第213話 子供
「おい急げ、気付かれたらマズい。とにかく一旦戻れ」
「チッ、仕方ない。戻るぞ」
「やっやばいっ!! 動き出したぞ!!」
ティタノボアが身体を急激にグねらせ、暴れ始める。
さっきまで止まっていたとは思えないような動きだ。
それを見た男達は大慌てで距離を取るがティタノボアの動きがおかしく、思わず足を止めてしまう。
するとティタノボアを挟んだ反対側辺りから、子供の様な高い声が聞こえて来た。
「よしっ! たぶんやった!!」
『誰だっ!?』
「ほんとだな!? 死んだな!? 大丈夫なんだな? うぉ~りゃ~! テイッ テイッ」
「お兄ちゃんダサっ、でもあたしもヤッちゃう! テイッ テイッ」
「あれっ!? 誰かいる!?」
「うおっまだ動いてんじゃねぇか!! 逃げろっ」
「ぎゃあああああ」
「きゃあああああ」
恐怖を感じながらもどこか楽しそうな声で叫び逃げる子供たちが、兵士達の目の端に入って来た。
『なっ、なんなんだ。夢でも見ているのか?』
「ライライが目から入って行ったから、もうじき終わるよ。とは言え、もうちょい離れてようか」
「はーい」
『で、おじさん達だれー?』
ユーナが兵士達の肌の色や服装から帝国人と判断し、話しかける。
『帝国人か!? なぜ帝国の子供がいる?』
「ま~た帝国人か、どんだけ来るんだよ。あっ、もしかして後続組の人かな?」
「あーそう言えばそんな話だったな。色々運んで来るんだっけか?」
『おっさん達、交易しに来た人?』
後続組の帝国人達はまだ状況が呑み込めていない。
まさかこんな所に帝国人の子供がいるとは思わなかったのだ。
『……そっちの子はセシルか?』
『えっと……違う』
(セシルか)(セシルだな)
ヨトは帝国の先行組にもセシルじゃないと説明しているので、整合性を保つために違うと言ったが、セシルか?と聞かれ、セシルとは誰の事か?と聞かずに違うと答えた時点で少なくともセシルを知っている事になる。
ましてやこんな危険な場所に子供が何人もいる訳がないので、必然的に王国人の肌色をしている少年がセシルで間違いないだろう……?
(こんな危険な場所に子供が何人もいる訳がない……はずなんだけどなぁ。こいつらは一体何なんだ。集落でもあるのか?)
『こっちの質問に答えろよ』
『ん?』
『交易しに来た人か?って聞いたんだけど』
『あ、ああ、まあそうだな、何故それを知っている? 我々の仲間と会ったか?』
『えっとなんだっけな。ユーナ、あいつらの名前何だっけ?』
『えーあたし? ん~……全然覚えてないよ。聞いてないんじゃない?』
『スマフというやつだ。短髪で背が高く筋肉質なやつだ。他に6人ぐらいいたと思うが』
『あーじゃ多分それだ。会ったよ』
『どこにいる?』
『さあ? そっちの川の方で寝泊まりしていたはずだぞ』
『……分かった。とりあえず、取引含め色々とこの場所についても話をしないか?』
『ん~そうだな。ちょいまち』
「こいつら交易しに来た人の後続組だってさ。なんか色々話そうって言っているけどどうする? そんな事より俺腹減ったんだけど」
「僕もお腹減った。この人達なんか食べ物持ってないの?」
『食べ物持ってる?』
『いや、分けられる程の物はない』
「無いってよ」
「なんだよ役立たずだな。じゃあこの蛇食べるか。脳みそとかなら僕達でも食べれそうじゃない?」
「そうするか。おっさん達はどうする?」
「まあ、ご飯食べながら適当に答えたら良いんじゃない? 僕も交易品で何を持ってきたか気になるし。あと、あの爺さん何か盗ったら殺すよって伝えて」
『あの爺さん、どういうつもり? 何か盗ったら殺すよ?』
ヨトに指摘されてトルバルが慌てて周りを見渡すとネンドルンがアンキロドラゴンやティタノボアの周りをうろついては剝がせそうな部位をグイグイと引っ張ったりナイフを立てたりしては失敗を繰り返していた。
『あんのジジイ! おいっ! ネンドルン 余計な事するな! 近くに居ろ!』
『静かにしろよ。魔物寄って来るだろ』
『すまない。おい、あいつを引きずってでも連れてこい』
『了解』
兵士に連れられて不満げな顔のネンドルンが近くまでやってきた。
『大人しくしてろよ』
トルバルが注意する。
『なんでだ? アンキロドラゴンは俺達のものだろう? 素材を剥がして何が悪い』
ネンドルンが心底不思議そうな顔をする。
ヨトはそれを聞き、ピキッとなる。
『は? 何言ってんだ爺さん、アンキロドラゴンもティタノボアも俺達の物だぞ』
『……ティタノボアはお前達が倒したんだろうからまあ100歩譲って分かるが、アンキロドラゴンの死骸を先に発見したのは俺達だ。俺達のもんだ』
『いや、アンキロドラゴンを殺したのも俺達なんだが?』
『お前らが殺した証拠はあんのか』
『おっおいやめろ』
トルバルはネンドルンを止めようとするが、ネンドルンの交渉次第ではワンチャン自分達の素材として手に入るのではないか? という欲が出て、軽く注意する程度に留める。
「何どうしたの?」
セシルハウスで待機していたマーモット達をゾロゾロと連れて来たセシルが、軽く揉めてそうな雰囲気を察し聞いて来る。
『なんだこの大量のマーモットは』 兵士達はざわざわとする。
従魔はマーモット1匹とスライム1匹だけと聞いていたのだ。
兵士達は自然と腰に挿した剣に手を当てる。
「なんかアンキロドラゴンは俺達の物だって言い出してさ」
「はぁ? 何でそんな事になってんの?」
「俺に怒るなよ」
「あぁごめん。そんなつもりじゃなかったんだけど、いやでもほんと何で?」
「ティタノボアは俺達が目の前で倒したから100歩譲って俺達の物だけど、アンキロドラゴンの死体は俺達が見つけたから俺達の物だって」
「登場人物全部”俺達”で何言っているのか分かりにくいよ」
「ふふっ何言ってるのお兄ちゃん」
「しっ仕方ねぇだろ! まだ王国語慣れないんだよ! セシルも帝国語覚えてみろよ! どんだけ大変か!」
「まあまあ落ち着きたまえよ。今おっさん達を放置するわけにはいかないでしょ?」
「ぐぬっ……」
「とりあえずこいつら敵候補かな。服の替えとか欲しいんだけどなぁ……どうする? 攻撃される前に全員殺して荷物奪う?」
冗談か本気か分からないセシルの発言にヨトとユーナがドン引きをする。
「い、いや流石にそれは、俺達の物って主張しているのはこの爺さんだけっぽいし」
「そうなの? ふーん」
「そう言えばさっきはスルーしていたけどティタノボアも100歩譲ってってどういう事なの? そもそも私たちの物なのに譲るも何もなくない?」
ユーナも空腹もあって少しずつイライラしてきたようだ。
「もうめんどくさいし、とりあえず監視しながらご飯先に食べようよ」
『おっさん達はもう飯食べたの?』
『ああ、多少は』
『あっこのマーモット達は安全だから剣から手を離せよな』
『お前達放せ』
兵士達は魔物を前に剣から手を離す事に不安を抱えながらもトルバルの指示で剣から手を離す。
『俺達まだ朝ご飯食べてないから、ちょっと待っててよ』
『……食べながらで良いから少し話せないか?』
『まあいいけど』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます