第65話 復讐


 許せない。


 イルネ達の前では抑えていたセシルだったが、内心は腸が煮えくり返っていた。

 自分だけでなく、周りにも危害を加え始めた4人が許せなかった。

 いずれ、ライムやマーモそしてイルネにも危害を加える可能性があるのだ。

 それだけは絶対にダメだ。


 危険があるなら先に無くしちゃえばいい。


 セシルは『復讐』と『排除』を決意した。


 もちろん、相手は貴族だ。絶対にバレてはいけない。


 そのためにセシルはまず、治癒魔法の能力の確認を行った。

 まずは野草の茎に傷を付け、治癒魔法を使う。

 人間の自己治癒力と違い反応しないかも? と思っていたが、予想に反し魔法に反応し野草の傷は塞がり、傷口では無い部分は逆に萎れていった。

 バーキンの時と違いかなり早い反応スピードだった。


 時にはライムとマーモにこっそり協力してもらい、ネズミを捕まえて実験する事もあった。

 最終的にライムのエサにするので命を無駄にする訳ではないのだが、無駄に苦しめる事には違いない。セシルはごめんと謝りながら実験をする。

 こんな酷い事をしている自分と、あいつらに違いは無いのではないか? と苦悩するが、家族を守るために止める事は出来なかった。


 そして、傷の回復を行うと他の部分からエネルギーを取っていく事が間違いないと確信する。

 次は傷がない個体に治癒魔法をかけることにした。

 今までの実験で傷の治療に使われていた力が、成長に使われるようで、一時的にとても元気になり身体も成長し、そして老いていく事が確認出来た。さらに色んなパターンで調べていく。


 一気に治癒魔法をかけ続けると、栄養が足りないのか元気になる時間が短く、ミイラのようにシワシワになってしまう。


 治癒魔法をかける時間を短くし、エネルギーが不足する前にエサと休息を与えてみると、かなり元気に成長し、そして歳を取るように老けていった。


 植物は反応が早いが、生物はかなり時間が掛かる事も分かった。

 そして成長には栄養が必要であり、大きい生物程、時間が掛かる。


 やる事は決めた。


『治癒魔法で4人の成長を早めてやる!――そう“最後”まで』


 人間の身体の大きさからすると、一気に成長からミイラまで持って行くのは無理がある為、必ず食事や睡眠が挟まる。

 バレないようにするには都合が良い。成長により一時的に身体が大きくなり調子に乗らせることになるだろうが、それは諦めるしかない。


 しかも相手は4人。


 どれだけ時間が掛かるか分からないが“最後”までやり遂げる。



 次の日から、セシルは4人の誰かがトイレに行くたびに密かに後をつけていく。


 そしてオシッコをするタイミングに合わせて魔法を当てる。

 魔法は目視は出来ないが、当たるとゾワッとした違和感がある。と習っていた為、放尿時のゾワッとするタイミングを狙って魔法を当てる事にしていた。


 セシルは視力強化の魔法では二股に分けた魔法が使えたが、身体から離して行使する魔法はまだ1つずつしか魔法が使えなかった為、1人ずつ確実に当てていく。

 相手が目に入る範囲にいる時や同じ教室内にいる時は、出来る限り当て続ける。前の席に座っているセシルでは、後ろに座る4人に対し直線の魔法では当て続ける事が難しい為、魔法を曲げて当て続ける。


 しかし、まだ身体の外に出ている魔法を曲げる事には慣れておらず、最初はかなり負担がキツく、授業に集中出来ないほどぐったりと疲れてしまう事もあった。


 それでもやめない。ひたすら続けていく。



「なんか最近、すげー調子良いんだよ。何て言うか、身体がぽかぽかして力が漲ってくる感じ? でも調子いい時は汗もかなり出るんだよな」


「ロール様もそうなんですか? 自分もなんですよ!」


「私も同じです! 膝が痛くなるから医者に診てもらったのですが、成長痛って言われました!」


「成長してんのか! あのチビとまた身長差が拡がっちまうな。俺なんか昼も膝が痛いときあるぜ」


 わはははと気分よく笑いあっている。


 セシルは4人が話しているのを聞き耳を立てながら、順調だと満足する。





「ねぇっ!? 聞いておりますの? セシルっ!」

「えっ? あっ申し訳ございませんマリー様。何の話でしたか?」


 この場にはマリーとアルがいた。錬金術の勉強をするようになってから、それ以外の時もこの3人で話をする事が多くなっている。


「もう! 最近、心ここに有らずって感じね! バーキンが亡くなってしまった事は悲しいけれど、前を向いていかなければならないのよ!」

「そうですね。マリー様の言う通りです」

「それでさっきの話ですけど、カイネがブルーシマエナガを手に入れてくれたのよ!  中々見つからなくて、冒険者に依頼までして手に入れてくれたみたい」

「それは良かったです! マリー様おめでとうございます」

「おめでとうございます!」


「ここからが大事な話なのよ! セシルのバーキンみたいに、私の肩や頭に乗って欲しくて、籠から出したのよ! そしたら、あっという間に飛び去って何処かにいなくなっちゃったわ」

「でしょうね」


 セシルとアルはマリー様らしいと笑う。


「やっと笑ってくれましたわね。セシルは笑顔がお似合いですのよ。私のブルーシマエナガがいなくなったのは笑い事じゃないんですけれどね。いやほんと。笑い事じゃないのですよ。カイネにどれだけ怒られた事か」


 マリーはカイネに怒られた事を思い出し身体を震わせる。


「どうやったら逃げずに済みますの?」

「最初は勝手に寄って来たので分からないです。ん~もしかして魔力に匂いとかあるのかなぁ?」

「では、ライムとマーモはどうやって従魔にしたんですの?」

「ライムとマーモも勝手に寄って来たんです」

「まあっ! 全然参考にならないじゃない! でも魔力から動物にしか分からない匂いが出てるっていうのはあるかもしれませんわね。今週は図書館に行く日でしたわね。調べてみようかしら」

「マリー様が自ら調べものをするなんて、私感動しました」

「……アル様も言うようになりましたわね」


 錬金術の勉強会を開くうちにアルのマリーに対する態度も少しずつ砕けるようになって来ていた。


「もっ申し訳ありません」

「いえ、良いのですよ。それだけ仲良くなれたという事ですから、嬉しいですわ」

「そう言ってもらえると嬉しいです。実は私もちょっと錬金術と魔法を絡めた、新しい魔法を考えているので今度相談に乗って欲しいです」

「あらどんなのかしら?」


「ふふふ。今度お話しますわ」

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