第200話 生態系の頂点
「あっセシルさん、大変なの。マーモットちゃん達が皆吐いちゃって」
ユーナとヨトがおろおろしている。
「なんで急に吐き出したか分かるか!?」
ヨトとユーナにはまだアンキロドラゴンの吐瀉物(魚っさんと冒険者の混ざった半消化された臭い)は届いていないようで、状況が理解出来ていないようだ。
ヨトはセシルに問いかけながら、その姿を見て目を見開く。
「おっお前も吐いたのか!?」
雨で多少流されているが、服に少しゲロの跡らしきものが見える。
「えっセシルさんも吐いたの!? 昨日何か悪いの食べたかな!?」
「でも俺達は大丈夫だぞ?」
「帝国人だから?」
「大丈夫。安心して。その内、君たちも吐くから」
「それのどこが安心できるんだよ。お前が落ち着いているって事はとりあえずマーモット達も大丈夫ってことなのか?」
「うん。安心していいよ。いや、今後の事考えると安心も出来ないんだけど……」
セシルはセシルハウス前の盛大なゲロの映像が頭を過り憂鬱になる。
「ライライに頑張ってもらうしか無いのかなぁ~」
「さっきから何の話しているんだ? ちゃんと説明しろよ」
「ん~まあそれはすぐ分かるよ。とりあえずさ、大事なのは僕がこの大森林の【生態系の頂点】に立ったって事だよね?」
「ん?」
「ん? じゃなくて、僕はアンキロドラゴンを倒したんだぞ?」
「おー。良かった」
「良かったねぇ」
ヨトとユーナは塩魔法でアンキロドラゴンを倒せるのは既定路線だったので、これで家に入れる。くらいにしか思っていない。
そんなヨトとユーナの気持ちが分かっていないセシルは、まだ多少吐きそうな気持を抑えながらも、ここはカッコよくいかねばと堂々とした態度で両手を挙げ拍手を誘う。
「さあっ、喝采せよ!!」
「「カッサイ?」」
喝采と言う言葉が通じずヨトとユーナは顔を傾げる。
「……」
「……」
「……」
セシルは挙げた手を、頬を赤らめながらソッと降ろす。
「いや、ドラゴン種倒したんだし? もっとほら、あるでしょ?」
「? ワイバーンもドラゴン種じゃないの? セシルさんの式布団ってワイバーンだったよね? てことはもう倒したことあるんだよね?」
「だよな。何を今更?」
「いやいやいや、どう見ても鎧トカゲの方がドラゴンとしては格が上でしょうよ」
「ん~そうなのか? 空から襲ってくるワイバーンはとんでもない脅威だって父さん言っていたぞ」
「それは、そうかもだけど……よく考えてみてよ。街を襲ってきたらどっちが厄介よ?」
「あーアンキロドラゴンかも」
「そうでしょそうでしょ! 普通は倒せないんでしょ? ワイバーンは被害を出しながらでもどうにか倒せるでしょ?」
「たしかに」
「と言う事は?」
「「……?」」
「鈍いなぁ! 2人共とんでもなく鈍チンだよ!」
「私ちんちん付いてないよ?」
「チンってそう言う意味じゃないよ!」
「じゃあどういう意味?」
「どういう意味って……チン……チンコ、ちんぽこ、ちんちん……」
「ほらーっ! 全部ちんちん関連じゃん!」
「ぐっ……本題はそこじゃないのっ! 僕が言いたいのは僕がこのディビジ大森林において生態系の頂点に立ったって事だよ! 分かる?」
「でも、お前ラプターに勝てないじゃん」
ラプターはセシルが速トカゲと呼んでいる魔物で、人間の胸くらいの背丈しかないが足が速く魔法の臭いにも敏感で群れで襲ってくるためセシルでは対応が難しい。
サーベルタイガーの方が個体としてはラプターの上位互換の能力を持っているだが、単体で行動している上、身体も大きいので的が大きくセシルにとっては対処がしやすい。
「いやそれは……」
「そのラプターを倒しているゴブリンが最強って事?」
「ゴブリンは罠じゃん。力じゃないでしょ」
「罠も力の1つだと思うけどな。まあゴブリン1匹1匹は弱いよな。」
「ラプターも群れだからだし、あいつらがいくら群れてもアンキロドラゴン倒せないだろ!?」
「そうは言うが、アンキロドラゴンも足の速いラプターを倒せないんじゃないか?」
「結果的にラプターが生態系の頂点か?」
「そんな馬鹿な話があるかっ!」
話がヒートアップしそうになったのでユーナが止める。
「落ち着いてよ。結局、相性って事でしょ。相性別でセシルさんが頂点って事でいいじゃない」
「相性別頂点って意味が分かんないだろ」
「えーっと『部門』って王国語で何て言うの?」
『あーわかんないや「特徴」かな?』
