第21話 ライムとマーモットの生態
ある時、3騎士にセシル家族が集められた。と言ってもいつもの日常にコルト隊長が加わっただけだが。
もちろん2匹もいる。
「スライムとマーモットの生態と従魔についての資料が届いた。これは王都で管理してある書庫にある物を書き写した物で信憑性が高い物だ。知っといた方が良いかと思って取り寄せていたのだ」
「わざわざありがとうございます」
ロディとカーナが頭を下げ、促されてセシルも頭を下げる。
「ハッキリ言うと、この2匹が異常だと言う事が分かった。いやセシルもだが」
セシルファミリーの様子を見ながら話を続ける。
「まず2匹の従魔がいる事自体が前例にないようだ。魔力量の問題だと思われているので、セシルの件は魔力量が多いで片付けられそうだが、もしかしたら引力と斥力の2種類の魔法が使えることで2本のパスが通せている可能性もある。2匹とも2種類の魔法が使えているから、魔力量の方が有力だと思われるが、結論を出すのはまだ早いと思う。まだまだ魔力に余裕がありそうなセシルでも2匹以外は従魔に出来なかったからな」
全員がライムとマーモを何となく見るが、2匹は無反応だ。
セシルの理解出来てないことは2匹も分からないという説は正しそうだ。
「魔法を使う件に付いてだが、やはり過去に元々魔法を使わない種族が魔法を使った事例が無かった。まあこれは予測していたが……次は肉体能力についてだ。肉食をしたからなのか、我々と一緒に訓練をしたから強くなったのか、従魔だからか、はたまた全てか」
一口お茶を飲んで資料を見ながらまた続ける。
「1つずつ話していこう。恐らくだが肉食は関係ないだろうとの結論だ。草食でも強い魔物もいるし、肉食でも弱い魔物は弱い。ちなみに知っての通り2匹とも雑食だな。特にスライムは消化液で溶かせる物ならほとんど何でも食べる」
セシルがハッとした顔をする。
「ん? セシルどうした?」
「ちょっと思い付いた事があって」
そう言ってライムに近付くと、ライムがセシルの口に触手を突っ込んだ。
「ちょっ! 何を!!?」
見ていた全員が驚いて止めようとする。
スライムは何でも食べる。と言った直後にライムがセシルに入ろうとしているように見えたのだ。止めるのも当然である。
セシルが慌てて、周りが止めようとするのを手で制して言う。
「だいひょーぶ。だいひょーぶ」
ライムがセシルの口から触手を引っ込める。
「何でも食べるなら歯磨きを任せたら綺麗になるかと思って」
ニッと歯を出すと、確かにピカピカになっていた。
通常木の枝などで歯磨きをするため、どうしても歯が黄ばみがちなのだ。
「びっびっくりした~」
そう言ってカーナが腰を下ろす。
「やる時は先に言ってくれ」
コルトも疲れたように言う。
「ごめんなさい……あっ! てことは、ウン「それ以上はいけない」チ」
カーナが慌てて止める。
「あー、まあ一応言っておくとスライムはそれの処理をする事も可能と聞いている。しかし歯磨きに使えるのは有用だな。歳を取ると歯がボロボロの者も多いからな」
それには皆が頷く。セシルも満足だ。
「では、話を戻すぞ。肉食の魔物が異常に強いかと言われればそんな事は無い。次に訓練をしたから。という物だが、これは間違いなく影響があるだろう。肉体は鍛えれば成長する。これは人間と同じようだ。スライムに付いては果実を触手で取っている所や、木をよじ登っている所が目撃された例もある。ただし剣を振るなどとバカげた能力をもったスライムは発見例がないがな。そして従魔によって肉体的能力が上がるか?に付いては恐らく変化が無いとの事だ。むしろ野生での生活をしなくなるため、肉体的に衰える事もあるそうだ。しかし言葉の理解力と言う意味では間違いなく影響があるようだ」
なんとなく全員がまた2匹を見る。
「野生の魔物がいきなり人間の言葉を理解するなどあり得んからな。よしんばその脳みそがあったとしても、いきなり使っていない言語を理解するなど魔力のパスが繋がってないとあり得ないだろう。我々が帝国の人と友達になったからと言って、いきなり帝国の言葉を話せるようになるわけないからな」
ダラスが言う。
「なるほど」
ダラスの言葉に皆が納得の顔をする。
コルトが話を続ける。
「魔物も強くなる。ゴブリンからホブゴブリンになるように……過去にゴブリンで実験が行われたことがある。魔物の止めを刺させ続けた個体。戦闘訓練を続けさせた個体。結果は止めを刺させた個体は進化をせず、戦闘訓練を続けた魔物は進化したそうだ。進化の過程は日にちを掛けて徐々に身体が変わったそうだ。さらに3年ほど鍛えてようやく進化に辿り着いたとある。ここからは私の感覚の話で根拠は無いのだが、ライムとマーモは進化こそしていないが強くなるスピードが速い気がする。ダラス様どう思います?」
「うむ。儂もそう思う。ゴブリンがホブゴブリンに進化する事で変化する強さ並の変化がすでにこの2匹で起きておる気がする。見た目こそ変わってないがな」
「スライムとマーモットは進化するのでしょうか?」
イルネが質問する。イル姉ではなくイルネ様モードだ。
「スライムは多種多様な種類が確認されている。進化の場合と最初からその種類の個体に生まれたと場合があるようだ。その進化の要因は食事であり生活環境であり、それも様々だ。ゴブリンのように『力』が強くなる事での進化は確認出来てないようだ。進化と言うより変化と言った方が近いかもしれないな。マーモットはまだ分かっていない。似たような個体で角が生えていたりする物もいるが、それがマーモットの進化個体なのか全くの別種なのかはまだ議論されている所だ」
セシルが2匹に話しかける
「ライムとマーモは進化するの?」
周りの大人達も興味深げに様子を見る。
進化するかどうかなんて、そんな事分かるはずもないだろうが、この2匹とセシルならもしかしたら?と言う期待をどうしてもしてしまう。
「分からないみたい」
「まあ……そうだろうな。と言う事でだ。2匹を強くする事はセシルを守る事であり、セシルの総戦力を上げる事であるのと同義だ。結局この2匹の事は良く分からなかったが、強くなる事は間違いないだろう。今まで通り、秘匿しつつ2匹を鍛えていこうと思う。後、学院の寮ではセシル用の特別室を用意してもらうようお願いしようと思う。2匹が剣の稽古を出来るくらいのスペースがある部屋だ。その代わり、部屋のグレードが落ちるかもしれん無理やり倉庫などを改良するかもしれんからな。これは私が今思い付いた事なので、全く認められないかもしれんが、セシルはどう思う?」
「ライムとマーモが動き回れる場所があった方がいいです! 部屋は汚くてもいいです。今もあまり綺麗じゃないから」
「おいこら。お父さん泣いちゃうぞ」
皆で笑って解散となった。
セシルはコルトからの部屋に関する質問に答えていたが、あと少しで一人暮らしが始まると実はあまり理解していない。
今回の会話も『家族でどこかに引っ越すのだな? ライムとマーモの部屋? 凄い!』くらいの認識である。
いずれ学院と言う所に行くのは何となく分かっているが、理解はしてないという感じだ。
そもそも田舎で育ったセシルには『王都の学院で親と離れて寮暮らし』など言葉で聞いた所で全く想像も理解も出来ないのも仕方がない。
セシルにとっては村の外がどうなっているのか分からないのだから。
現時点ではトルカ村がセシルの世界の全てなのだ。
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