第67話 雷魔法と魔力の匂い
「ただいまー。ライム、マーモおいで~」
マリー達を連れて家に帰ると、いつものようにマーモの上にライムが乗った状態でトコトコと歩いてくる。
「じゃ早速聞きますね」
「ええ。楽しみだわ」
「このスライムは鼻が無さそうですが、嗅覚はあるのですか?」
アルは初めて魔物を近くで見たため、怖いのか少し離れた所から訊ねる。
「そう言えば鼻が無いですね。考えたことも無かったです。とりあえずマーモから聞いてみます。マーモ。魔力に匂いってあるの?」
この2匹には言葉だけで十分通じるが、マリー達を誤魔化す為にわざと身振り手振りも加える。
マーモがナーと鳴き、コクンと頷く。
「ほらっ! ほら言ったじゃない! 新発見よ!!
「ライムも匂ってるの?」
また意味のないジェスチャーを加え会話をする。
ライムは飛び跳ねるように返事をする。他の人にはどっちなのか判断が付かないが、セシルにはライムの意思が伝わっている。
「匂ってるみたい。ライムも嗅覚あるんだね」
「スライムに嗅覚がある事も大発見じゃない!? 凄いわよ! どうしましょ!? 凄いわよ!」
スパーンッ
「痛っ」
「マリー様、落ち着いてください。そんなに騒いで、はしたないですよ」
「そうですわね。ゴホンッ。改めまして――凄い発見ですわ。こういう発見をした場合はどうしたらよろしいのかしら?」
マリーが周りを見渡すが、全員が目を逸らす。
「……誰も知らないって事ですわね」
「マリー様、私が調べておきます」
「そう? ではヨロシクねカイネ」
「あっ! でもライムとマーモの名前は表に出さないで欲しいです」
「それはどうして?」
「宮廷魔術師に2匹を取られてしまうかもしれないからです」
「匂いだけでそんな事になるのかしら?」
マリーはカイネの方を見て訊ねる。
「確認に来ることはあるでしょうけど、取られるまでは流石に無いと思いますが……」
「可能性がゼロじゃないならダメです!」
セシルはライムとマーモを隠すように抱きしめる。
「マリー様。それでしたら、従魔協会の方に手伝って貰うように依頼してみてはいかがでしょうか?」
「アル、流石ね! その意見を採用するわ! ふふふ。これで私もお父様に褒めていただけるわ!」
「マリー様、もしかして全てご自分の手柄にされるつもりでは無いでしょうね?」
マリーはギクゥと身体が跳ねる。
「わっ私が見付けたのよ? そうですわよね?」
「あの……セシル様が最初に『匂いかな?』と言っていた気がするのですが」
アルが恐る恐る意見する。
「そっそうだったかしら?」
「なるほどなるほど。最初に言いだしたのはセシル様。マリー様が調べた図書館では情報は何も得られず。そして、セシル様の従魔によって匂いがある事が分かったと。――マリー様は何をなさったので?」
カイネの目が冷たい。
「わっ私が指揮を執っていましたわ!」
「マリー様。カイネ様。僕は目立ちたくないので、全てマリー様が見付けたことにしてください」
マリーは、ほらっ! と懲りずにドヤり、スパーンッと叩かれる。
「痛っ! なんでよ! 今回は叩かれる理由はないでしょ?」
「たまたま今回はセシル様が譲ってくださっただけで、人の成果を奪うなど言語道断ですよ! 特に上級貴族が『私が発見した』と発表すれば、それは発表した上級貴族の手柄と評価されます。自分の手柄よりも、努力し、貢献した方を立てる事を覚えてくださいませ!」
「わっ分かったわよ。セシルもアル様も私が見付けたことでよろしいですか?」
「大丈夫です」
「はい。私はそもそも何も関わっていないので」
「何か報奨金でも出たらお二人にも分けますわ」
「とっとんでもない。私は先程も申し上げた通り、何もしてませんので」
「気にしなくて良いのよ。私達は3人で勉強しているのですから」
