第15話 2匹の戦闘力
騎士達が村に来てからは、たまに魔物の肉を食べられるようになってきた。
セシルの家は特別に無料で持って来てもらえる事になっているのだが、それだと村人から疎ましく思われてしまう為、少量の野菜を渡す形で受け取っている。
交換割合としては、ほとんど無料にしてもらっている形になっているが、物々交換の形を取る事が大事なのだ。
人の嫉妬を甘く見ると痛い目に合うと言うのは世界共通の認識である。
村人も安くお肉が手に入るようになったので今の所、問題は起きていない。
それ以外には特にイベントのない日々が続くだろうと思われた時、またライムとマーモが常識外の事をやらかした。
それはダラスによる剣の訓練内容が少しずつ厳しくなり、木剣で軽く打ち合いをするようになった頃だった。
ライムとマーモの方から『カンッ』と音がしてきたのだ。いつもは木刀を倒しただけのボテッと音がするだけであったはずなのに……。
最初は誰もが気にしなかったが、何度かカンッという音が聞こえてくると、あれ?と不思議になってくる。
ダラスを含めて手を止めてそちらを見ると、なんとマーモが持つ木刀にライムが触手で持った木刀を打ち付けているのだ。
「「「えっ!?」」」
今までのライムは持ち手部分を身体にめり込ませて、触手で支えて上から下にポテッと倒すが精いっぱいだった。
だが今は明らかに上から下に振っているのだ。
そして下に落とさずにちゃんと支えている。
もちろんまだまだ人とは比べられるような力強さは全く無いが、進歩している事には間違いない。
マーモも今までは口で咥えるだけだったのが、いつの間にか両足で立ち、手で持つようになっている。
流石に大きいリスの様な体型をしているマーモは、身体の作り的に上下に剣を振るのは難しい為、木刀を横に構える形ではあるが。
「ダラス様、スライムは筋肉が付くのでしょうか?」
ロディは真っ先に皆が疑問に思った事を聞いた。
「知らんがな」
「「……」」
「ゴホンッ。すまん、ビックリし過ぎて素で答えてしもうた。コルトを呼んでくる」
しばらくするとコルト隊長とイルネがやってきた。
念の為、他の騎士は呼んでないようだ。
「口で説明するより直接見て貰った方が早い。ライム、また木刀を振ってくれ」
するとマーモが2足で立って木刀を手で持ち横に構えると、そこにライムが木刀を振り下ろした。
カンッ
木刀と木刀がぶつかった後、ライムはそのまま木刀を持ちあげて上段に構えている。
コルト様とイルネ様の方を見ると顎が外れんばかりに口を開いていた。
「どう思う?」
「……ハッ。すみません呆然としてしまいました……ダラス様、スライムは筋肉が付くのでしょうか?」
「知らんがな」
「「……」」
「いや、それが分からんから呼んだのよ」
「そっそうですよね。これは……秘匿した方が良いのでしょうか?」
「秘匿した方が良いと思うが……しかしトレーニングしないというのは余りに勿体ない。将来必ずセシルの役に立つだろう。裏庭を背の高い木の塀を作って見えなくしてしまうのはどうだ?」
「そうですね。騎士達にやらせて最速で建てさせましょう。それが出来るまではライムとマーモのトレーニングはランニングと柔軟くらいに控えてもらいましょうか。あっ……」
「ん? どうした?」
「いや、あのイルネの格闘術の時間はこの2匹は何をしているのかと、ふと思いまして」
「ハッ。私とセシルの関節技の練習を見様見真似で、2匹でやっております。というより、ライムが一歩的にマーモに技を掛けて、マーモが逃れようとしております。マーモは体格的に技を掛けられる相手が居ないのが残念なのですが」
「いやいやいや。それ何? 聞いて無いんだけど」
「いえ、流石にスライムの力が強くなる事は想定して無かったのでお遊びかと……」
「まあそりゃそうだな」
「セシルがライムに『力強くなるの?』と聞いたのですが、ライムは『分からない』と答えたようで、とりあえず放置していましたが・・・そう言えば最近マーモが技を掛けられてナーっと鳴いていた様な鳴いてない様な」
「……これは、ダラス様」
「あぁ確認せぬ訳にはいくまい。よし、ライムよ、ワシに何か関節技を掛けて見なさい。力は抜いておく」
そう言ってダラスが地面に座りライムがよじ登ってくるのを受け入れる。
ライムが一生懸命腕を曲げようとしているが、ダラスの身体が大きすぎて上手く力を入れられないようだった。
「うむ。力が入っているのは分かるが、ワシの体格では問題ありそうだな。すまんがセシル。ワシと代わってくれまいか?」
「はい」
言われたとおりに座って待っているとライムがよじ登って腕を取ってきた。
(あっあれ? えっちょっ待っ)
「イッテテテッテテテ! ギブギブ」
するとライムが力を抜いた。
セシルは腕をさすりながら涙目である。
「スライムは知識が付くとここまで強くなるのか……これはどこまで強くなるのでしょうか?」
「今見た通り、これから力が強くなっても大人の男には技を掛けるのは難しかろう。身体のサイズが大きくなれば話は別だが。しかし、元々消化液を飛ばす能力も持っているからな……」
「あれ? 消化液使うなら関節技必要ないのでは? 飛びついて消化液で溶かすだけなので」
「いや、そうはならん。普通は飛びつかれたら振り払う事が出来るのだ。そこを関節技で抑えられてから消化液やられてみろ。とんでもないぞ……完全に食事じゃないか」
「あっそうですね……でも身体のサイズ的に両手の平を抑えるのは難しいので魔法を防ぐのは難しいのでは?」
「いや背中で片手だけ極められてみろ。そこに魔法を放とうものなら、自分を巻き添えにしてしまうぞ? 冷静な通常時ならまだしも関節を極められて強い痛みを感じている中で完璧に魔法をコントロールするのは至難の業だ」
「なるほど。考えれば考えるほど凶悪ですね。マーモと2匹で連携すればさらに対応力が増しそうだ」
「イルネ、今後は人間の身体にも掛ける練習をさせなさい。もちろん他の隊員には秘密厳守だ」
「ハッ」
「……ライムが強くなったのは最近たまに魔物の肉を食べさせるようになった事は関係ないか?」
「それに関しましては分かりませんね。タイミング的には日々のトレーニングの成果が出たとも取れますし。魔物の能力的に野生のスライムはほぼ肉食にありつけないでしょうからあまり参考事例が無いかもしれません。領主様に連絡して文献を調べていただきましょうか?」
「そうだな。調査役に色々勘繰られても困るので、知りたい事を具体的に指示するのではなく、学院での生活を想定してスライムとマーモットの生態に付いて分かっている事は何でも情報が欲しい。という事にしよう。その旨も含めて領主様に連絡しよう」
「はい。そうですね。領主への連絡は伝令にやらせるわけにはいかないので、私が直接行きましょう。マルエット様も同席されるかと思いますが一緒に報告しても構わないでしょうか?」
「そうしてくれるか? 魔物狩りと柵作り程度なら私から指示を出そう。マルエットにも伝えて構わん。あいつが知っておかんとスムーズに回らんからな。あぁルーレイにも同席してもらえ」
「ではそのように。早速明日から領主の元に向かいます」
ダラスがセシルファミリーを見る。
「と言う事だ。とりあえずほとんど今まで通りだが、柵が完成するまでは2匹に魔法を使わせたり木刀を持たせたりせぬようにな」
「はい」
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