第2話 セシルのトラウマ
セシルと後2年も一緒に居る事が出来ない。
と言うのも、1年に1回7歳の年の子供たちの魔法の才能を見る為、王宮に勤める宮廷魔術師か各領主のお抱え魔術師が各村や町を周る事になっており、才能が認められれば王都の学院に通う事が国民の義務となっている。
ちなみにこの国では管理がし易いように、年度が変わる時に貴族も平民も変わりなく一斉に年を取る事になっている。
もちろん、財産に余裕がある家は、生まれ月も祝うが、記録上は年度毎となっている。
子供たちの魔法の才能をわざわざ見て回る理由だが、魔術師の数は国力とも言えるからだ。
いくら宮廷魔術師のトップ『大魔術師』の二つ名を持つ人物であっても、一人では大きい戦の戦局を変える様な事は出来ないが、一般的な魔術師レベルである『顔と同じぐらいのサイズ』のファイアーボールを2~3発撃てる人物が100人もいると話が変わってくる。
数は正義であるし、戦だけではなく、生活魔術の発展に於いても魔術師は活躍するのだ。
その為、魔術師の才能が認められた場合、身分に関係なく王都の学院に通う事になっている。
才能が認められた特待生であれば、衣食住が最低限保障されており、学院に通っている間は働かなくても一応の生活が出来る。
現在のセシルが6歳。約半年後に7歳になり魔法の才能のチェック。そして特待生に選ばれれば8歳で親元を離れて寮生活である。
特待生に選ばれる可能性なんてほとんど無いが、セシルの両親は気が早く、もうその話をしていたのである。
この両親の我が子が『世界一可愛い』『世界一凄い』という愛ゆえの親馬鹿な期待が、後にセシルを苦しめることになる。
学院は8歳から13歳までの5年間であり魔術コース、騎士コース、文官コースがある。
お金さえ出せばどのコースでも好きな所に通えるが、特待生として学院に通う場合は魔術師コース限定となっている。
ようするに平民で特待生として認められるのは魔術師だけと言う事である。
他のコースは金を払って通うしかない。
コースは分かれているが、一般常識の授業もあるので、識字率が2~30%程度のこの国では、農民出身でこの学院に通えただけで大出世であり、よほどの事が無い限り将来が約束されたようなものである。
そんなこんなで大騒ぎし始めた両親のせいで、セシルが魔物を従えた。と言う話は1日を待たず村人全員が知る事となった。
従魔の能力は魔術師の中でも珍しいのだ。
村人全員と言っても100人程度しか居ない様な寒村であるが、知れ渡ったおかげでスライムのライム、マーモットのマーモは村人の一員として認められることになった。
ライムとマーモと言う名前は、6歳の少年であるセシルが付けたので、安直だなんて無粋な事を言うような人はいない。
問題は、友達になったライムとマーモ以外の魔物が出た時もセシルが村人に呼ばれた事だ。
「あの魔獣達を二度と来ないようにしてくれ!!」
「この魔物を
村の住居部は、共同出資による村の資金で木の柵で囲い自警団で守ってあるが、各自の農地はそれぞれの責任で防ぐことになっている。
だからと言って魔物からの防衛など、6歳の子供に頼む事ではないが、上手くいけば儲けもんとばかりに呼ばれた。
しかし、最初に友達になったライムとマー以外の魔物とは心を通わせる事は出来なかった。
それはもう、まるで、全然、ダメだった。
ライムとマーと出会った時は、なんとなくほんわかした空気感が最初から漂っていたが、他の個体は全くそんな様子はない。
セシルに対しての敵意はまさに『野生』だった。
唸り声を上げ、牙を剥き出しにし威嚇する『ザ・野生』のマーモットの前に連れ出されたセシルは、恐ろしさの余り漏らして泣いてしまった。
その様子に慌てた村人は、マーモットを従魔にするのを諦め、自分で撃退した後に、セシルの両親に「幼い子供に申し訳ない事をした」と家まで謝罪に来た。
その後も、その事件を知らなかった村人から、通りがかったセシルを捕まえて魔物の前に出す。と言う事件が2件起きては失敗をし、使い物にならない能力だったと村中に周知されることになった。
セシルの従魔の能力があると言う話は1日で広まったのに、この魔物事件が広まるのに時間がかかってしまったのは、小さな子供を魔物の前に出した。と言う、人でなしの行動を他の村人に知られないように、それぞれが秘匿しようとした為である。
ロディとカーナはかなり怒っていたが、謝罪に来た人の事をわざわざ他の村人達に伝えるまでも無いと話さなかったのもある。
同じ村の人を悪く言ってしまうと、この小さい村ではどちらかが村八分になって住めなくなってしまう可能性がある。
怒ってはいるが、それは望むところではない。
その結果、セシルは『大人に無理やり野生の魔物の目の前に出される』と言うトラウマ物の事件を6歳で3回も経験してしまった。
ライムとマーモにお願いすれば、野生の魔物とも戦ってくれたりもするだろうが、元々が弱い種類の魔物な上、従魔だからと言って能力は逸脱したものではない。
普通のどこにでもいるスライムとマーモットと同じ強さだ。
マーモットは大人が武器を持てば退治出来る程度であるし、スライムに至っては少年と言われるくらいの年齢の子供や、畑仕事をしているような大人の女性であれば倒せる程度だ。
ライムとマーモの2匹でかかれば、スライムやウサギの魔物のアーミラージくらいはどうにか退治出来るであろう。
その他の比較的弱い魔物とされているゴブリン相手でも、ゴブリン側が1匹で武器も持っていないという条件で、互角に戦えるかどうか……と言った程度だろう。
村人達も最初は6歳の子にそんなに期待してないよ? と言う気持ちだったが『もう害獣に悩まされる事は無いかも?』と言う思いが心のどこかに住み着いており、その淡い期待の気持ちがいつの間にか大きくなってしまっていたのだ。
その期待を大いに裏切った形になってしまい、セシルは悪くないと分かっていても、自然とセシルに対して一部の村人の対応は冷たくなってしまっていた。
セシル自身も事件後、大人の男の人は怖い事をする。と言うイメージがこびり付いてしまい、あまり村をうろつかなくなってしまう。
両親や近所のおばちゃん達は、依然と変わらない愛情をセシルに注いでくれていたが、セシルの従魔の能力が不確かで、ライムとマーモが暴れる可能性を捨てきれない為、数人いた同年代の子供達は近付く事もほとんど許されなくなってしまった。
それでも子供達も最初はセシルに会いに来てくれていたが、親の見てないタイミングを見計らって会いに来るのが段々と面倒になったのか、自然と疎遠になってしまう。
2匹の存在によってセシルは村にとって浮いた存在となってしまったが、親の愛情によって寂しさを感じる事はなかった。
「ライムとマーモが雑草を食べてくれるから、農作業が楽になった!」とロディとカーナは大喜びし、セシル同様にライムとマーモを愛してくれたので、セシルはそれだけで満たされる事が出来たのだ。
そうして、村では半分孤立の様な状態で過ごすうちに、魔術師の選定をする日がやって来た。
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