「最初からそれが言えれば良かったのですが。それと、報奨金は出ないと思います」
カイネのお小言に、うるさいわね。と小声で反発する。
「ではもし報奨金が出るようでしたら、お言葉に甘えます」
「セシルも良いわね?」
「はい。ありがとうございます」
「匂いの件についてはカイネの調べた内容次第ですが、来週の休日にでも動いてみますわ。あっそうそう! そろそろ雷の魔法も使ってみないかしら?」
「そうですね。えーと、鉄の棒……イルネ何かある?」
「フォークはいかがでしょう?」
イルネがすぐフォークを準備する。
「ありがとう。えっと、アル様これをどうしたら良いですか?」
「えっ? 私ですか? ん~どうやったら雷が伝わったと分かるのでしょうか?」
「フォークの反対側を誰かが持つのはいかが?」
「「「……」」」
「……僕は魔法使うので」
「私は嫌ですわ」
マリーはアルを見る。
「えっ!? 私もちょっと……」
アルはエリシュを見る。
「……そっそんなぁ~」
エリシュは立場的に断れず。泣きそうな顔をする。
それを見かねたイルネが名乗り出る。
「エリシュ様、私がやりますので安心してくださいませ」
「そんな! イルネ様にそのような事は! 私がやります!」
「鍛えているので大丈夫ですよ。任せてください」
「……イルネ様」
エリシュのイルネを見る目は完全にハートになっている。
セシルとイルネが1つのフォークの端をそれぞれ持ち、全員が固唾を呑んで見守る。
「セシル様、どうぞ」
「いくよ」
バチッ!!
「「痛っ!!!」」
2人はフォークを放り投げるように手を上げて、身体ごと跳ねる様にその場に倒れ込む。
明らかなオーバーリアクションだが、2人とも経験の無い痛みにビックリしたのだ。
「だっ大丈夫ですか!?」
それぞれに駆け寄り、様子を確認する。
「大丈夫です。痛いのは一瞬でした。イルネは大丈夫?」
「はい。私も大丈夫です。一瞬ですが、痛さにビックリしますね。それに何か自分の意思と関係なくビクッと手が動いて、思わずフォークから手を放してしまいました」
「魔法を出してる方も痛いなら使えないですね」
セシルはおもむろにフォークを拾って1人で雷を使ってみた。
バチッとなりフォークから小さな火花が散る。
「あれ? 痛くないです」
バチバチと音を立てて雷を流し続ける。
「相手がいないと痛くないのかしら?」
「反対側だれか持ってみてください」
セシルはフォークからバチバチと小さな火花を散らしながら周りを見るが、全員目を逸らす。誰も持とうとしないので、地面に当ててみる。
「あれ? 地面に当てても痛くない」
自分で反対側を触ってみる。
バチッ!!
「痛っ!!」
思わずフォークを放り投げる。
「よくそんな躊躇なく試せますわね」
呆れたようにマリーが呟き、周りもウンウンと相槌を打つ。
「痛いけど我慢できるし、武器として使えないかなと思って」
「何か面白いのが出来たら教えてくださいまし」
「はい! マリー様で最初に試します!」
「それは絶対にダメよ! 絶対だからね! フリじゃないからね? 絶対だめよ!」
「なるほど……分かりました」
「いや、なるほどって何よ! 絶対だめだからね?」
セシルは笑顔で頷く。
「こんな胡散臭い笑顔初めて見たわ」
「では、お茶を用意しましたのでお座りになってください」
イルネがお茶を出して来たので、実験は終わった。
こうして、この日は魔力に匂いがあると言う大発見と、雷魔法の応用が出来そう。という所で終わった。
「ちなみに私の魔力の匂いはどうなのかしら?」
マーモは歯を剝き出しにして唸った。
「なんでよ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます