第4話 魔法講義
広場の真ん中に行くと、すでにルーレイと騎士が待っており一緒に選定の儀を受ける同い年の男の子トールも来ていた。
「遅れてすみません」
実際遅れた訳ではないが、立場が圧倒的に上の存在を待たせた事に慌てて謝罪する。
ド田舎の7歳であっても貴族や準貴族に対する態度は口を酸っぱくして言い聞かせられているのだ。
ルーレイは温厚そうな雰囲気ではあるが、万が一にも無礼だと咎められれば命に関わる程の身分差がある。
「そんなに畏まらなくても大丈夫だよ。緊張していると上手く魔法が使えないかもしれないからね。その2匹がセシルの友達かな?」
ガチガチに緊張して全く魔力を測定出来なかった子も実際にいるらしく、それ以来魔術師も元より帯同する騎士も温厚な人が優先的に選ばれるようになったらしい。
測定できなかった子も後日落ち着かせてやったら、測定が出来たとの事だ。
ほんとに魔力が全くのゼロと言う人は今まで見付かった事は無く、平民でも練習すれば握り拳程度の大きさの火を一瞬出せたり、そよ風が出る程度の多少の魔法は使える様になる。
「はいそうです」
「うむ。ちゃんと懐いているようだね。ここでは魔力の繋がりを確認出来ないのが残念だが、もし気になるようだったら王都で調べて貰うと良い」
「いえ、それは大丈夫です」
「そうか。では講義の間、大人しく待たせることが出来るかね?」
「はい大丈夫ですが、ジッとしているのは可愛そうなので、近くを歩かせていても大丈夫ですか?」
「安全に問題が無いなら構わないよ」
「ライム、マーモ。近くで自由にしてていいよ。見える所から離れないようにね」
マーモは「ナー」と返事をし、ライムを乗せたまま近くに座った。
講義を一緒に聞くようだ。
選定の儀とは言うが儀式とは程遠い授業の様なものが行われる。そもそも魔法を動かす知識が無いと選定も出来ないのだ。
最低限物事を理解出来る年齢までは大事故になる可能性があり、7歳になるまでは教えてはならないと法律で決まっている。その為、専門家が選定の儀と共に教える事になっている。それは王族や貴族であっても同じだ。
もちろん貴族達は7歳以降は専属で魔術師を付けて教える為、平民と比べると魔法力が強い傾向にある。
そして選定の儀では1刻ほど魔法の講義を受けてから判定を行う。
まだ結果が出るまで時間が掛かるため、興味がある村人も今の時間はよっぽど暇を持て余している人か、二日酔いでその場から動けず、遠巻きに見ている人しかいない。
ちなみに選定の授業より選定の儀と言った方がカッコイイから、と単純な理由で選定の儀と呼ばれている。
広場には椅子が用意してあり、魔術師ルーレイと子供達、騎士の3名が座り、残りの騎士2名が立って警護と言う形で講義が始まる。
騎士は交代で立ち、警護役をするようだ。
セシルの緩いなぁと言うのが顔に出ていたらしく、笑いながら騎士様が「全員が同じ様に疲れたら、いざと言う時に使えない可能性がある。それなら交代して疲れるタイミングをズラすべきだ。というのが事実であり建前でもある。本音は慣れていても立ちっぱなしはしんどいよ」と教えてくれた。
「早速始めようか、君たちにもなるべく分かりやすい言葉で話すが、どうしても難しい言葉になってしまう事がある。分からない事があったら、その場その場で遠慮なく聞いてくれ」
「「はいっ」」
こうして魔法の授業が始まった
ルーレイは2人の質問に答えながら説明を続ける。
「――と言う事で属性は引力、斥力、無、雷の4つとされているが、もう一度分かりやすく言うと斥力が放出。えーと、出す事な。引力が吸収……ん~集める事。と言い換えても良いだろう。細かい事を言うと違うのだが、とりあえずそのようにイメージしてくれたらよい」
身振り手振りで引力と斥力を説明する。
「引力と斥力の力を持たせずに、ただただ身体の中に宿っている魔力を出すだけが無属性となる。無って言うのは何もないみたいな意味だな。無の魔力については本当に効果が無なのか? 何か力があるのではないか? とまだ研究途中だ。実際、無属性の魔力が身体に当たったりすると違和感を覚えたりするので完全な無と言う事はまあまず無いだろうがな」
ルーレイは2人の様子を見る。
あまり理解出来てなさそうな顔に苦笑しながら話を続ける。
「次に雷だ。これは火や雷魔法と言われるものを使う時に使われる。身体には小さい雷が流れているらしい。これもそれを魔力で無理やり発露させることで発火させたり、ビリッとした雷を出すことが出来る。雷魔法と言うが、出せるのはほんとに小さいものだけだ。雷を飛ばせるような魔術師には会った事がない。注意点としては雷が鳴っている時にその技を使うと、自分に空からの雷が引き寄せられて落ちて来るらしいから、雷が鳴っている日は絶対に使ってはならないぞ。雷を切っ掛けに使う火の魔術もまた同じだ。まあ雨の中では火は付かんがな。まだ実際に見てみないと分からないと思うが、なんとなく無と雷に付いては大丈夫かな?」
「雨の日に雷の魔法を使うと空の雷が落ちてくるんですか?」
セシルが質問する。
「そうだ」
「だったら最初から身体に雷が流れてるなら魔法を使わなくても雷落ちてきませんか?」
「むう……それは考えもつかんかったわ。とりあえず身体の中に隠してる雷を、外に出したら気付かれて空の雷が寄ってくる。って事で納得してくれんかね?」
「は……はい。分かりました……」
セシルが答え、トールもそれに合わせて曖昧に頷く。
「ふふ。私も分からない事ばかりだ。では実演しながらまた説明をする。基本的には無と雷は誰でも使える。魔力は誰でも持っているし、雷はすでに身体に流れている。雷が身体に流れていると言うのが理解しにくいと思うが、今はそれは置いておいて、重要なのは引力と斥力だ。引力の力を持っている人は斥力の力を持っていない。その逆もまた同じ。斥力の力を持っている人は引力の力を持っていない……が、特殊な例として両方持っていたとされる大賢者様がいる。まあ普通はどちらかしか持てないと思っていて間違いが無い。両方使えたのは未だ大賢者様お一人と言われているからな。私は引力の力を持っている。引力は主に火、水が使える。場合によっては闇、治療などだが、治療に至っては選ばれた人にしか使えんし使ってはいかん」
「治療は何で使っちゃダメなのですか?」
トールが聞く。
「まず、そもそも魔力が多い魔術師が複数いないと出来ないと言うのが1つ。それと魔力の調整を間違えると逆に酷くなる場合があるらしいのだ。なので、特別な資格を持っていないと使ってはいけない事になっている。詳しい事は秘匿されていて、基本的に使う事は禁止されていると言っても良い」
2人が納得したのを確認してから実践に移る。
「では次は火の出し方を実践で教えよう。念のため少し離れてくれるかな?」
セシルとトールは椅子から立ち上がって1、2歩後ろに下がる。横には騎士が一人ずつ立って守るような位置にいる。
ライムとマーも少し後ろに移動したのを確認してから、近づかないように騎士が見てくれている。
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