第202話 可能性
アンキロドラゴンを食べる事にしたセシル達だが、結局はライライが腐乱死体を消化し終わらないと話にならない。
食事を優先したい気持ちもあるが、腐臭の中食べるのは絶対に嫌だ。
先に内臓を取り出す作業を進めたい所だが、綺麗に取り出すのも寄生虫の処理も結局ライライに頼らないと難しい。
「ライライが居ないと生きていけない身体にされてしまった」
「言い方よ。だが正直俺もスライムがこんなに有能だとは思わなかったぜ」
「ここに来たての頃、歯の掃除してもらった時はびっくりしちゃった」
「あれは驚いたよな。ユーナの中に入るのかと思って焦ったぜ」
「もし街での暮らしに戻ったとしてもライライちゃんの存在が欠かせないかも……なんならそれを商売に……ねー。セシルさん」
「ん?」
「ライライちゃんいつ分裂するの?」
「ん~分かんないけど。まだまだなんじゃない? 僕と出会ってから分裂するまで何年もかかったよ。5年くらい? もっとかな?」
「あーそうなんだ。4匹に分裂したらもっと助かるのになぁって思ったんだけど」
「野生のスライムを探してテイムして増やすのは?」
「いや無理無理。野生のスライム見ても全く出来る気がしないもん」
「セシルなら何匹も出来そうな気がするけどな」
「普通の人は1匹が限界なんでしょ?」
「そうみたいだね。僕でも2匹が限界みたいよ。なんか斥力魔法と引力魔法が使えるから2本の魔力線があるから2匹の従魔が可能なのでは? とかなんとか誰かが言っていたような言ってなかったような」
「マーモ含めて3匹いるじゃん」
「それなんだけどさ。目に魔力集めて見てみると分かるんだけど、元々ライムって名前のスライム1匹だったんだけど、その子に繋がっていた1本のパスが分裂する事で、無理やり2本に割けた的な」
「ほー。それはありなんだ」
「分かりにくいけど、マーモに繋がっているパスより若干魔力のパスが細くなっているんだよね。もともと細い魔力パスだったからほとんど影響無いみたいだけど」
「よく分からんけど、もっと魔力パスを割けばいいんじゃね?」
「僕が自分の意思で割く事が出来ないのよ。魔物側で分かれて貰うしかないわけ。多分」
「ふーん。じゃあ、もしマーモちゃんが子供産んだらそこにもパス繋がるの?」
「オスだから無理でしょ」
「あーそっか」
「子供が生まれたからってその子も従魔になるなんて聞いたこと無いけどな」
「普通は魔力が足りないらしいよ。ずっと魔力を垂れ流している状態? みたいな感じとかなんとか」
「へー。もし普通の人がスライム従魔にしていたとして分裂したらどうしているんだろうな?」
「1匹殺すんじゃない? じゃないと自分が魔力不足で動けなくなりそう」
「うわ、きっつ」
「だとしたらかなりキツい判断だよね。従魔の能力がある人って優しい人がほとんどみたいだから、そのまま魔力不足のまま死ぬ人もいそう」
「「優しい人?」」
ヨトとユーナは疑惑の目線をセシルに送る。
「何だよその目は。そもそも僕を殺そうと襲ってきた2人をここに住まわせているだけで優しいでしょ」
「襲ったのはお兄ちゃんだけでしょ」
「その話はもう忘れてくれよ」
「とりあえず、自分で言うのも何だけど昔はピュアで心優しい少年だったんだよ」
「ピュアで心優しい少年じゃなくなったのは何かあったの?」
「……言い間違い。今も昔もピュアで心優しい少年だけどね。まあディビジ大森林に子供1人で来るくらいだよ? 色々あったんだよ」
「そっか。セシルさんも大変だったんだねぇ」
「こんなやべぇ奴になるにも理由があるんだな」
「誰がやべぇ奴だ」
「よく考えたら魔力が1/2になるんだから使用魔力量変わらなくね?」
「……たしかに」
「でも聞いた事無いよな」
「まずスライム従魔にしようって人がいないからじゃないか?」
「たしかに。人生で1匹のみって考えたらポストスクスとかと契約した方が稼げるもんね」
そんな他愛ない話をしながらマーモット達に寄りかかりライライの消化を待っていたら、いつの間にか3人に加えマーモット達も全員が寝てしまっていた。
雨に打たれながらでは熟睡出来ず疲れが溜まっていたのだろう。
「ピー!!」「ピョー!!」
「ナ“ッ!?」
「……ん? うわっ!?」
「んん・・・・きゃあああああ」
「うおおおおおおっ」
ライライは一生懸命消化を頑張っている間に全員寝ていた事に怒ったのだろう。
アンキロドラゴンの目をくり抜き、ライアとラインで1つずつ持つとセシル達の顔の前まで持ってきた上で、セシル達を笛魔法で起こしたのだ。
起こされて目を開けた瞬間に魔物の目がギョロッと自分達を覗いており、寿命が縮まる程驚いてしまった。
ライライのテクニカルな所は今までの生活の中で、3人+マーモの4人の中で誰が最初に目を開けるかも計算され、瞼を開くタイミングでちゃんと目ん玉をそれぞれの顔の前に移動させていたのだ。
「ライライかぁ~びっくりしたぁあああ」
ホッとしたのも束の間、ライライからお怒りの感情が伝わって来る。
「ナァァ~」
「ごっごめんって、寝るつもりは無かったんだよ」
「ライライちゃんごめんね」
「すまん」
「後はやるからゆっくりしていて良いよって言いたい所だけど……非常に言いにくいのですが脳みそとか内臓取り出すの手伝ってくれないかな?」
セシルが申し訳なさそうにお願いすると続いて全員でお願いする。
「ライライちゃんお願い」
「頼む」
「ナー ナー ナー ナー」
すると、少しの間を置いてライライ達が溜息を吐く様な動きの後、アンキロドラゴンの死体まで向かってくれる。
ホッとした全員が雨に濡れながら付いて行くが、ライライ達とパスが繋がっていないヨト達にも背中越しにプリプリと怒っている雰囲気が伝わっている。
「えっとほら、そいつの魔石食べて良いからさ。許してよ」
「えっ? ライライちゃんは魔石で喜ぶの?」
「いや、今まで食べずに僕にくれていたから分かんないけど、食べて良いよって言ったらなんとなく喜んだ感じがする」
「何でいままであげてなかったの?」
「なんか綺麗だし……ライライ達が魔石を食べたいって知らなかったんだよね」
「スライムって魔石食べるのかー」
「いやスライムに限らず他の魔物も魔石の喰い合いするらしいぞ?」
「あんな硬そうなの食べられるの?」
「ボリボリいけんじゃね?」
「人間も魔石食べられるのかな?」
「そりゃ人間も殺されたら魔石食べられちまうだろ」
「いやそっちじゃなくて、私たちが魔物の魔石を食べるの」
「いやいやいや、嚙み砕けたとしても喉に引っ掛かるだろ?」
「そうかな? それなら他の魔物も喉に引っ掛かっているはずでしょ? 今度試してみてよ。ゴブリンとかは魔石ちっちゃいし飲み込めるんじゃない?」
「絶対に嫌だね。万が一チャレンジするにしてもゴブリンは勘弁してくれ。洗っても汚そうだ」
「じゃセシルさん試してみてよ。解決するかもよ?」
「僕も嫌だよ。解決って何が?」
「一度に出せる魔力量が増えるかもよ?」
「……えっ……まじ?」
「えっいや、知らないけど……」
ユーナが適当に言った事は分かる。分かるが、それでも……と、セシルは真剣に考えこむ。
『――おい、セシルが真に受けちゃったじゃねぇか』
『わっ私もセシルさんがこんな真剣になるなんて思わなかったのよ』
「……べる」
「え、何?」
「食べる。僕、食べてみるよ」
『どぉーーすんだよ!? その気になってんじゃねぇか』
『お兄ちゃん止めてよー!』
――――――――
最近更新が遅くなって申し訳ありません。
もうちょい頑張って早くしたい所存であります。
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