第180話 侵略者
「そんな事より本来の目的の魚捕獲と、皆の身体洗うよ」
「分かった。身体洗うのと魚捕る組に分かれるのか?」
「いや、先に魚からかな。皆、川から離れて~。特にナンバー2とユーナは身体が濡れているからもっと離れてね。ライライ達はかなり遠くに行ってね」
セシルの指示に従って皆が川から離れて行く。
「よし、じゃあやるよ」
セシルが雷鎖を取り出すと川に投げ入れ、場所を移動しながらバリバリと雷魔法を流していく。
ぷかーっと魚が浮いて来た所で、ある程度で止める。
「すごーい! すごーい!」
「なっなんだよ。それは……」
「ふふん。凄いでしょう」
「おい、なんで今までやらなかったんだよ。楽に食事の確保出来るじゃねぇか」
「このバチバチがライライ達の弱点でさ、以前死にかけた事あるからあまりやりたくないんだよね」
「そっそうか……」
ヨトの口がヒクヒクと引き攣っている。
「よし、もう安全かな。回収ー!」
セシルが川に手を突っ込み安全を確認してから声を掛けた。
「ナー」「ピー」「ピョー」
ライライやマーモが楽しそうに川に入っていく。
マーモット達はぷかぷか浮いている魚に呆気に取られて口を開けたまま固まっていたが、気絶した魚が少しずつ流されているのを見て慌てて回収に向かう。
1回で人数分の魚は取れなかったので、少し川下に移動してまた同じことを繰り返し数を揃えた。
打ち上げられた魚を見てマーモット達全員が涎をダラダラと垂らし、マーモをチラチラと見ている。
本来はボスが必要分を確保してから残りを他のマーモットで食べる。
しかし今後はそうではない。
マーモが「ナー(気にせず食べて良いよ)」と声を掛けると皆が顔色を伺いながらもガツガツと生魚を食べ始めた。
だが、体格が大きいマーモットの食べるスピードが早く。
皆に行き渡る数を揃えていたはずなのに、ナンバー2などの大きい個体が周りを威嚇しながら自分の分を多めに確保し始める。
小さい子供などは逃げるように離れ、蟹などを自分で探し始めてしまった。
マーモはそれを見かねて、欲張っている個体の頭をバシン バシンと叩いて指導していく。
今後は子供やメスから先に取っていく事になった。
身体の大きいマーモット達は不満な顔を隠し切れていないが、子供とその母親は恐る恐るながらも一口食べ始めたら嬉しそうにガツガツと食べ始めた。
「ん~これだけ取っても取り合いになるのか。やっぱり27匹分ご飯揃えるの大変だね」
「俺達の分も早く焼こうぜ」
ライアとラインがセシル達の分やマーモット達の足りない分も追加で捕ってきてくれているのでそれを焼き始める。
マーモット達が先に食べ終わったので、次は川で身体を洗う事を指示し、セシル達も食べ終わると身体を洗うのを手伝って行く。
「やっぱり水浴びは時々必要だね。昨日ラインちゃんに綺麗にしてもらったけど、獣臭は結構残っていたもんね」
「ディビジ大森林で体臭って致命的な気がするけど、よく生き残れていたよね」
「ラインに綺麗にしてもらう前は獣臭と言うより土臭かっただろ? 地面に身体を擦り付けて土の臭いで誤魔化すんだよ。ほら、さっそく地面をゴロゴロ転がっているだろ?」
「あっ!? せっかく綺麗にしたのに!!」
「生き残るために必要な事だから仕方ないだろ」
「せめて身体が乾いてから転がって欲しいよ」
「そう言えばマーモちゃんは身体に土を摺り付けたりしないよね」
「あ~もしかして子供の頃から僕と一緒にいるからかも。最初は地面でゴロゴロしてた気がしないでもないような気がしないでもない」
「どっちだよ。とりあえず、土を付けるのは諦めるしかないんじゃないか? この大所帯で毎回こんな平和に水浴びするのなんて難しいぞ」
「まあそうだね。でも家の中に入る時はある程度砂を落として欲しいなぁ」
