第3話 魔術師の来村
セシルはほとんどの時間を、ライムとマーモと過ごしている内に、魔術師選定の儀の日が来た。
この村は王都から遠い為、宮廷魔術師ではなくトラウス辺境領お抱えの魔術師がやってくる。それでも領主の住むトラウスの街からは、真っすぐ来ても2日もかかる。
他の村も周りながら来るため、毎年全部の村を周るのに1ヵ月がかりの大仕事になるようだ。
先触れの騎士達が来たので、村人達は村の入り口まで集まる。
お出迎えは強制ではないが、刺激の少ない田舎の村ではお祭りごとには積極的に参加したい。
もちろんセシル家族もやって来ていた。
ライムとマーモはお留守番だ。
「誰が来るのー?」
セシルがカーナに聞く。
「魔術師様がいらっしゃるのよ。セシルが魔術師としての才能があるか見てくれるの」
「僕の才能?」
「そうよ。ライムとマーモの件もあるし、セシルは凄い魔術師様になれる才能があるに違いないわ!」
魔術師様がお供の騎士5名と共にやってくると、トルカ村を上げて歓迎の宴を開かれた。
肝心の選定の儀は、翌日行われるそうだ。
村では娯楽が少ない為、選定の儀ではここぞとばかりに盛り上がる。
選定する年齢の子が居ない年は、魔術師様が村に来ることは無いが、それでも何かとこじつけで毎年宴が開かれるくらいには娯楽に飢えている。
トルカ村では特待生に選ばれる子が出たことが一度も無い為、特に今年は自然と村人の注目度が上がっていた。
従魔の能力は怪しい結果に終わってしまったが、それでも魔物と仲良くなっているのは事実である事には変わりがない。
セシルに見切りを付けていた大人達も、魔術師や騎士に対して『今年は魔物を従える能力がある子供がいるんですよ!』と自慢気に語っていた。
それを見て、セシルの両親が「調子の良い事言いやがって!」と憤慨していたが、周りの大人達がまあまあと宥めていた。
すると、魔術師様からセシルにお呼びが掛かった。
セシルがすぐ行こうとすると、近所のおばちゃんから魔術師様の名前はルーレイ様と言うんだよ。と耳打ちで教えて貰った。
こういうのは親の仕事だろうと思うが、興奮していてそれどころでは無さそうだ。
「君が従魔がいると言う子かな?」
ルーレイは黒に近い茶髪で髪は後ろで縛ってある。40代半ばくらいの男性だ。
古びたコートを羽織っており温和な喋り方で訊ねて来た。
「はっはひっ。せっセシルと申します。じゅうまが出来るかどうか分かりません。ライムとマーモは友達です。他のまものは友達になれたことがありません!」
まだ大人の男の人が怖いと言う気持ちがあるが、平民にとって魔術師様に逆らうと言う選択肢はない。
「はっはっはっそんなに緊張せんでも良いぞ。そうかそうか。友達か。従魔という力は特別でな。明日行う選定の儀では詳しく分からんのだ。優しい性格と大きい魔力が特徴と言われているがね。従魔の能力があるとされている人達は皆、従魔と言う能力を認めないから話が進まんのだよ『従えているのではない。友達だ』と。そのくせ従魔にする為の儀式はするんだがな。矛盾しておるが感情の方が大事らしい。はっはっはっ明日を楽しみにしているよ。呼びつけて悪かったね戻っていいよ」
「はっはい! しつれいします」
会話が終わり席に戻ってホッとしていると、セシルの元にガヤガヤと酒を片手に持ったオッサン達が集まって来たが、両親が酒乱どもから守る様に「もう遅いから帰りなさい」と言い、それを切っ掛けにセシルが帰り、それ以外の子供達も先に帰らされた。
その後、大人達は夜中まで騒ぎ続け、朝、顔を洗いに外に出ると、道端に何人か酔いつぶれた大人が転がっているのは毎年恒例だ。
セシルの両親は昨夜ほどほどで帰って来たようで、朝から問題なく起きていた。
「セシル頑張るのよ!」
「どんな結果でもお父さんとお母さんは味方だからな!」
と言って2人してセシルに抱き付く。
「あぁもう! 分かったから! もう7歳なんだよ! 分かってるよ!」
と言いつつも親の愛情が嬉しく、セシルの頬は緩んでいる。
ニコニコしている両親を見ていると、期待してくれているのが嬉しく、自然とワクワクしてくる。
良い結果を出して両親に喜んでもらいたい。
この時のロディの『どんな結果でも味方だ』という言葉が、本当の意味でセシルに届いていれば、3年後、もっと幸せな道を辿っていたかもしれない。
「ああもちろん分かっているさ! セシルはもう立派だもんな! なんたって私たちの子供だからな!」
「ほんとに分かってるのかな。じゃ行ってきます。ライム、マーモも行くよー」
マーモがナーという鳴き声と共に付いてくる。
ライムは鳴けないので、マーモの上でぴょんぴょんと飛び跳ねて返事をしている。スライムは移動が遅い為、マーモの上にライムが乗っている事が多い。
セシルは2匹と一緒に選定の儀を行う広場に向かった。
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