「特徴ね! セシルさんは特徴別頂点だよ!」
「じゃあどんな特徴?」
「えーっと巨大魔物」
「僕巨大じゃないんだけど」
「無差別級?」
そこでセシルは過去に出会った自分より2周り以上大きな魔物を思い出していく。
「あっ……」
今までなぜか忘れていた。いや、意図的に思い出さない様に脳が判断した魔物の存在を思い出し鳥肌が立つ。
「どうしたのセシルさん?」
「僕は生態系の頂点じゃないや」
「急にどうしたんだ?」
「ヨトとユーナに会う前に帝国の兵士をおもちゃの様に殺していた猿がいてさ」
「猿?」
「遠目でシャグモンキーの3倍はデカく見えた。でも馬とか片手で引きずっていたし、もっと大きいかも」
「大きい猿? それだけ?」
「真っ黒だった。遠くで見ているだけなのに鳥肌が止まらなかったよ。鎧トカゲどころじゃないよ」
「ん~。もしかしたらキングコングかもしれないな」
「キングコング? 知っているの?」
「俺は魔物マニアだからな。とは言えキングコングはディビジ大森林に接する地域に住んでいる男ならだいたい名前くらいは知っているんじゃないか?」
「どんなやつなの?」
「セシルが今言ったくらいの情報しかないぞ。ドラゴン種と一緒で、見たらすぐ逃げろの代表的な魔物だからな。【遠くで見た。やばかった】くらいしか情報はないぞ。じっくり見た人間は殺されているだろうからな。あー、ちなみに複数で行動している事が多いらしいぞ」
「えっまじ? 群れるの? あのヤバいのが!? 何それ最強じゃん」
「群れと言うか多分家族単位なんじゃないか? シャグモンキー並みに群れている目撃情報は無いと思うけどな」
「そうなんだ……」
「どちらにせよキングコングは結局猿でしょ? アンキロドラゴンにはダメージ与えられないんじゃないの? 結局相性って話だよね」
「キングコングならアンキロドラゴンも倒してしまいそうな気がするくらい恐怖感あったけどね」
「まじ? キングコングってそんなにヤバいのか。出会わないと良いけどな」
「そんな事より雨に打たれ続けるのしんどいし、そろそろ移動しない? マーモット達ももう吐くもの無さそうで胃液出てるよ。話戻すけど結局何で皆吐いているの?」
「着いてきたら分かるよ。こっちおいで」
「?」
セシル達に合わせてマーモット達も付いて来る。特に指示が無い限りボスの移動には付いて行かないわけにいかない。
悪臭の元に向かっているので皆、一様に引き攣った顔だ。
アンキロドラゴンの近くまで来ると遂にヨトとユーナにもフワッと臭いが届いた。
「えっ? 何の臭い?」
「何か臭いな」
クサいと思ってもついついクンクンしてしまうのは生物の性だ。
ふわっと臭っていた悪臭が、急にクンッと強い悪臭となって鼻の奥を鈍器で殴ったような刺激が通過する。
「くっふぉ」
「んがっ」
2人は一頻りゲッホゲッホした後、すぐにうっぷうっぷモードに入り、ケロロロロ ケロロロロに移行した。
ちなみにそれを見ながら笑ってやろうと思っていたセシルもうっぷうっぷ なっている。
「ごっごめんけど、ライライ吐瀉物の掃除お願い」
「ピー」「ピョー」
ライライが消化に当たってくれるが、量が多く時間が掛りそうだ。
「なっなあ、おえっ、消化終わるまで離れていても良いんじゃないか?」
ヨトが臭いに耐えきれず提案する。
マーモット達も言葉が分かっていないはずなのにウンウンと頷いている。
「馬鹿野郎!!」パチーンッ
「痛っ」
「ライライが頑張っているでしょうがっ! あんな汚い物を掃除させといて自分達だけ逃げようって精神はクズ中のクズだぞ!!」
「そっ、それは……」
ヨトは(ライライ達に普段からウンコ食べて貰っているし、魚っさん達の死体も特段汚いって感じてないのでは?)という言葉を口に出そうとするが思いとどまる、確かにライライだけ置いて行くのは違うよな。と、セシルの言う事にも一理あると反省する。
「そうだな。悪かった。ちゃんとここで待っているべきだよな」
「良く言った。じゃあ、僕たちは50mくらい離れた所で待機しているから消化終わったら呼びに来て」
「え?」
「じゃあ皆行くよ」
「ナー ナー ナー」
マーモット達は口から胃液を垂らしながら歓喜している。
「ごめんね。お兄ちゃん。おえっ」
ユーナがそう言い残しながら離れて行くとヨトの周りには誰もいなくなった。
「えっ?」
「……え?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます