第5話 魔法の実演
「よし、よく見ておくんだよ。まず身体の魔力を掌から外に出しながら、その魔力に引き付ける力をイメージ付ける。そしてそこに体内にある雷の力を当てる」
すると何も無かった所に突然バチッと音と火花が散って小さな火が点った。
「小さな火が付いたら身体から引き付けるイメージの魔力を大量に流す。すると周りの燃える空気が集まってくれて一気に燃え上がる」
ぶわっ
大人の身体程の大きな火が一瞬立ち上がってすぐ消えた。
一瞬であったにも拘わらず肌を刺す熱さにセシルとトールは驚く。
「「すっげぇ」」
「ははは。喜んでくれたようで良かったよ。これが火の魔法だ。何の力も持たない魔力に引き付ける力を持たせてそこに雷を当てる。すると火が付く。そこにすかさず燃料を投下する事で火を大きくする事が出来る。引力の魔力で燃える空気を引き付けるのだ」
2人はまだキラキラした目でルーレイを見つている。
自分たちの親が使っているのも日常的に見た事があるが、規模が全然違う。
一般的な村人だと魔法の得意な者でも拳くらいの火を出すのがせいぜいだ。
「次は水を出そう。ああ、もう座って大丈夫だよ」
次の魔法を見たい為かササッと座ろうとして椅子を蹴り倒してしまっている2人を見て苦笑しつつ、座るのを待ってからルーレイが講義を続ける。
「水は引き付ける魔力を出す所までは一緒なのだが、その時に体内の水分を少し引っ張る。そして小さな水が出来た所で体内から引っ張るのを止めて、引き付ける魔力を大量に出して空気中から水を一気に持ってくる。必要な量の水が集まったら後はゆっくり魔力を流し続けて維持すると……」
すると頭くらいの大きさの水玉が出来て形を保っていた。
「触っていいよ」
2人が恐る恐る触るとポヨンポヨンとしていたが手には水が付いている。
「じゃ離れて……魔力の供給を止めると……」
ばしゃっと言う音をさせて水玉が崩れ去った。
「今水を触った時に手に水が付いただろう? それは私が出している魔力による引力より手の張力が勝ったからなのだ。手の張力と言っても分からないだろうが、簡単に言うと手に引っ付く力だな。この力と引力が綱引きをして勝ったから手にちょっと付いたんだ。魔力の引っ張る力を強めると手に全く付かない水を作る事も出来る。かなりの力が必要だがな。この辺りはもし学院に通う事になったら学んでくれ」
2人の様子を見て続ける。
「ではさっきの魔法に共通するのが何かわかるかな?引っ張る事以外で」
トールが元気よく手を挙げる。
どうぞと手で発言を促す。
「空気!」
「そう! 良い所に気が付いた! 実は我々の周りにある空気にも色んな力を持った物が浮いているらしいのだ。これは学者先生がそう言っているからそうなのだろうとしか言えないが……空気の中には火を燃やす物もあれば、水分もあるそうなのだ。意外かもしれないが、夏は空気中に水分が多く水の魔法が使いやすい。冬は空気に水分が少なく乾燥している為、火の魔法が使いやすい。空気中にあるものを使うとなるとどういう問題が起きるか分かるかな?」
2人とも答えられない
「足りなくなるのだ。狭い閉じこもった所で火の魔法を使ったとしよう。分かりやすくする為に火傷とかは今回無視するとして、火を使うと火に使うための空気が無くなる。しかしその空気は我々が呼吸する為にも必要なようだ。狭い空間で必要な空気が無くなると……人は死ぬ。まあこれもまだ研究中ではあるそうなのだが、死ぬのは間違いない。他にも隣の人が同時に同じ魔法をそれなりの大きさで使った場合、空気の成分が足りなくなって魔法が小さくなったり発動しなくなったりする。魔法は万能のようで意外と制約が多いのだよ。他には何か共通する事はあったかな?」
セシルが恐る恐る手を挙げて答える。
恐る恐る挙げてはいるものの、優しそうに話すルーレイに対してはもう大人の男という恐怖は感じていないようだった。
「きっかけ? ですか?」
「そう! そうだ! これに気付ける子はそうはいない! 何かを引き付ける場合、何か切っ掛けが必要なのだ。火の場合は雷を使って無理やり火を作り、そこに必要な燃料を投下する。水は体内にある水分を無理やり使って切っ掛けを作り、水を集める。魔力に引き付ける力を付けるのはいいが、何を引き付ければ良いのか? という指向性……あー方向性? ん~指示が分かりやすいな。魔力に何を引き付ければ良いのかの指示を出すために最初に切っ掛けが必要なのだよ。雷や水は体内にあるものなので切っ掛けとして利用しやすいと言う事だ。火はかなり無理があるそうだから、水に比べて習得が難しい。最初は乾いた葉っぱ等を手に持ってから着火をするようにすれば身に付きやすい。まあ魔術がどういう物かと言うのは何となく理解出来たかな?では使用時の注意点などを簡単に説明してから測定をするよ」
「はい! 質問良いですか?」
「お? 何かな?」
「魔術と魔法って何が違うのですか?」
とトールが聞く
「う~ん。厳密に決まっている訳ではないが、火や水を作り出す現象が魔法で、魔道具や魔法陣を作ったりする事を魔術と言っているかな? 出て来た物を魔法、それまでの過程を魔術。そしてそれらを使う人を総称して魔術師としているかな。正直言葉の語呂が良い方を使えば良いと思うよ。はっはっはっ」
では改めてと言って、注意点や過去に起こった事故の説明があった。
その内にジワジワと村人が集まって来て、否が応でも緊張感が高まってくる。
そわそわして注意点が右から左に聞き流してしまうようになった頃ついにその時が来た。
魔力測定の時間だ。
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