第18話 密偵収穫祭
コルト隊長が領主報告から戻って来て、いつもと然程変わらない日常が続く。
変わった事と言えば柵が完成しており、ライムとマーモの魔法と剣術をその中で訓練する事になったくらいだ。
大人の男が手を伸ばすくらいの高さの柵で圧迫感を感じる。
テッドが「なんで見せてくれないんだよぉ~」とたまに騒いでいるが、その度にコルトかダラスに殴られイルネに蔑んだ目で見られている。
さらに1月ほど経ったときだろうか、ついに密偵らしき男の目撃情報が出て来た。
ドの付く田舎であるトルカ村では、当然村人は全員顔見知りであり騎士も人数が多く無い為、見間違える事はまずない。知らない男がうろついていたらすぐバレるのだ。
村の居住区は簡易的な柵で囲われている為、入口に騎士が1人立っているだけで入村を管理できる。
密偵の目撃情報を報告した村人は、報酬として魔物肉をズッシリくるくらい貰えたので大喜びであった。
同じ人物の情報を報告しても報酬は無いが、騎士の所に不審人物を直接連れて来た場合は、さらにお肉の量が増えるとあって村人の意気は凄い。
村の入口以外から旅人のフリをして村に入って来た男は、村人に『大賢者の家に案内する』と騙され騎士の宿舎に連れて行かれていた。
村人の目は誰もがお肉になっていた。
密偵は国内だけに限らず国外からも来るようになったため、ひっきりなしに現れるようになった。
村では無料で魔物肉が手に入るボーナスタイムに突入しており、村人同士で『優しい村人のふり』の練習をしてる場面なんてのも見られるようになっていた。
羊の皮を被った狼(村人)達により、ある意味で要塞と化していた。
報酬のお肉を狩る騎士と、捕縛した密偵を連行する騎士の数が足りなくなり騎士も大慌てで補充されたほどだ。
事件が起きる事を想定して緊張感を持っていた領主リンドルやコルト隊長もまさかの『密偵収穫祭』とも言うべきお祭り騒ぎに閉口した。
村人による『密偵収穫祭』によりセシル一家の訓練も滞りなく進み、今ではそれなりに激しく打ち合いをするまでになっていた。
夜の剣術訓練にイルネも参加するようになり、イルネVSロディ&カーナ、セシルVSライム&マーモという組み合わせで行う事が多い。
ロディとカーナは才能があったようで成長著しく、2対1でありながらも本職のイルネに対応出来るようになってきた。と言ってもイルネが本気を出すとあっという間にのされてしまうのだが。
セシルはライムとマーモの才能が凄かったのかセシルが弱いのか、2匹にボコボコにされている。
そろそろ1対1でも良い勝負になるのではないか?と思われるくらいだ。
セシルの自尊心は本人も気付かないくらい少しずつ削れていっていたが『セシルは魔法がとんでもなく凄いからね』と周りから言われる事で保たれていた。
いや、イルネのデレデレ甘やかし格闘術の時間が何より楽しすぎて剣で負ける事がどうでも良かったのかもしれない。
徐々に訓練が厳しくなり、セシルファミリー+イルネが毎日ボロボロになるようになった。
1~2か月後には森で実践をさせるという事が決まり「その前にしっかり鍛えてやる!」とダラスが本気を出してきたのだ。
一切の妥協を許さない。
「走れ! 走れ! 走れ!!」
「引退間近のジジイに追いつかれてどうする!?」
ダラスに周回遅れされると強烈なケツバットが来る為、ひぃっひぃっひぃっと死ぬ気で走る。
時にはイルネ&ロディ&カーナVSダラスで打ち合いをすることもあった。
「オラオラ! 立て! 立つんだ!!」
「誰が気絶していいと言った!?」
「殺す気で来ないと殺すぞ!!」
ほぼ死体に近い状態で地面に倒れている3人に無茶な掛け声である。
セシルはそれを横目にビクビクしながら2匹と打ち合いをして過ごした。
そして1ヵ月半ほどが過ぎ遂に実地訓練が行われた。
ロディとカーナが森で魔物を倒す実地訓練を行う為、その日は2人の代わりに騎士が農作業をする事になった。
ロディとカーナは恐縮しきりだったが、農作業も訓練の1つだから問題ないと言われ、後ろ髪を引かれながら実地訓練に向かっていた。
ちなみにセシルは実地訓練には参加していない。
セシルももちろん成長しているが、7歳では流石に魔物が複数いる森に連れて行く訳にはいかず、居残り訓練だ。イルネが担当している。
セシルは以前あった魔物事件のトラウマもある為、魔物を相手しなくて良い事にホッとしていた。
ダラスからは「ちゃんとセシルにも魔物を連れてくるから安心しなさい」と安心とは程遠い事を言われたが、今は聞かなかったことにしている。
ロディとカーナの装備は2人とも盾と剣のスタイルで、実地訓練の際は木刀ではなく真剣を渡されていた。
ロディはブロードソードと言われる幅広の片手剣。カーナはレイピアと言われる細身の剣を使用している。
盾は五角盾と言われる防御力の高い盾を使いたい所だが、森の中では移動が阻害される為、楕円の形をした盾を使っている。
今回の目的の相手はゴブリンだ。
ゴブリンは弱小に入る部類の魔物だが、実際はそんなに甘くない。
身軽な身体で素早く動き、木の棒を力任せに振り、石を投げ、時には木の上から飛びかかってきたりするのだ。
攻撃的な大猿のようなものだ。稀に魔法を使う個体もいる。
それなりに訓練をし、武器をしっかり持っていないと1対1であっても勝つことは難しい。
それが群れで行動していたりするので非常に厄介だ。
実地訓練にはダラスの他に騎士2名が付いて来ており、ロディとカーナの2人の手に余る場合は先に処理し、2人に対処できる魔物を当てるようにしていた。
「よし、ゴブリンが居たぞ。1匹だ。我々は離れて見てるから周りに注意しながら2人でやってみろ」
「「はいっ!!」」
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