第162話 防衛


 ドンッガラガラッ

「ギィーーー」


『次から次になんだよっ!?』

『はぁ~もういいよぉ~』


 マーモとその上に乗ったラインが先に鳴き声の元に走っていき、2人はライアの光を追って警戒しながらゆっくり入って行く。


 家の奥に着くと3匹の雑魚っさんが目に入ってきた。


『また3匹!?』


 ヨト達が見た時はすでに1匹の雑魚っさんが倒れ伏し、さらにもう1匹のお腹にマーモの角が刺さり崩れ落ちる所だった。

 最後の1匹は逃げようと慌てて穴をよじ登り洞窟内に戻ろうとしているが、逃がすまいと返り血で血まみれのマーモが逃げる雑魚っさんに突っ込んで行く。


 ドンッ


 衝撃音と共に雑魚っさんのお尻にマーモの角が突き刺さった。


「ギィイイイイェエエエエエエオオォォ」


『うわぁあ……』

『おぅふ。完全にお尻の穴にズッポリ……』


 マーモは雑魚っさんを頭を振って投げ捨てる。


 ドサアッ


「ッィイイイッヒィイ、オフュッ、オフュッ」


 雑魚っさんは倒れた状態のまま両手でお尻を抑え海老反りになっている。


 声にならない声を上げる雑魚っさんを見てヨト達は同情を隠し切れない。


『……そうなっちゃうよな』

『これはちょっと同情しちゃうね。お腹刺された方が死に直結するんだろうけど、お尻刺された方に同情しちゃうのなんでだろうね』


 マーモが無慈悲に斥力魔法で止めを刺した。


『えげつな』


 マーモの汚れた身体にラインが纏わりつくと、大まかに付いた血などの汚れを取っていきその後水魔法で軽く身体を流し身体をぶるぶるっと振って水気を飛ばした。


『これ出来るなら川にも行く必要無かったんじゃねぇのか?』

『水汲みも必要だったからでしょ? 水魔法の水は汚くて飲めないし』

『あぁそうか』


「ナー」


 マーモがヨト達に向かって声を掛ける。


『ん? どうした?』

『ついてこいって感じだね』


 マーモがセシルの寝室に入って行くので中に入っていいのか戸惑っていると、魔物避け避けを咥えて持って出てきた。


『これは避け避けの方だよな? 魔物避けは?』


 マーモはヨト達を指さし、その後部屋の中を指さす。


『ん?』

『マーモットちゃんも魔物だから魔物避けは苦手なんじゃない? だから取ってきてって事じゃないかな?』

『あーそれもそうか』


 ヨトはセシルを起こさないようにそーっと荷物置きに近付き魔物避けを探す。

 袋に入れられ、さらに布に包まれていたので探すのに少し時間が掛ったが問題なく持ち出す事が出来た。



『で? どうするんだ?』

「ナー」


 マーモが魔物避けの臭いに顔を顰めながら洞窟の方を短い手で指さす。


『あーなるほど。あの穴付近に魔物避け避けを置いて、洞窟の奥に魔物避けを置くのか。てかなんで魔物避け持っているのに最初から使わなかったんだ?』

『このマーモットちゃんが手で鼻を抑えているから、魔物避けあまり使いたくなかったのかもね。スライムちゃん達も心なしか距離取ってるし』

『避け避け置いていてもやっぱり臭いのかな。避け避けは常にスイッチ入れているはずなんだけど。それじゃ抑えきれない何かがあるのか? てか前から思っていたけど、避け避けってもっとかっこいい言い方ないのか? 分かりやすいけど』

『あたしもその呼び方どうなの? とは思っていたけど今話す事じゃないでしょ。また臭い魚が来る前に早く起きに行こっ』

『そうだな。いやちょっと待って』

『どうしたの?』

『魔物避け避けを洞窟の入口に置くとしてだ』

『うん』

『魔物避けは洞窟の奥に置く必要があるだろう? 誰が置きに行くんだ? マーモットもスライムもスイッチを入れていないとは言え魔物避け避けから離れた魔物避け単体には近付きたくないだろう?』

『あっ……お兄ちゃんしかいないね』

『――ユーナ、自分の事を忘れているぞ。森ならまだしも、暗い洞窟の中を2人で歩いて置きに行くの危なくないか?』

『避け避けから避けの距離ってどれくらい放さないとダメなの?』

『分からん。多分、50メートルほどあれば大丈夫だとは思うんだけど』

『それくらいなら火魔法持つかな?』

『洞窟の中がどんな形をしているか分からないのがなぁ、火を出来るだけ小さく出せばそれくらいの距離は大丈夫だろう』

『後は魔物避けのスイッチを入れるまで魔物が出て来ないのを祈るだけなのね。あっ魔物避けにも魔力補充しないとダメじゃん』

『あぁまじか。とりあえず半分補充して回復したらまた補充しに行くか、2人いるしそれくらいはどうにかなるだろう。後は起きて来たセシルの野郎に補充させればいい……そうと決まればさっさとやるぞ。魔物が来る前に設置したい』

