第23話 初めての旅
ロディとカーナはまた涙ぐみセシルに抱き付く。
セシルもたくさん泣いてお別れをしたはずなのにまた涙が出てくる。
3人で抱き合っていると、コルトが話しかけて来た。
「すまないが、そろそろ」
「はっはい。ずみまぜん」
ロディが鼻水だらだらになっている。
それを見てセシルとカーナは泣き笑いをする。
「セシル行くよ」
「うん」
イルネがセシルの手を握って歩き出す。
セシルは手を繋いだまま振り返り言う。
「父さん母さん、手紙書くね」
「うん。うん……手紙待っているね。元気でね」
またカーナが泣きだし力が入らず座り込んでしまうが、無情にもセシルを乗せた馬車は出発してしまう。
これ以上遅れると、危険な場所で野営する必要が出てしまうからだ。
まずはトラウス辺境領の中心『トラウスの街』に向かう。
2日の旅程にはいつもの3騎士と馬車の御者が同行する。
少し大きめの馬車の中に3騎士とセシルが座り、足元に2匹が乗っている。
「いい加減泣き止んでください!!」
「だってぇ……ヒックヒック」
「だってじゃない! セシル本人が泣き止んでいるのになんで2人がまだ泣いているんだ!?」
ダラスとイルネが泣き続けているのだ。
ダラスは『なっ泣いてなどおらんわ!』と小さい声で言っていたが、ズズッと鼻をすする音が聞こえている。説得力は皆無だ。
コルトは、はぁ~と溜息をついて外の景色を眺める。
セシルはすっかり泣き止んで外を楽し気に眺めている。
初めて村の外に出たから全てが新鮮なのだ。と言っても見えているのはガタガタの道と森だけだが。
「コルト様、魔物は出ないのですか?」
「いや、普通に出るぞ。だが、ガタガタと音を立てて移動しているからな。移動中に襲ってくることはあまりないな。あるとしたら狼系の魔物くらいだが、基本は夜行性だから寝ている時が危ないな」
「えっ大丈夫なのですか?」
「夜は交代で見張るから安心して良い。馬車道沿いの魔物程度なら我々で充分だ……本当は今、この2人が寝る時間なのだがな」
泣いていた2人が気まずげにツイッと目を反らす。
「そろそろ馬の休憩の時間だからな。起きておったのだ」
「そっそうです! 休憩時が危ないですからね」
コルトが呆れた顔で肩を竦める。
しばらくすると馬車が止まった。
水場は無いが、広めの空き地がある。
「しばらく休憩します。警戒お願いします」
御者が声を掛ける。
「了解。ではダラス様とイルネは哨戒に行ってくれ」
「りょーかい」「ハッ」
「セシルも馬車を降りてライムとマーモを連れて軽く歩きなさい。馬車の中で身体がしんどかろう。ダラス様とイルネが哨戒から戻って来たら干し肉を渡すから軽食休憩だ。それと用を足しておきなさい。その時は必ず私に声を掛けるように。魔物が居ないように確認はしているが、万が一があるからな」
「はい」
痛くなったお尻を撫でながら、ライムとマーモと一緒に馬車の周りをグルグルと歩いて回る。
その間に御者が馬に水を与えたりブラッシングをしたりしている。
「左方問題なしです」
「右方問題なしだ」
2人が戻って来て報告が終わったので座って干し肉を食べる。
「硬くて食べられない。しょっぱい」
「ハハハッ旅での肉は特にしょっぱいんだ。肉の保存と塩の補給も兼ねてある。しばらくこの肉が続くが我慢するしか無いな。肉も大事な栄養源だ。馬車に持ち込んでも良いから硬くても少しずつ食べなさい」
「はい。分かりました……おしっこ行きたいです」
木陰に隠れて用を足す。その5メートルほど離れた所にコルト隊長が待機している。
(おしっこも騎士様を待たせているって考えたら緊張して出ないよ)
その後も適宜休憩を取りながらトラウスの街を目指す。
夜はセシルにとって慣れないテントでの就寝だが、イルネがセシルが寝るまで添い寝をした為問題なく寝る事が出来た。
まだ子供の為、寝たら朝までぐっすりだ。
「セシルおはよー。起きて! 朝ご飯出来たよ。獲れたてのワイルドウルフがあるから今朝は美味しいぞぉ」
イルネに起されてモソモソと起き上がる。
「わっ!」
テントを出ると、血の臭いと共にワイルドウルフの死体が目に入って来た。
死体は4体も並んでおり、そのどれもがセシルより大きく迫力がある。
「どうしたのこれ?」
「セシルが寝ている時に襲って来たんだ。美味しいのが食べられるぞ。運が良かった」
「魔物が襲って来たのに運が良いんだ・・・」
セシルが奇妙な者を見るように3人を見るが3騎士はお構いなしにニッコニコしている。
「セシル君が正しい感覚だと思うよ。普通は4匹でも命懸けだよ」
御者さんがそう言ってくれたのでセシルは普通の感覚にホッとする。
普通に進めば夜には街に到着するらしいが、セシルの出迎えをする為に少し手前側で1泊して翌日街に入るらしい。
翌日、イルネに起されたセシルは今まで着た事が無いような服に着替えさせられた。
セシルでもパッと見で上等だと分かる服だ。
「何これ?」
「ふふ。これから私のセシルちゃんのお披露目よ」
「お披露目?」
「ほら、領主様に会うから綺麗な服じゃないとダメでしょ?」
「そっか」
そこから半刻ほど進むと大きな壁に囲まれた町が現れた。
「すっごい! 何あれ! 何あれ!」
「あれは外壁よ。住民を守る為にグルっと街を囲んでいるの。セシルの村にも柵があったでしょ?」
「え? 村の柵ってあの簡単に乗り越えられるやつ? 全然違うんだけど……?」
「中に入ったらもっと驚くわよ」
大人4人がお上りさんのセシルを見て微笑ましい顔をする。
少し進み城門の前で行列を作っている人達の列を追い越して門の前に到着すると馬車の乗り換えがあった。
「何で乗り換えるの?」
「ふふふ~何でだろうねぇ」
乗り換えた馬車は屋根が無く、2人用の椅子が3列並んでいるタイプだった。
豪華な装飾がされている。
「凄いだろう。これは滅多に乗れるものじゃないぞ。英雄とかが乗るような馬車だ」
「えっ?」と驚いていると、優しく背中を押されおっかなびっくり乗り込む。
セシルが不思議に思っていると、「開門! 開門!」と言う兵士の声と共に大きい門が開き始めた。
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