第66話 新しい魔法
「マリー様、アル様、おはようございます」
「「ごきげんよう」」
錬金術の日がやってきた。
今日もマリーの馬車での移動だ。
「アル様、以前言っていた魔法って何ですの? ずっと気になって何も手に付きませんでしたわ。この時をとても楽しみにしていましたの」
「ハードルを上げてしまった事を、心底後悔しております」
「ふふ。期待に答えてくださいませ」
「まだ何となくの感じなのですが。磁石ってご存知ですか?」
「あの鉄がくっ付くやつですよね?」
「そうです。どうやら、磁鉄とかいうのに雷が当たる事で磁石が作られるそうなんです。という事は、魔法の雷を使って磁石が作れるのではないかと。それを応用すれば、遠くにある鉄を引き付ける事が出来ないか? と思いまして」
「それは凄いですわ! 動かなくても遠くの物が取れるのですね!」
「あっいえ、そうと決まったわけでは」
「でも面白いですわね! 是非実現していただいたいわ! 頑張ってくださいませ」
「マリー様は魔法の匂いについて調べるのですよね? 僕はどうしようかな」
「セシルも私のを手伝っていただけないかしら? セシルから発想を得たのですもの」
「マリー様、大変な事に気付いてしまったのです」
「何ですの?」
「ライムとマーモに聞けばよいのでは?」
「言葉が分かりますの?」
セシルは、しまった!! という顔をする。ライムとマーモの事を喋り過ぎたかもしれないと焦るが、少し考えてまだギリギリセーフかと思い直す。
「身振り手振りで伝えれば多分、大丈夫です。ライムとマーモの気持ちも何となくなら分かります」
「その程度ですのね。でしたら、書物で調べてから補足程度にライムとマーモにも確認していただけるかしら?」
ライムとマーモの知能が高い事がバレなかった事にセシルはホッとし、『マリー様に気を許してしまっているのかも知れない』と気を引き締め直した。
もちろん気を許すことは悪い事ではないが、ライムとマーモの情報はイルネ以外に教えるつもりはない。
「分かりました」
馬車が到着し、図書館の中に入って行く。
もう慣れたもので、それぞれが自由に動いていく。
☆
魔力の匂いについては全くと言うほど情報が無く、すぐに諦めて2人ともアルの手伝いを始めるが、アルが調べている内容が難しくあまり理解出来ず、役に立てなかった。
「そろそろお昼にしましょうか」
「その言葉を待っておりましたわ」
マリーの先導で、食事に行く。
「それで、磁石魔法はどうでしたの?」
「それが、申し訳ございません。良く分かりませんでした。磁鉄鉱に雷が落ちて磁石になると思っていたのですが、磁鉄鉱はすでに磁力を持っているらしく、磁鉄鉱と磁石の違いも良く分からず。さらに雷が落ちる前の磁鉄鉱がなんという鉱石なのかも分からず」
「なるほど。良く分かりませんわ」
「磁石を最初から手に持ってたらダメなんですか?」
「そうよ! それよ! セシル、中々やるわね」
「それほどでも」
セシルは珍しく褒められてニヤニヤする。
「いえ、磁石の棒を持ち歩いたら、必要じゃない時も鉄がくっ付いて来ませんか? 必要な時に雷魔法を通して磁石の機能を付与して、何かを吸い付けるのが理想なのですが……」
「ごもっともだわ。セシル。浅はかですわ」
「さっきはマリー様褒めて下さったような……あっ! 雷って鉄を通るのですよね?」
「はい。通ります」
「雷の魔法って飛ばせないですよね?」
「飛ばせる魔術師は今までいないと思います」
「鉄の棒を持って雷の魔法を使えば鉄の先に雷が行かないですか?」
「――確かに。……凄いです! 凄いですよセシル様!!」
「これで遠くの物を引き付ける事が出来ますか?」
「えっと、離れた所に雷を当てると……雷を当てるとどうなるのです?」
「火が着く?」
「火は引力の魔法を使わないとつかないはずだわ。バチッとするのではないかしら? とういう事は、いたずらに使えそうね。私はその案気に入ったわ! 後で試しましょう!!」
「いたずら?」
カイネが後ろで不穏な空気を出す。
「――ゴホン。磁石の件はまだ良く分からないと言う事ね。話は変わりますが、魔力の匂いについてもサッパリでしたわ。匂いについての記述がある本すら見当たらなかったので、もしかしたら新発見の可能性もありますわね」
「新発見!? それは凄いです! 流石、マリー様です!」
アルは普段から上位貴族であるマリーを褒めるタイミングを伺っていた。しかし、錬金術に興味を持ってないマリーには、全くと言っていい程に褒める所が見付からなかった。
褒め場所をどうにかこうにか探そうとしていたアルは昨日、『マリー様が自ら調べものをするなんて、私感動しました』と無理やり褒めたのだが、それをマリーに嫌味だと取られてしまった事を気にしていた。
その為、マリー様を褒めるなら今しかない! と、ここぞとばかりに褒めた。
アルの褒め攻撃は成功したらしく、マリーも得意満面の笑みだ。
「マリー様、魔力に匂いがあるかどうかもまだ分かってないのに、新発見はおかしくないですか? とりあえずライムとマーモに聞いてはみますけど」
セシルは空気を読まない。
マリーは褒められて良い気分になっていただけに、ちょっと不機嫌になる。
「匂いがあるに決まっているわ! セシルにライムとマーモだけでなく、バーキンまでも寄ってくるのおかしいですもの! お昼を食べ終わったら早速、ライムとマーモに聞きに行きましょう!」
「分かりました」
「マリー様、またそんな勝手に予定を決めて……」
後ろで聞いていたカイネが注意をする。
「本日はそういう事もあろうかと準備しておりましたので、大丈夫でございますよ」
イルネがフォローした事で、マリーは、ほら? と、ドヤった顔でカイネを見るが、スパーンッとハリセンで頭を叩かれていた。
「痛っ! えっ? その蛇腹のやつ、クリスタ様の侍女が持ってたやつではなくて? なぜカイネが持っているの!?」
「キリエッタ様に作り方を教えていただきました。材料は冒険者に依頼して手に入れました」
今度はカイネがドヤッとする。
「腹立つ顔をするわね。冒険者にまで依頼するなんて、どこに力を注いでるのよ」
「イルネ様の家に行けるのですか!? キャー!」とアルの後ろに控えていた侍女エリシュの声が聞こえてくるが、皆無視をしている。
普段、ほとんど喋らず大人しく控えているのだが、イルネの事となると乙女が前面に出るのだ。
ただの憧れなのか、はたまたガチなのか判断が付かない為、イルネも距離感を測りかねている。
マリーの馬車でセシルの家に移動する。
今日は予めライムとマーモに、『マリー様達が家に来るかもしれないから今日は魔法と剣は無しで!』 と言ってあったので、突然家に訪れても安心だ。
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