「入って良い部屋とか決めたら良いんじゃない?」
「そうするしかないかな。よく考えたら、この後魚っさん達と戦ったら生臭い臭いが付きそうだね」
「うわっそれ最悪」
「洞窟の奥の水場を確保出来れば良いんだけどね」
「その水って綺麗なの?」
「正直不安だけど、多分飲み水に使っているやつってその水なんだよねぇ」
「違う流れの水だよ。きっと」
「そうだと良いんだけどねぇ」
「そろそろ行こうぜ。ここにいたら何か来ちまうかもしれないしな」
「そうだね。のんびりし過ぎた」
帰りも煙が出ている場所を避ける様に遠回りして、岩場からちょろちょろと湧き出て来る水場に辿り着くと、持ってきた容器に水を補充していく。
「この水の量じゃ足りないんじゃないか?」
「う~ん確かに足りないかも。ねぇヨト、野生のマーモットって1日に何回も川に行くわけにもいかないだろうし、水どうしてるのかな?」
「いや知らねぇけど、なんだかんだ1日2回くらいは川に行くんじゃねぇか? 何も本流じゃなくても枝分かれしたちょろちょろ水とか、汚い水溜まりもあるしな」
「そっかー。とりあえず今回はここでたっぷり飲んで帰ってもらおう。今日、洞窟の中の水飲み場を確保すれば問題ないでしょ」
「それなんだが、俺とユーナは洞窟の中は魔物避けを置くところまでしか入った事ないんだよ。水飲み場は近いのか?」
「僕が見付けた洞窟内の川は結構遠かったんだけど、時々凄く生臭い道があったんだよね。そこの道を進めば多分魚っさんとかミニ魚っさんの縄張りだと思うんだよ。そこに川があるとしたら結構近くにも水場があるんじゃないかな?って思ってる」
「なるほどなるほど。臭いところ目指していくんだな……控えめに言って嫌だな」
水を入れた容器を手分けして持ち、溢しながらも家に辿り着く。
「はー疲れた」
「休んでる暇なんてないよ。みんな行くよ~! 侵略開始だ!」
「そっかー私たち侵略者か。侵略者……魚っさん達にも子供とかいるのかな……」
「そりゃいるだろうな」
「……ねぇやっぱりやめる事って」
「やめないよ」
「……そっか」
「お肉食べる為にワイルドウルフを積極的に探して殺そうとしているのに、魚っさんはダメってのもおかしいでしょ?」
「それはそうだけど、魚っさんは殺しても食べないんでしょ? 邪魔だから殺すってひどいと思わない?」
「……今、ハッと気付かされたよ。僕はとんでもないことをしようとしていたのかもしれない。たしかに無差別に殺す事は良くないよね……」
「でもあいつら俺らの事、殺しに来ていたように見えるんだが? 放置していたら一方的に襲われる可能性あるぞ?」
「……今、ハッと気付かされたよ。僕はとんでもない判断をするところだったのかもしれない。うん。やっぱりあいつら絶滅させよう」
「手のひらクルクルー」
「決断力があるって言って欲しいね」
「判断は早いけど、決断力があるって言って良いのか?」
「ヨト、細かい男はモテないぞ」
「ディビジ大森林でモテるもクソもないだろ」
すると急にセシルが真剣な顔をしてユーナに話しかける。
「ユーナ、ちゃんと覚えておいて欲しい。ディビジ大森林では甘さは一切必要ない。情をかけるな。全てが敵だ」
「……」
「さっき無差別に殺す事は良くないって言っていた奴のセリフかよ」
「ユーナ、分かったね?」
「……マーモットちゃん達は違うの?」
「……ん?」
「マーモットちゃん達は情で仲間にしたんじゃないの?」
「……ん?」
「聞こえているだろ」
「2人とも良く聞くんだよ」
「何?」
「何だよ」
「ここでは僕がルールだ」
「急に独裁宣言かよ」
「会話の振り幅がすごいよ」
「冗談は置いておいて、ほらさっさと中に入るよ」
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