第58話 図書館
アルとマリーも日程に問題が無かった為、予定通り図書館に行くことになった。
学院の貴族門で待ち合わせしてある。
セシルは歩いて行くつもりだったが、マリーが馬車を用意すると言い張ったのだ。
「アル様、セシル、ごきげんよう。お待たせしたかしら?」
「マリー様、ごきげんよう。いえ、とんでもございません。馬車まで用意していただいてありがとうございます」
「マリー様、おはようございます! 歩ける距離ですよ?」
実際、学院から1キロ程度しか離れていない。
「上級貴族が歩いていたら笑われてしまいますわ。そもそも1キロも歩けませんわ」
「そんな事で笑われるのですか? 1キロはすぐですよ?」
「そんな馬鹿な!? と思うような事で面子を保つのが貴族だ。とお父様が仰っていましたわ。ちなみに私は1キロも歩いた事ありません。そんなに歩いたら図書館に着く頃には疲れてしまいます」
それにはアルも首を上下して同意している。
田舎育ちで、さらに毎日トレーニングをしているセシルとは感覚が違いすぎる。
馬車に乗って図書館に向かう。
イルネを含む侍女達は馬車の横を歩いている。
「着きましたよ」
馬車が止まり、扉が開けられる。
図書館は1階建てで重厚なレンガ作りだった。
横幅の大きい階段を登り入口に向かうと、2人の警備員が立っている。
入口は意外にも小さく、本の劣化を防ぐためになるべく扉を小さくしているようだ。
さらに扉も2つ通らないと入れないようになっている。
「身分証明書をお願いします」
3人は学生証を出し、侍女達はそれぞれ仕えている家から出されている証明書を出す。
「はい。では中にどうぞ。初めてのご利用でしたら入口の司書から説明を受けてください」
「はい」
中に入り司書の説明を受ける。
ヘルメスが話した内容と概ね一緒だったが、入場の時に銀貨1枚が必要だった。
万が一本をダメにした場合の保険だ。特に問題がなかった場合は出る時に返してもらえる。
「では、錬金術のコーナーに行きましょう」
上位貴族がいる時はあまり自分を出さないようにしているアルだが、楽しみで仕切り始める。
マリーは気にしないタイプなので特に問題は起きない。
一般的に利用されている手紙などはパピルス紙が利用される事が多いが、図書館に置かれている本は劣化を防ぐ為羊皮紙の本が多く、かなり大きい。
パピルス紙に書かれた書物を劣化する前に新しく書き写す仕事もあるようで、端っこの方では数人の司書が机に齧り付いてセコセコと書き写している。
「たくさんありますね」
「どれから読んだらいいか分からないです」
「とりあえず好きなものを取って読みましょう。図書館を出た後で読んだ内容をお互い話すのはどうでしょう? マリー様はどう思われますか?」
「それでいいわ」
それぞれが読みたい本を探し出す。
セシルは読みたい本と言うよりも読める本を探すことになる。
ある程度は文字が読める様になっているが、専門書となると読める本はかなり限られている。
「イルネ、これ取って」
セシルの体格では持つのがかなり厳しいうえ、落として破損でもしたら罰金なので、本の扱いはイルネに任せている。
読めそうな本を何度か取ってもらい内容を確認する。
アルの侍女であるエリシュは身体の線が細く、本を持つのにプルプルしている為、見かねたイルネが手伝っていた。
イルネを見るエリシュの目が白馬の王子様を見る様なハートの目になっていたが、アルは見て見ぬふりをしていた。
マリーと侍女のカイネはそれを見て「あらあら! まあまあ!」と本も選ばずにキャッキャしていた。
それぞれが本を選び読んでいく。
貴族の子供なども読み聞かせで利用する事がある為、多少声を出しても大丈夫な児童部屋も存在し、そこで読むことになった。
アルやマリーは幼い頃から教育を受けている為、ある程度の読みは問題なく出来るが、セシルと同様、難しい言葉などには対応出来ない為、たまに侍女に読んでもらっている。
