第57話 アル=ファーラービー
「ヘルメス様! あのっ! どこで錬金術学べますか?」
「ん? 君はどこの家の子かな?」
「あっすみません。平民です。セシル=トルカと申します」
「あ~君が噂の! そっちの子も同じ要件かな?」
「はい! 男爵家のアル=ファーラービーと申します」
セシルを助けた女の子アルはスカートの裾を少し上げカーテシーで挨拶をする。
髪色はブルーブラックで、頭の後ろでお団子の様に束ねてある。背がセシルと同じくらい低くたぬき目で丸顔、くっきり二重で可愛らしい顔をしている。
男爵家だが、成績が良いためこのクラスに入っている才女である。
「そうか。興味を持ってくれて嬉しいよ。2人とも親族に錬金術師は居なさそうだな。一応、学院では2年から授業があるが、今学びたいのであろう?」
「「はいっ!」」
「ん~残念なお知らせになってしまうが、教えてくれる人間は見付からないだろうな。錬金術師は誰もが教える暇があるなら自分の研究したいと思っているのだ。私も上からの命令が無ければ研究室に籠って居たいくらいでな」
「そうなんですか……」
「興味があるなら、王立図書館で勉強するといい。錬金術師は特別な機関は無いのだが、私の様に名前の最後にアルシミーと付く者は国家錬金術師と言われていて、国から支援をしてもらう代わりに、研究結果を本にして提出する事が義務付けられているし、この様に講師を頼まれる事もある」
「僕でも読めますか?」
「ここだけの話、我々も本の作成に時間を取られたくないのでな。提出をすぐ終わらせる為に初歩的な事をまとめた本も多い」
「王立図書館では誰でも読めるのですか?」
「学生証を見せれば平民でも入れるはずだ。たしか図書館内で読むのは無料だったと思うが、貸し出しにはお金がかかったはずだ」
「分かりました。ありがとうございます」
「せっかく興味を持ったのだ、2人で一緒に学ぶと良い」
「2人でですか?」
セシルが戸惑う。平民の自分が貴族の子と一緒に学ぶのは問題があるのではないか?と。
「ああ1人で学ぶよりきっと理解が早くなるぞ」
「セシル様、よろしくお願いします」
アルが上品にスカートを摘まみ軽く腰を下げる。
「セシル様? 僕は平民なので様付けはおかしいですよ」
「その辺りは二人で話してくれ。では私は帰らせてもらうぞ」
そう言うとヘルメスは足早に去って行った。
「セシル様は今は平民でも卒業後は爵位を賜るのですよね?」
「えっ? そうなんですか?」
「私のお父様がそう仰っていました」
「私もそう聞いているわ。それより面白そうな話をしてるじゃない。私も混ぜなさい」
何処からかマリーが現れた。
アルは爵位を考慮してか一歩下がる。
「マリー様も錬金術に興味があるのですか?」
「……まあそんな所よ」
マリーは錬金術に全く興味が持てなかった。今日行われた実験に関しても『火が消えるの? で? それがどうかした?』状態だ。
ただただ父の言いつけを守る為に、少しでもセシルと一緒に居る時間を増やそうとしているのだ。
実はアルも親からセシルと仲良くなるように言われていたが、あまり積極的に自分から話しかけるタイプではないのと、セシルとの席が近いマリーやクリスタとの身分差に遠慮している事もあり、中々話しかけるきっかけが掴めなかったので今回の件は渡りに船だった。
アルは本当に錬金術に興味があり、セシルと近づけたのは偶然である。
マリーの様な打算のみではない。
クリスタはセシル達が何を話しているか興味があったが、取り巻きに囲まれて会話に入る事が出来なかった。
「セシル様、次の休日のご予定は?」
「休みの日は空いてないです。授業が終わった後が良いです。」
「休日は秘密の特訓ですものね!」
秘密の特訓の内容も知らないマリーが何故か胸を張っている。
「授業が終わった後は魔力使い切ってあまり動けないのですが……」
「ん~イルネに相談してみる」
「イルネとはどなたでしょう?」
「えっと僕の教育係? かな」
「分かりました。お待ちしております」
「席に着けー。次の授業を始めるぞー」
