第181話 侵略者②


「冗談は置いておいて、ほらさっさと中に入るよ」


 セシルが洞窟へと促すと、ユーナがふと立ち止まる。


「どうしたの?」

「今、気付いちゃったんだけど、ミツビオアルマジロの甲羅を普段は鍋として使っているでしょ?」

「うん。今日は水を入れる容器にしているけど」

「そう、そこよ。序列戦の『後』に容器として使ったんだから、序列戦の時は盾として使えたじゃない。そしたら私も危険を犯さずにナンバーに勝てたんじゃないかって思ったわけよ。そもそもミツビオアルマジロの甲羅手に入れた時、盾に使えるねみたいな話してなかったっけ?」

「あー、そうだったかも」

「水を運ぶ用として持って行っていたから全く思いつかなかったぜ。へへっ」


 セシルとヨトは苦笑いをする。


「今更だけどね。というか、ミツビオアルマジロを鍋として使うのってちょっともったいない気がするんだよね。水の確保がどうにかなるようになったら、あれ私の盾に使わせてよ」

「ん~まあ良いけど。行商人から買った中古の鍋、使えるけど歪んでるんだよねぇ」

「俺も欲しいな。というか、マーモット達もあれ背中に付けたらカッコ良くね?」

「ほほーう。ヨト、良い事言うねぇ。マーモットアルマジロ部隊か~それありだね。今度ミツビオアルマジロ狩りに行こう」

「探すのが大変そう」

「おっと、こんな所で話し込んでる場合じゃないよ。ほら行くよ」

「はーい」


 洞窟の中に入り込んでいく。


「マーモ、魔物避けの臭いは大丈夫そう?」

「ん~ナァ~」


 マーモ達は少し渋い顔をしている。


「ちょっと臭いけど、まあなんとかって感じかな? 魔物避け置いてる所はまだ厳しいかもしれないね。あっ、でもマーモとマーモット達はここで待っていてくれてもいいよ?」

「ナァ~……ナー」


 マーモはしばらく考えた後、後ろのマーモット達を見て残る事を決めたようだ。


「分かった。じゃっお留守番よろしくね。ライライは申し訳ないけど着いてきてね。明かりが無いと洞窟の奥に行くの大変だから」

「ピー」「ピョー」


 ライライは明かりを一時的に消して返事をする。

 以前は明かりを点けている時は返事が出来ていなかったが、今は魔法の切り替えがスムーズになり、一瞬明かりを消してすぐ返事をし、ほとんど暗闇の時間なく再度明かりを灯す事が出来るようになっていた。


「ライライは魔物避け大丈夫なのか?」

「マーモに比べて鼻が利かないから多分大丈夫」

「そもそもスライムに嗅覚あるのか?」

「魔物避け自体は嫌がるからあるんじゃない? 目も無いように見えるけどなぜか見えてるし」

「スライムは魔物図鑑にも情報少ないんだよなぁ」


「さて、どっちに行こうか」


 家からは2本の通路が伸びている。

 どちらも魔物避けを置くために毎日通っている道だ。


「俺とユーナは魔物避けを置いている場所までしか行った事無いんだが、その魚っさんがいるであろう臭い道ってのはどっちの先にあるんだ?」

「ん~僕も1回しか行った事無いしねぇ」

「じゃその1回はどっちを通ったか分かるだろ! おい、またふざけてるのか? いい加減にしろよ」

「いやふざけてないよ。だってねぇ。初めて洞窟の奥に行って帰って来たらヨトとユーナが襲われていて大慌てだよ。そっちの印象が強くて道を忘れてしまっても仕方なくない? それって僕のせいなのかな? 助けた事で感謝される事はあっても文句言われると思ってなかったよ。まさか恩を仇で返されるとは思わなかったな。そう言えばあの時、助けてもらったくせに僕に襲い掛かって来たよね。信じられないよ。そんな事ってある? どういう育ち――――」

「分かった分かった! ごめん、ごめんって! 俺が悪かったよ!」

「セシルさんあの時は助けてくれてありがとね。でも道、全く覚えてないの? なんとなくも?」

「覚えているよ。右側の道の方だね。魔物避けを置いている場所の分岐は左」

「おいてめぇさっき会話は何だったんだよ! 覚えてんじゃねぇか!」

「そう言えば、何個か分岐超えた先に平トカゲがいたんだよね。思い出して来た」

「平トカゲって何? 強いの?」

「いや、そこまで大きくない平べったいトカゲ。全然動かないからすぐ倒せると思う。間違って踏んだら噛み付かれたけど」

「食べられるのか?」

「ん~マーモは食べても問題無かったけど、人間は分からないなぁ。魚っさん達に狙われてないのはなんでなんだろうな?」

「動かないから見付からないんじゃないか?」

「あー魚っさん達は目が潰れてるっぽいしそういう隠れ方もあるのか。臭いも消せるのかも?」

「平トカゲ食べられたら肉不足解消されるね。ただ魔物避けでいなくなったりしてないかな?」

「あー。その可能性はあるね。魔物なのかどうかは分からないけど」

「ん? 分からない? マーモが食べたんだろ?」

「うん、マーモとラインが食べたよ」

「じゃ魔石があるかどうかで魔物かどうか分かるんじゃないか?」

「なんか普通に食べてた気がするから魔物じゃないのかも。ラインは普通に消化しちゃうから判断付かないな。マーモも小さい魔石くらいなら普通に嚙み砕いて食べそうだし。あっそう言えば洞窟の奥はめっちゃ寒かった気がする! なんかだんだん思い出して来た」

