第14話 セシルの魔法能力疑義


 そんな訓練をする日々を過ごしていると、騎士宿舎が完成したらしい。

 セシルは防犯の関係から、いつもの3騎士と顔見知りの村人意外とはあまり話さないようにと言われていた為、大工さんとは挨拶程度しか話したことは無く、いつの間にか宿舎が出来たという感想だ。


 これから村に来る騎士が増えるが、ライムとマーモの魔法については今後も現在いる3人の騎士以外には秘密にするように決定した。

 知っている人数は極力減らした方が良いとの判断からだ。


 当のライムとマーモはセシルの影響があるせいか、斥力の魔法も使えていた事が分かった。

 土の魔法では無く風の魔法を使っていた為、発見が遅れた。

 ライムとマーモが向き合って何かしてるな~?とセシルが近付いた所、マーモの毛がさわさわと靡いていたのだ。


 またイルネが大慌てでダラスとコルトを呼びに行く。


 今度は何だ?と集まって来た2人は顎が外れんばかりに驚いていたが、セシルから魔力が通じているから当然か。と、すぐ納得していた。

 2匹が斥力による風も扱える事が分かった為、訓練の後にライムとマーモとセシルでお互い風を当て合ったり、ロディとカーナに当ててあげたり涼む事が出来て大活躍 だ。

 そよ風程度なら魔法を使っていることが分からない為、外で使っても大丈夫とお墨付きを得たので、ランニングしながら使うようになると便利過ぎてもう手放せない魔法となった。


 普通はすぐ魔力が尽きるし、魔力が尽きると全身が怠くなるのでこんな使い方出来る人はいないらしい。

 魔法の習得について順調すぎるほど順調と思われていたが、ロディの一言で疑問が付いた。


「はぁ~あっついなぁ。なあセシル、もうちょっと風強くしてくれよ」


「え? これ限界だよ?」


 それを聞いていたダラスが驚いたように話に入って来た。

「いや、魔力の量が多いのだ。強くすることは出来るだろ? 精密な調整などは訓練が必要だが『魔力を多く出す』というだけならさほど難しい事ではないはずだがな?」


「そうなのですか? やってみます……んんん”」


 セシルはグッと力を入れる。

(あっちょっとウンチ出そう)


「……出来ないです」


「ん~? 細い魔力を使う方が普通は難しいのだがな。セシルは特殊だからな。これは学院で専門家に学んだ方が良いかもしれん。魔力が多すぎるが故の身体による防御装置かもしれん。変に身体に負担が掛かってもいかんからな。今はその魔法出力で我慢なさい」


「分かりました。ウンチ行ってきます」


「すぐに行ってらっしゃい」


 ダッシュでトイレに向かう。


「……ほんとに理解出来たのかね。ウンチ行きたいから適当に返事したのでなければ良いのだがね」




 そうこうしている内に大工さんが帰り、新しく騎士が5名やってきた。

 1人1人挨拶してくれたが、基本は魔物駆除などの任務に当たるらしく元々いた3騎士と比べて関わる時間は少なそうだけど、騎士の1人テッドが言った一言にセシルとその両親の心が奪われてしまった。


「魔物狩ってたくさんお肉持って来てやるからな!」


 ニカッと笑うテッドはやんちゃな好青年と言った雰囲気で、短髪、赤髪、目も赤っぽい色だった。20代前半くらいである。


「はいっ! テッド様! 楽しみにしています!!」


「よーしっ良い子だ!」


 わしゃわしゃとセシルは頭を撫でられる。

 お兄ちゃんがいたらこんな感じだろうかとちょっと嬉しくなる。


「おっ俺も護身術とか教えてやろうか?」


 そう言いながらイルネの方をチラッチラッと見ている。

(あぁこれはそういう事か。それはダメだよ)


 セシルは幼いながらも空気を読み。

 全力で断る。


「あっそれはイル姉がいるので大丈夫です~」


 お兄ちゃんの存在は1分と経たず、セシルにとっていらない存在になった。


「え? イルねぇ? イル姉? なんで? どういう関係? え? 実の姉?」


「ハッ! 私1人で大丈夫でございます。テッド様は魔物討伐頑張ってくださいませ。(お肉)期待しております」


 『姉』の件については答えないらしい。


「そっそうか俺に期待してくれているのか。イルネがそこまで言うなら頑張らねばな。大物を狩って来てやろう」


 まだ何も狩っていないのにドヤッっているテッドの頭がゴンッと殴られた。

 コルト隊長だ。


「お前に大物討伐などさせるものか。小物で倒す経験をたくさん積んでからだ」


 グッと声を漏らした後、カッコ悪い所を見せてしまったと気付いて顔を赤くしているテッドを見て皆ニヤニヤしていた。



 その日の夜は村を挙げて騎士達を歓待した。

 魔物から村を守ってくれる騎士様達が来るのは喜ばしい事であり、娯楽の少ない村人にとって宴会の切っ掛けが出来るのは有難い事であった。


 『騎士様達が来るきっかけを作ったセシルに乾杯』などとあちこちで乾杯の音頭が取られていたが、セシルは『相変わらず調子の良い事を!』と愚痴を吐いている両親に連れられて早めに家に帰った。


 宴会の翌日、セシルはイルネから帰った後の話を聞いた。

 ロディとカーナが怒って帰ったのを見た騎士達が不思議そうな顔をしており、イルネも普段温厚で明るいロディとカーナの珍しい態度を疑問に思っていると、近所のおばちゃん達が魔物事件の説明してくれたそうだ。

 その話をした後「お姉ちゃんがセシルを守ってやるからな!」

と言ってくれたのがセシルにはどうしようもなく嬉しかった。

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