午前の授業が終わり、お昼ご飯を食べながら錬金術の授業での話をイルネにする。
「それで、アル様と図書館に行く時間が欲しいんだけど、休日は僕が冒険者の仕事に行くし、平日はアル様は魔力を使い切ってあまり動きたくないみたい。どうしたら良いかな?」
「あら、セシル様が自分からやりたい事言い出すの初めてじゃないですか?」
「そうかな?」
「そうですよ! そうですよ! いや~嬉しいですねぇ。冒険者の日を2週間に1回にして錬金術のお勉強と週ごとに交互にやってみてはどうでしょう?」
「うん! そう言ってみる! 今週の休みから図書館でいいの?」
「大丈夫ですよ!」
午後の授業はいつものようにライオットと一緒に魔力を細く細く巡らせていく。
まだこの練習を初めて1週間程度だが、指導しているライオット自身もこの練習の効果を実感している。
まだほんの少しだが魔力の無駄が減って洗練されている気がするのだ。もう自分の能力の限界だと思ってたが、まだ高みに登れると分かると日々が楽しくなっている自分に気付いたのだ。
最初はこの仕事を押し付けられた時は不幸に見舞われたと思っていたが、結果的にこの仕事を命じられて運が良かったと思うようになってきていた。
セシルの威力が弱い件についてもこの方法でどうにかなりそうだと楽観視していた。
魔法の授業も終わり、ライオットが帰るとセシルは教室でアルを待っていた。
「あっアル様、予定確認しました!」
「早速ありがとうございます。――ところで、何故頭に鳥が乗ってるのです?」
「魔法の授業になるとこの鳥が近付いてくるんです。いつもは終わると帰るんですが、今日はエサをやったからか帰らなくて」
「そうですか。予定はどうなりましたか?」
「2週に1回、休日を利用して図書館に行くのはどうでしょうか? 今週末から図書館に行けたらなと思います」
「分かりました。私もそれで大丈夫だと思いますが、一応帰って確認してみます」
「はい! ではごきげんよう!」
「ちょっと待てい! 私わい!」
「マリー様!? ちゃんと帰りの挨拶せずに申し訳ございませんでした! では、マリー様ごきげんよう!」
セシルは帰ろうとする。
「ちがーう!! 図書館の予定よ! 私にも教えなさいよ!――ところで、何で頭に鳥が乗ってるのかしら?」
セシルはハッとする。
アルは興奮したマリーに巻き込まれないようにスッと姿を消している。
「完全に私が参加する事忘れてたわね? まあいいわ。で、どういう予定なのかしら? それと鳥はどうしたのかしら?」
「2週間に1回、休日に錬金術の勉強しようかと。アル様の予定次第ですが、今週からの予定です」
「私も確認致しますわ。今度私を忘れたら覚悟なさい。ほんで何で鳥が乗ってるのよ?」
「はい。気を付けます。――ごきげんよう」
「ごきげんよう……鳥わい!?」
セシルが家に帰っても鳥は帰らなかった。
「セシル様、その鳥って森で飛んできた子ですか?」
「そう。今日は帰らなくて」
「可愛いですね。今日エサを持って行ったからでしょうか? 追加で買っておきますね」
「うん!」
「あの、セシル様話が変わるのですが……」
イルネが言いにくそうにしている。
「何? どうしたの?」
「クラスを替えるのは無理みたいです……ごめんなさい」
貴族の中に平民1人というのはかなり辛い為、平民クラスに替えてもらえないか、学院の方に確認してもらっていたのだ。
「そっか……頑張るから大丈夫だよ」
イルネはセシルが辛い思いをしているのに、助けになれない事に泣きそうになる。
「セシル様が望むのなら家ではイル姉に戻るので甘えて下さっても大丈夫ですよ」
「うん……ごめん。今日はイル姉に戻って欲しいな。ちょっと辛いみたい」
「気にしないで。家ではずっとイル姉でいるね」
イルネがセシルを抱きしめると、鳥は窓から飛んで出て行った。
気を使ったライムとマーモが家中の窓を閉めて回り、セシルの泣き声はしばらく家の中で木霊するのだった。
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