第201話 死骸の行方
セシル達に置いて行かれたヨトは慌てて付いて行こうとするが、1,2歩と進んだ所で一生懸命消化しているライアとラインを放置する事に罪悪感を覚え足が止まる。
『くそっ……あーあ。文句の1つも言ってやりたいが、ユーナに見張りをさせる訳にはいかないしセシルを万が一にもガチギレさせてしまったらこの森で生きてもいけそうにないんだよなぁ~あーあーあー、おえっ』
ヨトは木の下で雨宿りしながら体育座りをする。
『これが父さんが言ってた中間管理職の苦悩ってやつか?』
雨なのか涙なのか分からないものが顔を濡らす。
『あっ、どうせ臭い場所で待っているならもう家に入って待っていてもいいんじゃね。家からもライライ達見えるし』
消化が終わるまで外で待つ必要は無い事に気付くと、アンキロドラゴンによって無残に破壊された外壁の瓦礫をゆっくりと踏み越えながら家の中に入り込んでいく。
家の中は暗くて奥が見えないので、雨がギリギリ届かない所まで入ると立ち止まる。
暗闇の中に魚っさんがいる可能性も捨てきれない。
『分かっちゃいたけど、おえっ、家の中も臭いな……どうすんだこれ』
時間をかけセシル達の弱々しい風魔法を撃ち続ける事で多少マシには出来なくはないだろうが、微風すぎるので基本的には自然に流れるのを待つしかないだろう。
『――寒いからとりあえず服絞るか』
服を脱ぐ前に念のため家の奥に拳ほどの大きさの火魔法を一発放ち、奥に魚っさんがいないか確認をする。
『大丈夫かな?』
とりあえずの安全を確認すると服を全部脱いで絞る。
『そのまま着ても風邪引きそうだし顔に巻くか』
絞った服を口に巻き付け臭いを防ぐ。
一応、セシルが行商人からやり方を聞いて作った獣の皮を鞣した服も存在するが、素人がやった鞣しでは臭いが結構残っておりあまり着たくないし、暗闇の中1人で部屋に取りに行くのは危険だと判断し裸で過ごす事にした。
『……臭いはマシになったけど、濡れた服って息しずらいな。洞窟の中って服が全然乾かないんだよなぁ。雨もいつやむか分からないし。また後でライライに頼むしかないか』
家の手前はまだ良いが、洞窟に入ると全くと言って良い程服が乾かないのでライライに水分を吸収して貰うしか方法が無い。
放置すると肌がブヨブヨとふやけてしまう。
『靴も脱いどくか』
ぐじょぐじょになっている靴も脱ぐ。
『あー、もう靴に穴空いているじゃねーか。走るとすぐ穴空いちまうよな。アンキロドラゴンの素材で丈夫な靴作れないかな? セシルに頼むか』
毛皮を足に巻き付けているだけの靴は、整備されていない森ではすぐに穴があいてしまう。
『そう言えば……アンキロドラゴンの死体ってどうなるんだ? ずっとこのまま存在するのか? それならいつかは森の中アンキロドラゴンとミツビオアルマジロの死体だらけにならねぇか?』
穴が開いた靴をお尻の下に敷いて座ると、アンキロドラゴンの死体を見ながら考え事をしていく。
『あっもしかしてスライムか? いやでもあんな硬いのも溶かせるのか? そもそもスライムって何基準で食べるものを決めているんだろう。何でもかんでも食べるならスライムがいる所は穴だらけになるよな。でもそんな話聞いたこと無いし、一応食べるのは生物に限るのか? でもウンコも食べて貰っているし……流石に岩を食べたってのは聞いたことないが……』
アンキロドラゴンの死体からスライムについても考えが移っていく。
『もしかしてスライムって動きが遅いやつには最強なんじゃないか?……アンキロドラゴン相手でも木の上から尻尾の届かない位置に飛び乗る事さえ出来れば勝ちなんじゃないか?』
腐乱死体を一心不乱に消化しているライライを見るとあまりのグロさに再び吐き気を催すがグッと我慢する。
『……ライライ以外の普通のスライムなら正面から戦ったら子供でも倒せるほど弱いけどな。実は相性次第で最強生物かもしれないなぁ』
それからも色々考え事しながらボーッと待っていると、腐乱死体はだいぶ少なくなってきていた。
『臭いもだいぶマシになってきたな。慣れただけかもだけど。てかあんな量を消化したのにライライの身体大きくなってないんだよな。スライムってどの魔物より謎だよな』
「うぅ~っ。さむい、さむい、さむい、さむい、臭ーっ」
外は風が強くなっており、濡れた体で寒さに耐えられなくなったセシル達がカタカタと震えながら家の中に入って来た。
「あっ、ここの方が過ごしやすいじゃん! お兄ちゃん早く言ってよ! クサっ」
「いや、知らんがな。俺を置いて行ったのはお前らだろ」
「ぐぬぅ」
セシルとユーナも服を絞って身体を拭くが、次々と入って来るマーモット達が身体をブルブルと震わせ水気を飛ばすので何度も拭き直す。
ヨトもついでに濡らされるので顔に巻いていた服を仕方なく外し身体を拭き直す。
「クサッ。服外すとやっぱりグッと来るな……」
「なるほど。服でマスクしてたのかぁ~」
「まあな。そんな事より、俺を1人置いて行ったの酷すぎると思わないか?」
「服でマスクするなんてめちゃくちゃ賢いね。王国語もすぐ喋れるようになったしヨトって何気に凄く頭良いよね」
ヨトのクレームなんか無かった事のように話を逸らされる。
「おっおぅ。まあな。そうなんだよな。俺って結構賢いみたいなんだ。へへ」
グダグダと文句を言ってやろうと思っていたヨトだが、不意に褒められて思わず天狗になってしまう。
賢いのに短絡的だ。
「そんな賢い俺がお前らを待っている間に凄い事を思い付いたんだが」
「何?」
セシルとユーナは服を絞りながら、ヨトの調子に乗るまでのスピードに面喰いつつも耳を傾ける。
「アンキロドラゴンの素材使って靴作ろうぜ。靴底だけでも使ったら便利だと思うんだ」
「ほう。いいじゃん。でもミツビオアルマジロの甲羅もそうだったけど斥力魔法で削るの死ぬほど時間かかると思うよ。1日かかっても1足も出来ないかもしれない」
「ミツビオアルマジロの盾も全然削れないから、ほとんどそのままの形のまま使っているもんね」
「まあ普通に考えたら難しいよな。だが俺は気付いたわけだ」
「何?」
「ミツビオアルマジロとかアンキロドラゴンの死体ってこの森からどうやって消えるのかって考えてみたわけよ」
「森から消える? どういう意味?」
「ミツビオアルマジロとアンキロドラゴンの死体が消えずにずっとその場に残った場合、いずれその死体で森が埋まってしまうと思わないか? なのに今まで俺らは転がっている死体を見た事すら無いわけだ」
「たしかに。それで?」
「てことはだ。死体を溶かす魔物がいるんじゃないかって事だ」
ヨトはドヤ顔でせっせと腐乱死体を溶かしているライライ達を指さす。
「えーっ。ライライ達が?」
「そう。スライムが溶かしているんじゃないかと思ったわけよ」
「えーっ!?」
セシルは少し距離のあるライライに大声で話しかける。
「ライライ、あれ溶かせる!?」
「ピー?」「ピョー?」
2匹とも溶かせるかは分からないようだ。
「流石に分からないか。後で試してみて」
「ピー」「ピョー」
「あっそう言えば、帝国のやつらに木の上にはもういないよって伝えないとなぁ~。まあいっか」
「そんな事より、飲み水無いだろ? 雨を貯めようぜ」
「そうだね。そう言えば今日のご飯どうしようかな」
「アンキロドラゴンの中身喰えないかな?」
「あーー、脳みそとか内臓はさすがに柔らかいかな? でもそこまで辿り着くのに時間かかりそー」
「目からほじくったら食べやすそうじゃない?」
「……ユーナも逞しくなったよな」
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