第144話 遭遇


「おい、どうすんだよ。卵(セシル)とヤれるっつうからこの話に乗ったってのに、その肝心の卵がいねぇじゃねぇか」

「そんな誘い文句を言った覚えはねぇよ」


 セシルを探すバーモットとカッツォの会話だ。

 王国まで3/4という距離まで移動したがセシルを発見できず、折り返し帝国側に戻りつつセシルを捜索を続けていた。

 熟練の冒険者であるカッツォ達は食料が尽きても調達する術はいくらでも持っている。

 今もキノコ、蛇、虫、芋の採取などを終え河原で休憩している所だった。


「この変態の意見に合わせる訳じゃねぇが、実際問題どうする? 卵を見付ける手がかりすらねぇぞ」


 チリエグヌも不安そうな顔を隠せない。


「行商人から強盗でもなんでもすればいいだろう?」

「流石俺の相棒だぜ。たまに喋ったと思ったら天才的な発言をするんだもんなぁ」


 バーモットがガハハハハッと上機嫌に笑う。

 ケリングはバーモットの相方をしているだけあって、大人しそうに見えるのに発想は過激だ。


「どこが天才の発言だ。野盗の発言じゃねぇか。前も言った気がするが、お前ら二人を誘ったのは間違いだったかもしれん」

「よく言うぜ。先にお前のチームが卵を誘拐しようとした事から始まったんだろうが。どっちが野盗だか」

「それはそうだが……まあそんな事どうだっていい。悪人比べなんて糞の役にも立たない話はやめて、さっきの話を進めよう。行商人を襲うったって護衛がついているだろ? どうするつもりだ?」

「知らねぇのか? 襲う側の方が先手を取れるから有利だ」

「馬鹿にするな。それぐらい知っていて当然だろう。護衛の仕事をどれだけやってきたと思っている。だがこっちは4人だぞ。誰か1人でも怪我でもしたら襲撃に成功しても荷物の輸送も難しいぞ」

「帝国の近くで王国側から来た行商でも襲えばいいだろう。俺らは帝国近くでジッと待つだけだ。カモが俺たちの為に荷物を運んできて、最後に奪う。1人怪我したところで1日の距離くらいならどうとでもなる。楽勝だな」

「おめぇらもしかして何度かやったことあるな?」

「あるわけないだろ。そんな事考えた事もねぇぜ。コツは魔物避けを利用してポストスクスを暴れさせる事だな」

「強盗を考えた事も無いやつがなんでコツまで知っているんだよ。まあいい。最終的に行商人を襲うにしても卵を探しながら進むのは変更しねぇぞ?」

「ああ。当然それは諦めちゃいねぇよ。お前らみたいなおっさんらと長期間一緒にいて俺の下半身が怒ってやがるからな」

「お前もおっさんじゃねぇか。頼むから商品を傷物にしないでくれ」

「顔が綺麗なままなら良いんだろう?」

「絶対に廃人になるような事するなよ」

「……ああ。だが、卵が俺に惚れちまったらどうする?」

「その自信はどこからくるんだよ。あり得ねぇよ」



 方針も決まり休憩を終えてしばらく道を進んでいた時だった。


「おいっ!! 止まれっ!!」


 バーモットが突然停止を呼びかける。


「どうした!?」

「子供がいたぞ! 2人いる。ゴブリンに追いかけられてやがる。俺らも追いかけるぞっ」


 バーモットはカッツォの返事を聞く間もなく、ポストスクスに乗ったまま森の中に入っていく。


「おい! 止まれ!! セシルは1人のハズだ! 全部ゴブリンじゃないかっ? おい聞いているのか? 止まれ!!」

「間違いなく2人子供がいるっ! 俺の下半身がそう言っている!」

「お前の下半身喋るのかよ!? 森の中は危険だ!! 止まれ!! ……チッくそ。俺らも追いかけるぞ」



「いたぞっ!! ほら間違いねえぇ!」

「うわああああああ。さらになんか来たぁあああ。逃げろおおお」

「待って! 待ってお兄ちゃん!! アッ」


 ズベッ


 ユーナが木の根に足を取られ、倒れてしまう。


「ユーナッ!? クソッ」


 ヨトが倒れたユーナの元に駆けつけるとポストスクスが間近まで来てしまった。

 ポストスクスが近付いてきたことでゴブリン達は散り散りに逃げていく。


「おぉい。お嬢ちゃん怪我したのかい? どれ? おじさんが見てやろう。大人しくそこで待ってなさい」

「だっ誰だ?」

「誰って? たまたまゴブリンに追いかけられている所を見かけたから助けに来た親切なおじさんだよ」


 バーモットは普段の態度からは考えられない様な優しい口調で話しかけながらポストスクスから降りる。


「バーモット! どうなった?」


 カッツォ達が追い付いてきた。


「子供たちが怪我しているから治療してやろうとしている所だよ」

「ほんとにセシル以外の子供がこんな所にいたのか……」

「セシル!? おじさんセシルを知っているの?」

「ん? 帝国語? なんだお前達は? お前達こそセシルの事を知っているのか?」

「父さんの仇だ!」

「仇? お前らの父さんの職業は何だ?」

「お貴族様に仕える兵士だ!」

「なるほど。なるほどねぇ」


 カッツォはニヤニヤとし始める。


「なんで笑うんだ!!」

「あぁすまねぇ。ちなみにどの貴族に仕えていた?」

「ベナス=リュック様だ!」

「そうか。ベナス様の兵士がセシルに殺された……なるほど」


 カッツォはこの情報は利用出来ると内心ほくそ笑む。


「実は俺らもセシルを探しているんだ。お前らは何故この場所にいるのか、どうやって来たのか教えてくれないか? 協力しようじゃあないか」

「うん。分かった。キースおじさんが、「キース?」あっ知り合いの兵士のおじさんが父さんと一緒にセシルと戦闘したらしいんだ。それで父さんが、父さんがセシルにやられてしまって……おじさんから聞いた戦闘した場所と、セシルが向かっている方向と時間を考えたら、ここら辺にいるかもと思って」

「なるほど。で。お前たちはどうやって来たんだ?」

「行商の人に乗せてもらって、途中で逃げてきた」

「ハハッ子供2人でか? やるじゃねぇか。目的は何だ? 復讐か?」

「ああそうだ」

「親の仇を打つ為に子供2人で、泣けるねぇ。で、ここからどうやって探すつもりだった?」

「川を目指す。セシルも水が必要なハズだから、川沿いに行けば見つかるはず」


 ヨトが得意げに胸を反らす。


「賢いじゃねぇか! そうだな。それはありだな」

「おじさん達は何でセシルを探しているの?」

「あぁ~そうだな。俺の仲間がセシルに殺されたんだ。お前達と同じだな」

「復讐?」

「そんなところだ」

「セシルは俺が殺すぞっ!!」

「ああ。構わないよ。とりあえずセシルが見つかれば良いんだ」

「それなら良いんだ」

「ああ。ちょっと話し合いたいからちょっと待っていてくれ。ところで、その虫刺されの顔は大丈夫か? 虫よけ付けてないのか?」

「……持ってない。かゆみ止めも」

「ならこれ使っとけ」


 カッツォは虫よけとかゆみ止めを渡すと、2人と離れて話し合いを始めた。



「おい。あんな子供どうするんだ?」


 チリエグヌが不安げに尋ねる。


「もちろん俺がいただく」

「バーモットはちょっと黙っていてくれ」

「単純な話さ、あいつらを連れて卵を探して見付かれば良し、見付からなければあいつらを売れば良し。それだけだ。まああの2人だけ売っても大赤字だがな。証言者としては使える」

「どういうことだ?」

「さっきの会話聞いていただろ? ベナス=リュックが皇帝の指示に従わずに自分の兵を出して卵を捕まえようとしていたんだ。情報源として他の貴族に高く売れるぞ」

「なるほど」

「手札は多い方がいい」

「よし、話は分かった。犯しても良いんだな?」

「お前はそれしか頭にないのかよ? ああ。とりあえず卵の捜索が終わったらな」

「そう言えば、あの子供は卵を見付けたら復讐で殺すつもりなんだろ? いいのか?」

「ハッ、そんな事させる訳ないだろ。見つけたらそこで縛りあげればいい。卵本体と裏切り貴族情報のダブルで儲けられるぞ。運が向いてきやがった」

「ははっそりゃいい。バーモットはもう少し大人しくしておけよ。先に犯すと行動しにくくなる」

「チッ分かったよ。」


 ブモォオオオオオ!!


「なんだっ!?」

「キャアアアア」

「おいっ静かにしろ! 妹の口を閉じさせろ死ぬぞ!」

「うっうん!」

「ちきしょー。アンキロドラゴンじゃねぇか。道側に現れやがった。ポストスクスが居ても分が悪い、離れるぞ」


 アンキロドラゴンはセシルが鎧トカゲと呼んでいる鎧を纏った巨大な陸ドラゴンだ。


「おいガキ共、ポストスクスに乗れ。荷物は俺達が運ぶっ!! 急げ!! 喰われるぞ!」

「うっうん」


 2人はバーモットに持ち上げられてポストスクスに乗り込む。

 バーモットが2人を一緒に抱き込む形だ。

 他のメンバーは馬の為、体格の大きいポストスクスに2人を乗せるのは自然な流れだった。


「とりあえず逃げるぞ」


 カッツォが先導しそれについて移動していく。




「ヒッ」


 しばらく走った時、ユーナとバーモットに挟まれていたヨトが不意に悲鳴を上げる。


「どうしたのお兄ちゃん」

「なんか背中に当たっているんだけど! ちんちん!? もしかしてちんちんじゃないよね!?」

「うるさい! 静かにしろ」

「お兄ちゃん静かにしてっ」

「ちょっ! 何で!? 何でさらに押し付けてくるの!」

「黙れ! 捨てて行くぞ」


 ヨトは全身に鳥肌を立てつつも慌てて口を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る