第55話 初めての冒険者のお仕事2


 採集が終わり、また半刻ほど掛けて門の前に戻る。

 夕方になり城門の前は混んでおり、お腹減ったと言いながら一般市民の列でのんびり並んで待つ。

 貴族の列に行くことも出来るが、汚い恰好で貴族の列に並ぶのは憚れる上に、特別待遇を良く思わない人がいるので、貴族の列に並んでも良い事が無い。


 すると、後ろに並んでいるセシルと同年代くらいの少年から話しかけられた。


「ねー。その魔物触って良い?」


「こらっ! よしなさい! セシル様、騎士様、うちの息子が大変申し訳ございません」


「えっ。何で僕の名前知ってるのですか?」


「もちろん存じ上げてます。誰もが知っていますよ」


「うわ~ギルドの受付の人が言ってたの本当だったんだ。目立ちたくないんだけどな……優しく触るなら良いよ~。ライム、マーモ触らせてあげて」


「やったー!」

「すみません。ありがとうございます」


少年が触っていると、それを見た他の子供達も走って集まってくる。


「触っていいってよ~!」


「いやっちょっ……」


 セシルは1人にしか認めたつもりはなかったが、後から来た子供が勝手に他の子供に触っていいよと声を掛ける。

 わらわらと子供たちが増えて来て、それを止めようとする親、セシルに謝罪する親も集まって来て、てんやわんやとなって来たため、遂に門兵が出て来た。


「何ごとだ!?」


「すみません。従魔を触りたい子供達が集まって来てしまいまして」


 イルネが頭を下げる。門兵は平民の為、騎士に頭を下げられると弱い。


「ゴホンッ、毎度こうなっては困りますので、今後貴族の列から通るか触らせないようにお願いしたい」


「はい。触らせないようにいたします。と言う事よ。君たち。戻って戻って」


「「えーーーー!!」」


 子供達からブーイングが出る。

 まだ触ってない子は触れなくなる前に慌てて触ろうとして、さらにごちゃごちゃになり喧嘩まで始まる始末だ。


「ほらっ! 君は後から来たでしょ! こっちの子が先! ちゃんと順番守って!」


 誰とも知らぬ10歳くらいの女の子が何故か仕切り始める。


「いや、だからもう触っちゃダメなんだって。なんで並び始めるのよ」


 イルネが呆れていると、親たちが慌ててそれぞれの子供の頭を叩いて、セシルとイルネに頭を下げてから子供の首根っこを掴み連れて去って行った。

 ちょっとっアタシもまだ触ってないのに!! と仕切り屋の女の子が騒いでいるが修道服を来た女性が頭を下げて連れて行った。


「あの人変わった服を着てたね」


「修道女の方でしょうね。あの仕切ってた女の子は孤児院の子かも。小さい子達と普段から一緒に過ごしてるから仕切るのが上手なのかもですね。ちゃんと自分の順番を後回しにしてるのが偉いですね」


「孤児院?」


「簡単に言うと身寄りのない子供達を育てる施設ですよ」


「親がいないって事? 大変なんだね。あの子には触らせてあげればよかった」


「特別扱いすると他の子達から文句が出るからダメですよ」


「そっか~難しいね」


「あっちの首に輪っかがある人達は? 時々いるよね」


「……あれは奴隷の人達ですね」


「奴隷?」


「ん~身分が低い人達ですね。平民より下で首輪をしてないとダメなんです」


「平民より下があるんだ……」


「その辺りは徐々に学べばよいですよ」


「分かった。――そういえば、ライム、マーモ、さっきは一杯触らせちゃってごめんね」


「私の息子のせいで大変な事になって申し訳ございません。ほらっあんたも頭下げなさい」


 少年の頭を手で押さえて無理やり下げさせる。

「ごめんなさい」


「いや、気にしなくて良い。流石にこれは予想出来ないからな。今後断る理由が出来たのでむしろ良かったかもしれん」


「そう言ってもらえて良かったです」


「ほら! 良かったってよ!」


「バカッ! こちらに気を使って下さってるんだよ!!」


 少年はゴンッと頭を叩かれて痛みで蹲る。


 セシルとイルネが苦笑いしていると、やっと順番が回って来た。

 学院証と騎士証を見せる。


「次からはよろしくお願いしますね」


「はい。気を付けます」


「では、お入りください」


「なんか疲れたね」


「ほんとですね。冒険者ギルドで薬草の提出とお肉購入して帰宅するまでが冒険です! あと少し頑張りましょう!」



 冒険者ギルドの倉庫の方に向かう。

 混みあっており、そこでもしばらく待つ事になった。


「こんなに混むんだね」


「今度から少し時間をずらした方が良いかもですね」


 順番が来たので薬草を渡す。


「買い取りはこれだけで大丈夫ですか?」


「ああ。今日はお試しだからな」


 セシルはイルネの口調の変更が毎回大変そうだな~と思う。

 セシルの地位を高く見せる為に、護衛騎士が舐められる訳にはいかないようだ。

 ただ、門の前で問題を起きた時は穏便に済ませる為に敬語を使っていた。


「そういう事ですね」

 ギルド員はまだ小さいセシルを見て納得する。


「物は、どれも良いですね。綺麗に採取出来てます。ではこの札の番号が受け取りカウンターで呼ばれたらお金を受け取ってください」


 札は木で出来ており番号が83と書かれていた。


「83人も先に並んでるの?」


「いえ、番号札を順番に回してるだけですよ」


 倉庫から出てギルド受付の方で番号が呼ばれるのを待っていると割とすぐ呼ばれた。

 呼ばれた所に行き木札を渡す。


「今日の支払いはこちらです。お確かめください」


 渡されたのは200ギルだった。小銅貨4枚だ。


「これでお肉買える?」


「……屋台の肉串を1本か2本くらいしか買えないですね。足りない分は出しますので安心してください」


「稼ぐって大変だね~」


「そうですね。特に今日はほとんど移動でしたからね」


「来週は稼いだお金だけでお肉食べれるくらいがんばろっ!」


「そうですね! がんばりましょう!」


 お肉を買って帰り、簡単な夕食を終えると身体を井戸水で拭ってすぐ深い眠りに付いた。


 こうして無事、初めての冒険者のお仕事を終えたのだった。

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