「そろそろお昼にしてはいかが?」
マリーが声を掛けお昼に行くことにし、それぞれの侍女が本を片付けていくのだが、マリーが読んでいた本を片付けているカイネは、どうみても絵本コーナーに片付けに行っている。
セシルとアルは疑問に思うがその場では声に出さなかった。
食事はマリーおススメの貴族街の高級な飲食店で食べる事になった。
「ようこそいらっしゃいませ。――マリー様。こちらの方々は?」
「ファーラービー家のアル様と大賢者の素質を持つセシルですわ」
「なんと! それはそれは。アル様、セシル様お初にお目にかかります。本日はようこそおいでなされました。ごゆるりとお楽しみくださいませ」
案内された部屋は広く立派な絵画や花が飾られていた。
「ご注文はいかがいたしましょう?」
「お任せしますわ」
「かしこまりました」
「イルネ達は食べないの?」
「交代で別室でいただきます」
「一緒に食べればいいのにね」
運ばれてくるコース料理に舌鼓を打ちながら、先程勉強してきたことを話していく。
アルとセシルは上手く話す事をまとめきれず、拙い内容だが、お互い興味津々で質問をし、それが答えられないと「今度調べてみます!」と充実した会話が広げられている。
もちろん内容は初歩的なもので、水を火で温めると量が減る。などの内容だが、日常生活で何となく分かっていた事も、それを言葉にする事によって「確かにそうだ!」と新鮮な驚きとなっていた。
マリーは「なるほどね~なるほどなるほど」と相槌を打っていたので、アルが「マリー様はどのような内容の本を?」と聞くと
「うん。私は大丈夫よ。続きを聞かせて」などとほざいてその場を濁していた。
「お嬢様は絵本を読んでおられたので」
「ちょっ! カイネ! 何で言うのよ!?」
「お嬢様、言わずとも皆気付いておられますわ」
「えっ? そうだったの?」
「マリー様、無理に参加していただいて申し訳ございません」
アルが申し訳なさそうに謝る。アルはそもそも一度もマリーを誘っていないのだが、これが貴族の上下関係である。
「いえ、無理にだなんてそんな事ありませんわ! 私が来たくて来たのですから、謝るような事ではありませんわ! 来年は授業で習う事になりますので、今の内に私も勉強させていただきたいと思っておりますの。私は本を読むよりお二人がお話しされているのが分かりやすくて楽しかったですわ」
「そうですか。それなら良いのですが……」
「次回も! 次回も是非誘ってくださいませ!」
こうして最初の図書館勉強は終わり家に帰った。
「セシル、今日は楽しそうだったね!」
「うん! 今日は意地悪する人も居なかったし、錬金術楽しい」
「ちなみに私の可愛いセシルに意地悪するクソガキは何て名前なのかしら?」
「何人かいるけど、一番はゴライアス=サッタ様」
「サッタ……子爵家ね。学院を卒業したらセシルの方が爵位が上になるはずだから、そうなったら、けちょんけちょんにしてやりましょう!」
「そうなの?」
「まだ確定では無いけれど、リンドル様の予想ではかなり高い爵位が与えられるはずだと仰られてたわ。少なくとも子爵家よりは上のはずよ」
「ん~よく分かんないや。でも、けちょんけちょんにしてやりたい!」
「そう! その意気よ! よし! その勢いで剣の練習するわよ!」
「うん!」
すると家のドアがコンコンと鳴らされた。
「どなた様でしょうか?」
「リビエールだ!」
イルネとセシルはドアを開けて慌てて挨拶する
「リビエール様、どうされたのですか?」
「いや、何。父上からセシルの様子をたまに見るように言われているのでな。休日をどう過ごしているか確認しに来たのだ」
「リビエール様!! ちょうど良かったです!」
「ん? 何だ?」
その後、リビエールがけちょんけちょんにされた。
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