第182話 侵略者③


「提案なんだけど最初の分岐で右側を通るなら、その後の分岐も全部右を通れば良いんじゃない? そうすれば帰りは全部左を通れば帰って来られるでしょ?」


 ユーナは教師然とした顔で胸を反らしドヤ顔をする。


「甘いよ」

「何が甘いの?」


 ユーナは褒められると思っていただけに、言い返されて少しムッとする。


「簡単に通れる道ばっかりじゃないんだよ」

「どういうこと?」

「道が細すぎて通れるか通れないかギリギリだったり、穴の位置が高くて登れなかったり、臭かったり」

「あーそっかー。まともな道ばっかりじゃないのか」


 ユーナは下唇を出しながらも不承不承納得する。


「そうなんだよね。まあ今回は臭い所目指して行くんだけどね。それに、右側、右側、右側ってぐるっと回って同じ道に戻ってきた場合、ルールを守れば永遠にそこをぐるぐる回る事になる可能性もあるわけでしょ?」

「そっかぁ~」

「結局どうすんだよ」

「ん~やっぱり矢印と数字かな? で、帰りに何があったかを追加で記入していく感じが良いかも」

「それしかないか。数字は2で良いんだろ?」

「目印付けるのは1回目だから1にしよう」

「分かった」



――――それから半刻ほど順調に進んだ。


「ねぇセシルさん、すっごく寒くなってきたんだけどこれ以上寒くなる?」

「多分、これからどんどん寒くなるよ」

「えっどうしたらいいの?」

「そう言われても我慢するしかないよ。上に着る服も無いし」

「まじか。歩いて汗かいた分、冷え始めるととんでもなく寒いな」

「セシルさんが寒いって言ってたの大したことないでしょって思っていたんだけど」

「ティタノボアの鱗がまた冷やっとするんだよな。どうするかな。一度戻らね?」

「戻った所で暖かい服なんて持ってないでしょ?」

「くそっ、靴用に皮を小さくカットしなきゃよかったぜ」


 以前行商人に皮の鞣し方を教わってから、ウルフなどの毛皮で靴用の在庫を複数作っていた。

 靴の消費が激しいので、在庫を余分に用意していたのが災いしてしまった。


「戻ったら蔓で繋げて簡易的に服作っても良いけど、今は頑張って体動かすしかないよね。ライア、ユーナの首に巻き付いてあげて」

「ピー」


 ライアがのそのそと登りユーナの首に巻き付く。


「ひゃっ冷たいっ」


 ライアの光で首元がビカビカと光り、ユーナの顔が不気味に浮かび上がる。


「最初冷たいけど、だんだん暖かくなってくるよ。ラインは僕のお願い」


 ラインがのそのそとセシルの首に巻き付く。


「……俺は?」

「……」

「あっほんとだ。少しずつ暖かくなってきた。ライアちゃんありがとね」

「……俺は?」

「シッ、静かに。臭いがキツくなってきたね。こっちの道かな? そろそろ魚っさんかミニ魚っさん出て来るかもよ」

「分かった気を付けるね」

「……俺は?」


 声のトーンを落としつつも懲りずに自分の首元の話を続けるヨトは無視される。


 ペタッ ペタッと複数の音が聞こえて来る。


「来たっ、来るぞっ! くっさ」

「くっっさ!!」

「声大きい! おぅえっ生ぐさぁー」


 キシャアアアア

 キシャアアアア


 急に叫び声が木霊する。


「あっ……もしかして、バレおえっ」

「ほらっ大声出すから臭いのいっぱい吸っちゃうんだよ」

「あっ、そっち? 隠れてるのバレない様にする為じゃなかったのかよ」


 キシャアアアア

 キシャアアアア


 少し離れているであろう場所からも叫び声に返事をするように声が聞こえて来る。

 次第に声が増えているような気さえする。


「……これ、仲間呼んでないよね?」

「そうかも……」

「どうする? どうする?」


 セシルは1,2匹の敵を少しずつ削っていく甘い想定をしていたので、仲間を呼ばれて思わず足が少し震えるが、冷静になるように深呼吸をする。

 肺に冷たい空気が流れてくる。


「くっさ……おえっ……」


 ここでの深呼吸は失敗だったが少し冷静になれた。


「横幅狭いし、どんだけ大量に来ても僕の斥力魔法でいちころでしょ。石投げて来るかもだからそれだけ気を付けて」


 横幅は2mほどで、天井は大人なら少し屈むくらいの高さだ。


「盾が欲しいな」

「水を捨ててでもミツビオアルマジロの甲羅持ってくるべきだったんじゃない?」