「寒いのか~まあ大丈夫だろ」


 ヨトもユーナも年中温暖な気候で育ったので芯から冷える寒さを味わった事が無く、舐め切っている。


「セシルさんは噛まれて大丈夫だったの?」

「靴の上からだったから大丈夫だったけど、直接噛まれたらどうなるか分からないから気を付けてね」

「まじかよ。平トカゲいたらユーナ近付くなよ」

「分かった」

「あっ、それとトンボみたいな虫がすごい飛んでた」

「トンボ? そいつは危険なのか?」

「いや、鬱陶しいだけ。ライライ達の光にも集まらないから目が見えてないんだと思うんだけど、とにかく無駄に飛び回っているから鬱陶しい」

「それすげぇ嫌だな。だいぶ行きたくない」

「まあでもトンボがいる場所に着くとは限らないけどね。分岐3カ所目くらいからほんとに道覚えてないし、平トカゲは割とすぐいた気がするけど」

「なあ、そんな感じで迷子になったりしないのか?」

「ふふん。僕を誰だと思っているのかな?」

「……セシル」

「セシルさん」

「うん。いやまあそうなんだけど。忘れてないかな? 僕は賢者だよ賢者」

「略すなよ。正確には『賢者の卵のまま羽化しなかった不憫なやつ』だろ?」

「ちょっお兄ちゃん」

「痺れるほど口悪いじゃん。傷付きすぎて寝込みそうなんだけど。ヨトのそう言うところ直した方がいいよ」

「お前に言われたくない」

「けっ、賢者のセシルさんは迷子にならない方法があるの? 地図とか?」

「良くぞ聞いてくれました。以前通った時に矢印を壁に書きながら帰ったんだよ。行きの時は矢印つけ忘れてたんだけど、今回、行きも印を書いて行けば今後迷子になる事は無いと言って良いでしょう」

「ほーう。セシルのくせに思ったよりちゃんとしてるな」

「失礼なやつだな。ただ問題があってね。前回帰る時、凄く迷ったからさ。その矢印を辿れば家まで真っすぐ帰れる訳じゃないんだよね」

「ん? 家に向かう印を付けたんだろ?」

「家がどっちか分からない状態で家に向かうであろう矢印を付けたから家に向かってるとは限らないよね」

「えっちょっと混乱しちゃう。もう一回言って」

「家がどっちか分からない状態で家に向かうであろう矢印を付けたから家に向かってるとは限らないよね」

「……分かったような分からないような。向かった先に向けて矢印を書いて、それで家に帰れたんだから大丈夫なんじゃないか?」

「結構同じところぐるぐる回ったりしたんだよね」

「まじかよ」

「向かった先が行き止まりだった時は戻って×印を付けたよ? でも、道が続いてたらそのまま進む訳じゃん。その道は家に着くまでは正解かどうかなんて分からないから、こっちの道を通ったよっていう意味だけの矢印だよね」

「確かに」

「えっだとしたら、矢印たくさん書いて訳の分からない事にならない?」

「まあ一部の道はそうなってるかも」

「今回は前回と違う矢印書くの?」

「あっそっか。矢印同じだと前回のとこんがらがるね……えっと、まずスタートの分岐には向かった先の矢印を前回と違う高さに書いて、次の分岐に辿り着いたら振り返って【家】っていう字と矢印を付けたら良いと思う」

「高さはややこしいから矢印に加えて②って書けばいいんじゃないか。二回目の洞窟って事で」

「そっちの方が分かりやすいか。3回目、4回目はまた考えるとして今回はそれでいいや」

「ねえ、質問なんだけど」

「何?」

「前回セシルさんは洞窟を進むときどうやって道を選んだの?」

「適当だよ。通りやすそうな道と臭くない道」


 ユーナとヨトは口を開けて固まる。


「……よくそれで帰って来られたね」

「だから中々帰れなくて疲労困憊だったよ」

「じゃ、提案なんだけど最初の分岐で右側を通るなら、その後の分岐も全部右を通れば良いんじゃない? そうすれば帰りは全部左を通れば帰って来られるでしょ?」


 ユーナは教師然とした顔で胸を反らしドヤ顔をした。

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