第163話 日々


 雑魚っさんの片付けは翌日に回し、その日は悪臭に纏わりつかれながらも寝る事にした。


 次の日にはセシルの体調は動ける程度に良くなったが、代わりにユーナが体調を崩し、ヨトとセシルの2人で作業をする事になる。


「さて、何から始めようか」


 セシルが思い悩んでいるとヨトが話しかけて来た。


「なあ」

「なに?」

「えっと、魔物……逃げるやつ、えっと」


「――――、――――」


「ほぅ。魔物避けの存在忘れてた。やるじゃん」


 ヨトの身振り手振りの説明で魔物避けを設置した事を知ったセシルは、雑魚っさんの片付けより先に魔力補充に向かう事にした。


 ヨトは道案内としてセシルの後ろに隠れるように着いて行く。

 一直線で行ける場所に置いてあるので迷う事は無いはずだが、万が一魔物避けを見逃してしまうと面倒なことになりそうなので


「ここ」

「おっあったあった。もう魔力切れてるじゃん。でも魚っさん達来なかったな? 残り香でもあるのかな? 洞窟で臭い籠りそうだしね」


 2か所の魔力補充を終え、家に戻ると次は雑魚っさんの片付けだ。

 

 雑魚っさんの片付けにはマーモ達も加わり作業をしていく。

 ヨトとセシルの2人は口喧嘩をしている訳ではないが、ユーナが居ないとなんとも言えない気まずい空気感が漂いほぼ無言で淡々と片付けていく。


 死体も捨て終わり、部屋に戻って来るが生臭い臭いは残っている。


「この臭いどうにかならないのかな?」


 セシルはそよ風程度の風魔法を外側に向けて放つ。

 マーモもそれを真似て風魔法を放つ。


 セシルは手を前に出しボーっとしており、マーモは口を開いてボーっとしている。

 ライアとラインは身体を光らせて佇んでいる。


「――何、やっている?『頭おかしくなったのか?』」


 説明も無く突然この様な光景になり、ヨトには何をしているのかさっぱり分からず混乱していた。


「臭いから風で送ってる。臭い。風。」


 するとセシルはヨトに掌を向ける。


『うわっ!? あぶねぇだろっ』


 ヨトはセシルが魔物を殺した謎の魔法を自分に向けて来たと思い慌てて避ける。


「大丈夫」


 セシルが自分の顔に掌を向け、髪がそよそよと動くのを見せる。


「あっ……あぁ。風か」

「ヨトもやって」

「え? 俺?『引力魔法しか使えないんだが』」

「?」

「風、無理。火、出来る。」

「あーそっか……チッ」

『あっおい! 今舌打ちしたなっ!?』

「……仕方ない。臭い消しの薬草取りに行くよ。後、食料と水」

「なんて!?」

「薬草、肉か魚、水」

『水か、うあぁまた水か。またあそこまで行くのか?』

「ほら、行くよ」

「あっ、待て」

「ん?」

「ユーナ、1人、ダメ、自分、残る」


 ヨトはユーナの看護を言い訳にし、あわよくば水汲みから逃げようとしていた。


「あっ、あぁ~そっか。ユーナ一人残したら危ないか。――じゃあトイレと明かりの問題もあるしラインに守ってもらおうか。ライン、ユーナを守っててね」

「ピョー」

「よし、ヨト、来い」

「あっいや、自分、残る」

「ヨト、荷物持ち、来い。お前、守るの無理、弱者、糞、雑魚、うんこ漏らし」

『早口でいまいち聞き取れなかったが、侮辱された気がする。あと絶対うんこって言った』


 ヨトは一瞬イラッとしたが、水汲みは避けられなさそうだと分かり見るからにガッカリした顔をする。魔物が来た時にユーナを守れない可能性がある事は自覚している。


『はぁ~行くしかないか』


 ヨトは寝ているユーナに一言声を掛けてからセシルについて行った。





 こうしてディビジ大森林での生活が順調?に始まった。


 ユーナの体調が良くなると次はヨトが体調を崩しお留守番しているところを魔物に襲われたが、ラインに助けられて九死に一生を得るような小さなハプニングはあったが――大まかに順調であった。




 基本的にはセシルの指示でその日の行動が決まる。

 背負子作り、魔物の皮の鞣し作業、唐辛子などの栽培、薬草の採集、ミツビオアルマジロの甲羅で盾、ティタノボアの鱗で鎧を作成などやる事は山積みだ。

 盾や鎧の作成と言っても、斥力魔法で穴を開けそこに蔦を通しただけの簡易的なものしか作る技術は無いが。


 セシルとヨトの間は見えない壁があり続けているが、ヨトも逆らってはここで生活が出来ない事は身に染みて分かっており、揉める事はほとんど無かった。


 さらに、ヨトとユーナの身体が岩山の生活に慣れてくると2人のあまりの弱さをセシルが指摘し、剣と魔法の訓練をさせる事にした。

 2人の魔法は無駄が多くサイズの調整も上手く出来ず、すぐ魔力を使い切ってしまうので魔法循環の練習をさせる事にしたが、ヨトが反発してきた。


「お前の方が魔法、弱い」


 そこで魔力コントロールのお手本を見せようとヨトとユーナの肩にそれぞれ手を置いて魔力を流し込んだ。

 ゆっくりと細く流し込んでいく。

 魔法の出力はセシルの方が圧倒的に少ないが、魔力のコントロールに関してはセシルの方がずば抜けて上だ。


 ヨトとユーナは驚く。


『魔力ってこんなに細く出来るのか』

『凄い。髪の毛みたいに細い感じ。アタシはもっと、ドッっと流してた』


 セシルの魔法循環を参考に、ヨトとユーナも魔力を細く細く全身に巡らせて行くがあっという間にバテてしまった。

『ぬぅあぁ~もう無理。セシルさんってやっぱり凄いんだね』

『これは思ったよりしんどいな。コイツは魔力少ないから細く出来るんじゃないか?』

『そうなのかな? でも出してる魔法より全然細く魔力コントロールしてるよ』

『む~、じゃこいつも練習して出来るようになったのか?』

『きっとそうだよ』

『――あれ? ちょっと待てよ』

『どうしたの?』

『凄い事思い付いたかもしれん。……もしかしてだが、俺達の魔力無くなってもコイツに魔力を入れて回復してもらったら何発も打てるようになるんじゃないか?』

『魔物避けに魔力補充するみたいに?』

『そうそう。普通は魔力が少ないから他人に魔力補充する余裕なんて無いだろうけど、コイツは魔力無限にあるんだろ? 出来るんじゃないか?』

『でも、魔物避けに魔力補充する時ってこうりつ?が落ちるって王国の冒険者の人が言ってなかったっけ?』

『たしかに何割か減るみたいだけど、でも関係ないだろ? だってコイツは魔力無限なんだから』

『ただでさえ少ししか魔力出せないんだから、さらにこうりつ悪くなったらすごく時間かかるんじゃないの?』

『時間かかっても俺らが回復した方がいいだろ?』

『でもあたし達が回復したところで大した魔法使えなくない? 結局魔物倒すのはセシルさんの謎の穴開ける魔法だよね』

『それでも逃げる時に俺達が目くらましの水魔法撃つこと結構あるだろ?』

『うん』

『目くらまししている隙に隠れて魔力補充すれば、また目くらまし出来るだろう? 逃げられる確率が上がるんじゃないかと思うんだ』

『魔力の臭いで見付からないかな?』

『……あれだ。木の上に逃げた時とかに補充して撃つ! が出来るわけだ』

『セシルさんの謎魔法で良くない? なんか知らないけど、あの魔法縦横無尽に動いているよね』

『……あれだ。魔力使い切ったらぐったり疲れるし気分悪くなるだろう? それが楽になる』

『それは有難いけど』

『だろう! 良い案だと思ったんだよ』

『結局戦闘では役に立ちそうもないね』

『いつか役に立つときがくるさ。あっ魔力の補充が出来るなら魔物の魔力を奪う事も出来るんじゃないか?』

『もし魔力奪えても、魔物も身体が怠くなるだけでしょ。微妙じゃない? それにセシルさんの魔法の大きさなら少しずつしか奪えないでしょ? のんびり魔力奪っている内に反撃されちゃうよ』

『そういえばそうだな』


 実際は魔力を取る事は難しい。

 魔法による引力よりも体に残ろうとする張力の方が強いからだ。


『結局あれだね。魔力補充はいまいちだったね』

『ユーナはまだ子供だからこの発想の凄さが分からないかぁ』

『ムッ、お兄ちゃんもまだ子供でしょ』

『12歳から働きに出るのが一般的だろ? あと一年だから俺もほとんど大人だ』

『そういうところが子供なのよね』

『大人みたいなことを言うな』

『で、あたしは何が分かってないの?』

『こういう発見から新しい事が生み出されるんだ。いざという時にこの知識が生かされるかもしれないしな。いまいちだったと判断するのは将来になってみないと分からないと言う事だな』

『よく分からないけど、ようするに今はいまいちって事でしょ?』

『まあお子様のユーナにも分かる時がくるさ』

『なんかムカつく言い方ね。分かる時が来たときは危険が迫っている時でしょ? 来ない方が良いじゃない。危険にならない様に頭を使うべきじゃない? 大人ならそれくらい分かるでしょ?』

『ぐっ、もっもちろん危険にならないようにするが将来何があるか分からないから、そのために色々備えとくと良いって話だ』

『それは分かるけど、結局セシルさん便りの作戦って言うのがお兄ちゃんらしいね』

『うっうっさいわ!』





 セシル達が毎日をただ必死に生き抜いていた頃、各国の動きが活発になっていた。





¥¥¥¥¥¥


更新遅くなりました。

いつまでも大森林の生活の話が続きそうだったので、少しストーリーの速度を早めます。

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