「ん~。まあ今更言っても仕方ないし、壁に隠れながらやろう……まだ見えてこないな?魚っさんかミニ魚っさんどっちだろ」


 足音が聞こえているがまだ正体は見えていない。


「違う魔物かもよ」

「……たしかに」

「明らかに鳴き声とか増えてきた」

「魚っさんくらい身体大きかったら大丈夫だけど、ネズミみたいな小さいのが大量に来たらやばくない?」


 ユーナの指摘にセシルは冷や汗をかく。


「……考えてなかった」

「なっなあ今なら逃げられるんじゃないか?」

「……やるよっ。ラインは明かり(雷魔法)点けたままで、ライアは敵が出てきたら明かり消して斥力魔法で攻撃して! ラインも近距離まで近付いてきたら消化液飛ばして!」


 ライアとラインは今のところ魔法は一種類ずつしか使えないが、消化液なら魔法を出しながらでも飛ばす事が出来る。



「私たちは?」

「後ろに隠れといて。万が一、後ろから敵が来たら対応お願いね」

「う、うん」


 ユーナとヨトは急に後ろが怖くなりチラチラと後ろを見ながらもギュッと2人でくっ付き徐々にセシルにもグイグイと引っ付き押してしまう。

 壁に隠れているセシルが追い出されそうになる。


「ちょっ何で押すの! 邪魔だよ!」

「そっそう言われても」


 2人は武器を手が鬱血しそうなくらいギュッと握りしめている。


 カーブになっている通路の奥から敵の肩口が見えて来た。


「きっ来た!! ミニの方だ!」


 ミニ魚っさんは小さい二足歩行の魔物で耳の部分に大きいヒレが生えており顔は鱗だらけ、魚っさんよりさらに魚に近い顔をしている。目は退化しているように見え身長は大きい個体でもセシルより頭一つ分は小さい


「撃って!」


 少しでも身体が見えた時点でセシルの両手とライアから斥力魔法が放たれる。


 ギョワッ

 キシャアアアア


 斥力魔法のスピードはそこまで速くないが魔法を避けきれずに命中した。

 狭い通路に複数でやって来たミニ魚っさんは、魔法の匂いに敏感に反応し避けようとしたが後ろがつっかえていたため避けきれなかったのだ。


 ギョワー


「あれ? これ余裕じゃん」


 ミニ魚っさん達は魔法から逃げる為、暴れ、転げまわる。

 大混乱に陥り、後ろに控えていた個体は一目散に逃げていた。


「よしよし、狭い通路なら余裕かも」

「うわっ」

「キャッ」


 カンッ


 大混乱に陥りながらも、賢い個体がいたのか逃げ腰ながらも石を投げて来た。

 だが、壁から顔と手くらいしか出していなかったセシル達に当たる事は無かった。


「あっぶね。隠れといて良かったな」

「隠れてたのに押し出されそうになったけどね」

「それはすまん」

「ごめんなさい」


 話ながらもセシルとライアが魔法を使い続け、逃げ遅れたミニ魚っさん達は粗方動けなくなった。


「でもどうにかなりそうで良かった。倒れている奴に止め刺しながら進むよ」

「分かった」

「うん」

「良い返事だ。よし、じゃよろしく」

「ん?」

「え? 何が?」

「トドめ」

「えっ私たちが?」

「そうだよ。2人ともお肉の解体はしているけど、何だかんだで生きている奴を殺した経験ないんじゃない?」

「あっあるよ」

「そうなの? ちなみに何を?」

「帝国に住んでいた時、鳥を絞めた事あるよ?」

「そうなんだ? じゃ大丈夫だね。よろしく」

「いや、だから経験あるから今殺さなくても大丈夫だよ。ほら、近付くと危険だし」

「さっきミニ魚っさん達が迫って来た時、2人ともガッチガチだったよね? ちょっとどころか結構邪魔だったし? 慣れて貰おうと思ってね」

「……そうだな。慣れないとマズいよな。よしっ、よし、おっ俺はやるぞ」

「お兄ちゃん!?」

「俺も以前からこのままじゃダメだと思っていたんだ。俺を信じろ」


 ヨトの強い眼差しに(カッコつけているけど、相手はもう瀕死だよ)と思いつつもユーナは余計な事を言うのはやめた。


「カッコつけているけど、相手はもう瀕死だよ?」


 言うのを我慢できなかった。






☆☆☆☆☆


ここまでお付き合いありがとうございます。

次話更新は来年です。

良いお年を

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