第12話 剣の才能と関節技
夕方の仕事も終えると、どこからかダラスが現れて夜の訓練の時間になった。
訓練は家の裏で行う。
夕日が眩しい時間だ。
「よし。では訓練を始める。夜のメニューは素振りを行った後、ストレッチをやって終了だ。訓練前のストレッチは畑仕事をしていたから無くても良かろう」
3人に木刀が渡される。
僕と母さんの木刀は少し小さめだ。
「あの~ライムとマーモにも木刀無いですかね?」
「ん? この2匹も剣を触れるのか?」
「分からないですけど、やる気満々のようで」
「分かった。すぐ持ってくる。申し訳ないが、今日は大人用のサイズしか無い。明日は少し小さいのを作っておこう」
「すっすみません。子供の我儘に付き合っていただいて」
カーナが恐縮する。
「いや、大丈夫だ。儂も興味がある。では取ってくる」
そう言うと走って取りに行って1本の木刀を手にすぐ戻って来た。
「残りの1本はお手本を見せた後に儂のを渡そう」
「ありがとうございます」
「よし始めるぞ。まずは上から下に降ろすだけだ。だが、これが全ての基本となるので手を抜かぬように。儂がお手本を見せるからそれを真似なさい」
そう言うとダラスが木刀を構えて呼吸を整えてフッ!と木刀を振り下ろした。
ただそれだけなのに凄い威圧感がありセシルはチビりそうになった。
と言うかちょっとチビっている。
「よし。見様見真似で良いからやってみなさい」
3人は思い思いに振ってみるが3人とも木刀の重さに負けて降った後フラフラと体勢を崩してしまう。
ライムは手の様に左右から触手が出て来て剣を支え、身体に木刀の持ち手部分が刺さっているような感じで構えてから振ったが、べちゃと木刀を地面に倒しただけみたいになってしまった。
マーモは手で一生懸命持とうとしたが重たいようで、断念して口で噛んで振り回している。
「3人ともまあこんなもんだろうな。降った時に腹筋に力を入れて剣を止めるのだ。よし続けなさい。ライムとマーモについては……好きにしなさい」
ナーとマーモが返事するが、ダラスはどうして良いか分からないようだった。
フッ!
フッ!
と思い思いに剣を振っていき、ダラス様がそれぞれに少しずつアドバイスをしていく。
ライムとマーモについてはスルーだ。
「ロディとカーナは農作業で鍬を振っているお陰か筋が良いな」
「「ありがとうございます!」」
「今、何歳になる?」
「私が24で、カーナが23になります」
15で成人となるこの世界では16で子供を産む事も珍しくない。
この開拓村に来てすぐ妊娠した為、最初はかなり苦労したようだが。
「ふむ。まだまだこれからの年齢だな。2人とも剣術はかなりの使い手になれるかもしれない」
「本当ですか! ありがとうございます!」
ロディは嬉しそうだ。
農民であっても男はやはり剣士に憧れがある。
「セシルは……魔法に才能を持って行かれすぎたかもしれんな。ガッハッハッ」
「さいのう無いですか?」
「まだ筋力も無くてまともに振れてないからな。正直まだ分からん、筋肉が付くには時間がかかるからな。他の格闘術も同時に学ばせてみよう。イルネに非力でも出来る格闘術を教える様に言っておく」
「はいっ!」
(やったイル姉に教えて貰えるっ!)
「とういう事で、昼以降もセシルの時間を取りたいがよろしいか?」
ダラスがロディに尋ねる
「はいそれは問題ありませんが。しかし、セシルの身体が持ちますでしょうか?」
「無理はさせん。育ち盛りだから昼寝の時間も取るようにさせよう。農作業も大変な時は遠慮なく言ってくれ。儂が手伝う」
「そっそんな!? ダラス様に手伝って貰うなど」
「いいか?これは命令だ。遠慮せず頼みなさい」
「ありがとうございます」
父さんと母さんが頭を深々と下げるのでぼくも合わせて頭を下げる。
「よし、素振りはこれくらいにしておこう。ストレッチをやって今日は終わりだ」
これが一番キツイと3人が青い顔をするがお構いなしに始まる。
3人の声とマーモの鳴き声が近所に木霊するのであった。
翌日、同じように軽い運動から始まった。
3人とも身体が強張っている。
流石に2匹は大丈夫なようだ。
「同じメニューを今日含めて後3日続ける。1日休んだ後、トレーニング内容を少し重くする。こうやって様子を見ながら時々休息日を入れるので安心しなさい。まあ休息日が来る度にメニューが少しずつキツくなるがな。ガッハッハッ」
「はっはい」
3人は目を合わせてガックリする。
休息は欲しいがメニューがキツくなるのはいただけない。
「よーし、今朝はここまで。おつかれさん」
「「おつかれさまでしたぁ~」」
両親は畑仕事に行き、セシルは身体を拭いて部屋で待つ。
まだ二日目だがもうイルネに会えるのが楽しみになっていた。
コンコンッ
「はーい」
「失礼する」
「イル姉、おはよう!」
「セシルぅ! おはよう!!」
そう言って抱き付いてくる。
今日は最初からイルネ様じゃなくてイル姉モードだ。
最初の呼びかけを間違えていない事にセシルはホッとする。
今日のイルネは格闘術がある為か、スカートではなく膝丈のズボンになっている。
「よーしっ! じゃあまずは勉強からするよ!お膝においで」
軽い休憩を入れつつの勉強が終わり、お昼の時間が来た。
イルネが作った食事を食べ終わり、両親が畑に戻って行く。
昨日と違うのはイルネが騎士達とお昼を食べた後に戻ってくる事だ。
「セシルっ。寝室に行くよ!」
「えっ? 寝室?」
「そうだよ~お姉ちゃんが色々教えてあげるからねっ」
そう言ってウインクする。
ボッとセシルの顔が赤くなっている。
「あら? 赤くなっちゃって可愛い~性の勉強はまだ早いわよっ」
セシルのおでこをコツンと指で押す。
「せい? って何?」
今度はイル姉がボッと顔が赤くなる
「あっ……それはそのぉ~そうよね」
(こんな年齢の子がそんなの知っている訳ないものね)
「ねぇ。イル姉、せいって?」
手を掴んで聞く
「それは……セシルが学院を卒業したら教えてあげるわ! そんな事より格闘術ね。寝転がってする技とかもあるから寝室でやるのよ」
寝室と言っても、板に薄い布が敷かれてるだけだ。
「……はーい」
そうやって始まった格闘術は関節技と言われるのから始まった。
「イテテテテテテテッ」
「これが関節技よ。痛くて限界だと思ったら手で二回、相手をポンポンと叩きなさい。それで辞めてくれるわ」
(イル姉と楽しい時間だと思っていたのにっ! 何これ何これ! イテテテテテッ)
イルネが技の紹介と言って色んな技を仕掛けてくるので、ひたすら辛い時間だった。
「こんな感じね。分かった? 実践では相手が魔法を使うから、手を自分に向けさせない事が大事になって来るわ。熟練の魔術師以外は基本的に手のひらか指を経由してしか魔法を発動出来ないからね。まあ一般の兵士レベル以下の相手であれば、早い段階で強い痛みを与えれば、痛みで集中出来なくて魔法なんか使えないけどね」
「はぁ……」
セシルはよく理解できなかった。
「ふふ。いっぺんに言われても分からないよね。お姉ちゃんが少しずつ身体に教えるわ。ついでに生活魔法も教えるように言われたから、関節技を少し覚えたら魔法教えるわね」
「魔法!? やったぁー!」
「先に関節技ね」
魔法お預けにしょんぼりしたが、関節技は掛ける方は痛く無くて楽しむ事が出来た。
横ではライムがマーモに見様見真似で関節技を掛けようとしていたが、ライムの力が足りず技を掛けきれていなかったのを見て「何やってるの」とセシルは笑っていたが、イルネには違って見えたらしい。
「これは……もしかして、ライムの力が強くなったら変幻自在に技を掛けられるのではないか? 凄いぞ!」
とイルネが興奮する。
「イル姉、スライムって力強くなるの?」
「それは……分からない」
「ライム、力強くなるの?」
セシルがライムに話しかける。
(……)
「う~ん、ライムも分からなさそう」
「そうか。でもライム! 続けると良いよ。関節技が出来るスライムなんて面白いじゃない」
ライムが飛び跳ねて返事する。
「では次は生活魔法の勉強をしようね。普通はまともに使えるようになるまで魔法に集中して頑張っても半年から1年ほど掛かると言われているんだけどね。お姉ちゃんは7カ月くらいだったかな。ルーレイ様の予想ではセシルは1週間もかからないと思われているそうだけど。流石にそれは難しいと思うわ」
「頑張るっ!」
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