守りにくい足元を攻める言う厄介な攻撃が出来ていた。
マーモは手に持った木刀を振ったと思ったら、口に持ち替えて体当たりをするなど、トリッキーな動きで翻弄するようになっていた。
大人の男相手はまだ厳しいが、農民の大人の女性相手なら良い勝負が出来るくらいにはなっているとダラスからの評価だった。
農民の女性であっても農作業で身体が鍛えられているし、害獣が現れた時は対処する必要があるので、それなりに対応できるくらいの力はある。
「イル姉ぇ~」
「おぉ~よしよし。痛かったねぇ。痛いの痛いの飛んでけぇ~」
イルネはセシルを抱きしめてなでなでしてあげる。
激甘である。
セシルだけが周りの成長から置いてきぼりになっている事を感じながら日々が過ぎていくが、イルネの激甘対応のお陰でなんとか心が折れず続けることが出来ていた。
カーナがイルネに対して嫉妬の炎が燃えており、セシルがロディとカーナに教える文字と数字の勉強の時はカーナがセシルにベッタリだった。
精神的に甘やかされているセシルだが、ダラスによって無理やり魔物に対峙する時が近くに迫っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます