第214話 退避
セシル達は家の中の上部に煙突らしき細い穴を開けてある小さな焼き部屋で内臓を次々と焼きながら食べていく。
マーモット達はティタノボアの内側からライライが切り出した筋張った生肉をガツガツとほおばっていた。
『……そろそろいいか?』
やきもきしながらその様子を見ていたトルバルが話しかけて来た。
『いいよ』
『色々聞きたいことはあるが、とりあえずは物々交換の話をしないか?』
『それは全然良いんだけど、アンキロドラゴンの素材は俺達のだからな』
『それは……』
『トルバルさん、スマフ達が来ました』
『ん?』
帝国の先行組だったスマフ達がやってくるとトルバルはヨトとの会話を切り上げてそちらに注意が向いてしまう。
仲間の無事が確認出来て嬉しかったのだろう。
『おお、スマフか。お前達も無事か。どこに行ったかと思ったぞ。大丈夫だったか?』
『なんとか。魔物が多くて中々近づけませんでした』
セシル達には断りもなく少し離れた所で話を始めた。
通常の取引では大事な取引相手を突如放って仲間と会話を始めるなどあり得ないが、やはり割と人格者と言って良いトルバルでも無意識に子供相手に侮りがあったのだろう。
『――――――』
『――――』
『――――――』
帝国組が集まって話している様子を見ていたヨトがセシルにコソコソと話しかける。
「なあ、この人数差は危なくねぇか?」
帝国組が合流した事で大人の男の人数がグッと増えてしまった事をヨトは危険視する。
「……」
セシルは内臓をもきゅもきゅと噛んでいたがなかなか口内から無くならず、返事するために仕方なく無理やりゴキュンと呑み込んで返事をする。
「……これは流石にちょっとマズいね」
「だよな。どうする?」
「うん。手間を惜しまずに岩塩をしっかりかけるべきだったよ」
「味の話じゃねぇよ」
「ふふっ」
「ぶふふっ、今のは我ながら中々のボケだったね。ひひっ」
「うひひ、今の面白かった」
ユーナとセシルがクスクスと肩を揺らす。
「おいふざけている場合じゃないだろ」
「お兄ちゃんもツッコミが速くて良かったよ」
「うん。ヨトのツッコミあったからこそ僕の秀逸なボケが生きたよね」
「おっおお、そうか?」
ヨトは満更でもない顔をする。
「しゅういつ?って何だっけ?」
「ナー!」
どこか緊張感の無い会話の中、マーモが突然警戒音で鳴く。
「あーやっぱり来たか。中入るよ」
「くそ。落ち着く暇もねぇな」
アンキロドラゴンの死体の周りの魔物達が何故か一時的にいなくなっていたが、血の臭いが漂っている中でそんな事が長く続く訳もなく。
『おいっ魔物らしき影が複数見えたぞっ』
『戦いますか?』
『バカッ! モタモタしてもっと集まってきたら対応出来ねぇ。洞窟に入るぞ!!』
『ちょっと待っ――。これは―――――』
『――置いてけっ!!』
『そんなっ!?』
帝国人達が何か慌てて会話をしながらバタバタと向かってくる。
『おっおい! お前らはあっちいけよ!』
ヨトの静止など無かったかのように入って来る。
「ちょっセシルっ、あいつらも入って来るぞ!!」
「あ~でも、ん~まあ仕方ないか。悪い事したわけでもないし……交易品は欲しいし」
『おいっ! 入れないぞ! 早く奥に行け! どけっ』
セシル達は帝国人達の先頭を切ってセシルハウスに入って来るネンドルンの態度に盛大にイラッとしながらも、今は揉めている場合でもないのでしぶしぶライライの光を頼りに奥に移動していく。
『もっと奥だ! 奥に行け! 見えないぞ! 光は無いのか!?』
「帝国語分からないけど、なんだろう。あいつの言葉だけは雰囲気で意味が伝わってくるの腹が立つな」
ネンドルンは基本的には慎重な男だが、子供のセシル達をどうしても脅威と見れない上に、それに比べ魔物という分かりやすい脅威から逃避したい思いが強くなり態度がひどくなっていた。
セシル達はセシルハウスと洞窟を繋ぐ穴を超えた所で、この辺で良いかと停止し振り返る。
『おい何している俺達もその中に入れろ。ウッ、なんだここ生臭ぇ。ここってよりお前らが臭いのか?』
雰囲気で意味が分かりイラッときたセシルが斥力魔法でネンドルンの腕をちょっとだけジュッっとやる。
『イッって。なんだ!? 虫か!? ふざけやがって』
「今のセシル?」
「うん」
「いいねぇ。殺すのはどうかと思うけど、それくらいはやらないとな」
そう言いながらも仕方なくさらに洞窟の奥に進んでいく。
「ねぇねぇ、あの人たち交易品持ってきてなくない?」
「えっまじ!?」
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