『そうだね。そうだよ。うん。お兄ちゃん頑張って』

『『2人』いるから魔力がどうにか足りるだろうって言っているんだけど、聞いていた?』

『妹を危険にさらすの?』

『――後ろでいいから、後ろで良いから付いてきて』

『もう仕方ないなぁ』


 ヨトは剣を手に持つと洞窟に入り、入口付近にまず魔物避け避けを設置する。

 そちらにはマーモ達で魔力補充をするようだ。


 ここから先は魔物避けを使うためにマーモ達は連れていく事が出来ない。


『道はとりあえず1本か。これなら大丈夫かも』


 緊張で呼吸が荒くなるが深呼吸を繰り返し落ち着かせようと心掛ける。

 左手で小さい火魔法を使い。

 右で剣を突き出すようにして進んでいく。

 ユーナはヨトの服を掴んで後ろをピッタリとくっついて歩いている。


 少し進むと2本の分かれ道が出てきてしまった。


『うわ、最悪だ』


『とりあえず左から行くか』


 左の通路を進むと水たまりが度々あり、天井からは時折ポタ ポタと水滴が落ちて来る。


『なんだよ。岩なのになんで水が垂れて来るんだ?』

『靴濡れてきちゃった。早く置いて帰ろう』


 さらに先に進むとまた分かれ道が出てくる。


『またかよ。もうここに置いてしまうか』

『距離大丈夫かな?』

『ん~ギリギリ大丈夫じゃないかな? そこそこ歩いたような気がしないでもない。ていうか、分かれ道が増えると魔物避けの数が足りないんだよな。魔力も足りない』

『あっそっか。魔力補充も半分より少なめにしないとね。じゃあ戻って右側の道にも早く置きに行こう。なんかここ臭いし』

『そうだな。あいつらの縄張りが近いのかもしれない』


 魔力を3割程度補充した魔物避けを置くと最初の分岐に戻り、右側の道を進む。

 屈んだり、四つん這いになったりしないと進むのが難しかった。


『右側しんどいな』


 文句を言いつつ進むと広い空間が現れさらに分岐が出てきた。


『ふぅ~ここに置くか。ユーナ魔力余っているだろ? 魔物避けに補充してくれ』

『分かった』


 2つめの魔物避けを設置した2人は歩きにくい道を戻っていく。


『これ、毎日数時間置きに魔力補充しに来ないといけないんかな』

『ん~あの穴を閉じればいいんじゃない?』

『キッチリ閉じる事なんて出来るか? まあ結局あいつに判断任せるしかないんだろうなぁ。はぁ。これじゃまるで家来じゃないか』

『もしお父さんが無事でこんな事にならなかったとしても、結局代官様に仕える一兵士になっていたんだろうから家来になるのは一緒だよ。アタシなんてあの代官様に見初められていたら妾よ? 最悪』

『代官様に見初められるというその自信はどこから来ているんだ』

『なんか兵士の娘は妾にされやすいらしいよ。信じられる? 成人前でもよ?』

『えっ? 代官様って父さんより年上だったろ?』

『そうだよ。だからアタシはお母さんからなるべる代官様の目に入らない様にいつも注意されていたんだから』

『あいつ最悪だな。でも権力者だからな。ここに居るのとどっちが幸せなんだろうな』

『お金持ちの代官様に選ばれる事は幸せだっていう家も多いらしいけどね。アタシは嫌だな。ここの生活は命の危険があるけど、気持ち悪い男と結婚するよりマシかも』

『昨日、今日思い出してみろよ』

『――やっぱりここも同じくらい嫌かも。もうクタクタなんだもん』

『だろう。俺ももうクタクタだ。戻ったら飯食べてすぐ寝たい。あっそう言えば夜ご飯は魚の残り食べていいんだろうか?』

『どうなんだろ? セシルさんまだ寝ているのかな?』

『勝手に食べて殺されるくらいなら起こして聞いた方がいいな。おっ、やっと着いた。毎回この穴潜るのしんどいよな』


 穴をもぞもぞと通り家に入る。


『魔物避け置いているんだから、拡げて貰ってもいいかもね』

『穴閉じた方が安全なんだけどな。話合おうにも言葉が通じないからなぁ~』

『王国語早く覚えないとね。セシルさん、教えてくれるかな?』

『……俺には教えてくれないかもしれない』

『あ~。じゃあアタシが積極的に教えてもらうようにするよ。マーモット達はどこに行ったんだろう?』


 セシルの部屋を、声を潜め覗く。


 セシルは寝転がっているが、その状態でマーモ達を撫でていた。


 起きてはいる事に2人はホッとする。

 ご飯の事が聞けるからだ。


「セシルさん」

「ん?」

「ご飯、食べた?」

「まだ」

「えーっと、魚、食べる」

「あーうん。食べよう」


 セシルがまだ体調は良く無さそうだが、身体を起こし立ち上がろうとする。


「あっそのまま」


 セシルをその場に留め、ユーナが籠から魚を取り出しセシルの元に持っていく。


「ありがと。ユーナ達も食べて」

「分かった」


 セシルはお礼を言うとマーモ達に指示を出す。


「マーモも魚食べて。ライアは籠の葉っぱ好きに食べて。ラインは皆のトイレ分で足りる? 魚食べてもいいよ」


 ライアは身体を光らせたまま草を食べ、ラインはフルフルと身体を振り断る。

 雑魚っさんをつまみ食いしていたようでお腹が減っていないようだ。


「ラインの食事がうんちだけになっちゃうのって何か凄く申し訳ない気がする」



 セシルは雑魚っさんの死体が転がっている事をまだ知らない。

 トイレに行くときに転がっている死体を見て、「また……」と言う言葉と共に膝から崩れ落ちるのは半刻後の事であった。

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