第13話 生活魔法
「おぉ~セシルはかわゆいねぇ~よ~し始めるよ~」
こうしてイルネにセシルが頬擦りされた後、裏庭に出て始まった生活魔法の授業だが予想外の出来事が起きた。
それは授業が始まって半刻程たった時の事だった。
「は?」
「え?」
「「えええええええええ!!?」」
ライムとマーモが魔法が生活魔法を使えるようになったのだ。
ライムが5センチメルほど伸ばした触手の先に1センチメルほどの小さい火が点っている。
マーモに至っては口を開いてその先に1センチメル程の火が点っている。
イルネとセシルが目を合わせる。
「「……」」
「イル姉、スライムとマーモットって魔法使えるの?」
「しっ知らないわよっ! 何これ!? しかも火を出しっぱなしにしているじゃない! 一般人レベルだと普通魔法使えてもこんな長時間使うのは中々難しいのよ?……ちょっちょっとコルト隊長を呼んでくる」
イルネが「たいちょおおおおおおお」と叫びながら去って行った。
イル姉のキャラのまま出て行ったけど良いのだろうか。
しばらくすると息を切らしたダラス、コルト隊長、イルネのいつもの3騎士が現れた。
ライムとマーモは未だに火を灯したままだ。
「なっなんじゃこりゃあああああああ」
ダラスとコルトが口を開けて驚いている。
「ねっ! ねっ! 言ったでしょ!? 言ったでしょ!?」
イルネが自慢げに言う。まだイル姉のキャラのままだ。
「……ちょっと火を止めてみてくれないか?」
マーモとライムが火を止める。
「もう一度、点けて見てくれる?」
ボッと火が点く。
「疑いようが無いな……」
ダラスが言う。
「爬虫類系や人型の魔物の使用例は聞いた事あるが、スライムとマーモットは目撃例は無いと思う……多分。ん~セシルはもう魔法使えるようになったのか?」
「いえ、まだです」
ちょっぴり悲しい気持ちになりながら答える。
「ガッカリする必要はない。むしろこんな短時間で出来てたまるか」
「でもライムとマーモが出来ています」
「いや……それは……はっはっはっ」
「隊長、励ますならしっかりやってくださいよ」
キリっとした顔が戻ってきたイルネが指摘する。
「しかしスライムやマーモットが魔法か、魔核があるものは使えるのだろうか……? いや、セシルの影響は……」
コルト隊長がハッと思いついたようにセシルを見てくる。
「セシル、この2匹が魔法を使っている時、自分から魔力が取られている感じはしないか?」
「え?」
「慎重に自分の身体の魔力を探るようにしてみて」
セシルは言われたとおりに身体の魔力を探っていく。
「ん~あっ! なんか集中すると薄っすら魔力取られている感じします!」
「そうか!やはり、君の魔力を使って……え?」
コルト隊長は火を出しっぱなしにしている2匹を見る
「え?」「え?」「え?」
騎士3人が2匹とセシルを見比べ、セシルに視線が集中した。
「え?」
何?と思って怯えているとコルト隊長が話しかけてくる。
「2匹が少量とは言え魔法を使い続けているのにセシルは自分の魔力を探らないと自分の魔力が使われている事に気が付かなかった……と言う事か?」
「……そうなるな。これが大賢者の才を持つ者か。末恐ろしい」
うぬぬと唸りながらダラスが答える。
「私の指導が良かったのでしょうね」
イルネの言葉は無視され、会話が続く。
「しかし、これは……宮廷魔術師共にバレたら厄介なことになるぞ」
ダラスが苦い顔をして言う。
「そうですね。権力を笠に着てライムとマーモを奪って研究しようとするでしょうね」
「え? ダメだよ!」
「あぁ分かっている。そんな事はさせない。ライムとマーモには人が見える所では魔法を使わせないようにしなさい。この村にいる間は人がいない所で使う事を許可しよう」
「お父さんとお母さんもだめですか?」
「いや、ご両親には話しておくから大丈夫だ。いいか。他の人に見付かれば連れていかれると思った方が良い。出来れば家の中で比較的安全な水魔法を使うくらいが良い」
「はい。分かりました。ライムとマーモも分かった?」
マーモはナーと鳴き、ライムはぴょんぴょんと跳ねた。
「……今の話を理解できたのか?賢すぎやしないかね?」
「あぁそうだ言い忘れていた。恐らくだが、ライムとマーモもはセシルと知識を共有しているのではないか? と思っている。魔力を通じたパスで感情が分かると言うレベルを超えた理解力を示している気がするのだ」
ダラスがそう言うとコルト隊長が納得の顔になった。
「なるほど。これはまた……従魔された移動系魔物は確かに賢いと思っていたがここまでとは。ん~この従魔の理解力、知識の共有辺りは従魔界隈では流石に常識の範囲なのではないでしょうかね? 従魔は昔からある訳で、研究は進んでいるのではないかと」
「確かにな。2匹の理解力はあえて前面に出すのは控えるとしても、特別隠す必要はないだろう。だが、魔法はダメだな。元より魔法を使える魔物ならまだしも、魔力を供給し続ける事で魔法を使えるようにするなんて、異常な魔力量が無いとあり得ない。隠した方が良い」
「念のため、領主様には報告入れて置かないとですね。人数に余裕が無いから報告に行くのは騎士宿舎が出来てからか……」
「そうしよう。セシル、2匹が魔法を使えるのを表に出すのは最低でも学院を卒業してからだ。その頃には大賢者として優遇され、宮廷魔術師も下手に手出しできなくなっているだろう」
「はい。分かりました」
「よし、色々あってセシルも疲れただろう。夜のトレーニングまでまだ時間あるから少し昼寝しておきなさい」
「はい」
「では私も一緒に」
イルネがセシルの背を押しながら寝室に行こうとして首根っこを掴まれる。
「いやいやいや、何をお前まで一緒に昼寝しようとしとるのか」
「いや、隊長。魔法覚えたてで寝ぼけて魔法を使ってしまわぬ様に監視をですね」
「白々しい顔して何を言っとるのだ。セシルはまだ魔法使えないってさっき言ってだろうが!」
チッ
「あっ!? お前今、上官に向かって舌打ちしただろ!?」
「いえ、まさかそのような事ある訳ないでしょう。そのように大声を出されますとセシルが興奮して寝むれなくなるので静かにした方がよろしいかと愚考いたします」
「ぐっ。この減らず口を……」
「はっはっはっ! ではまた後で来る。ほらお前ら行くぞ」
「「はい」」
マーモとライムと一緒に昼寝をしようとしたが、結局セシルは魔法に興奮して寝る事が出来なかったので、途中で寝るのを諦めて畑仕事をする事にした。
畑に行くと両親にはもうライムとマーモの魔法については伝えられていたようで、流石私たちの子だわ!と抱き付いてきた。
セシルはまだ魔法が使えないのでちょっと面白くない気持ちになる。
夜の訓練も順調に終わり、両親と一緒に文字の勉強をして1日が終わった。
夜はぐっすり眠る事が出来た。
次の日、同じような1日が過ぎようとしていたがセシルが火と水を使えるようになった為、イルネが大騒ぎし、両親も大喜び。
コルト隊長とダラスもかなり驚いていた。
普通は肉体的な訓練と魔法の訓練はなかなか両立しないらしい。
セシルもライムとマーモに追いついたので飛び跳ねて大喜びし魔法をたくさん使って遊んでロディにやり過ぎだと怒られた。
魔法が使える様になった為、次の日から関節技に魔法を加味した技の指導が増えた。
自分に手を向けられそうになったら、すぐ体勢を変えないといけなくなる為、とても忙しい。
最終的に相手をうつ伏せの状態にして片手を捻り上げて相手の背中側に掌を押し付けるようにしたら勝利となる。
セシルは立った状態からイルネを倒そうと足を引っかけたりしてワチャワチャするのは凄く楽しむ事が出来た。体重差があるのでワザと倒れて貰わないと全然倒せなかったが、セシルにとっては遊んでる感覚で続ける事が出来た。
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