第207話 不運なマーモット
ミニ魚っさん達からの投石が続く中、数歩後ろに下がりミニ魚っさん達が見えなくなった所でライライを抱え50m程先にある曲がり角までの道をダッシュで戻る。
曲がり角まで戻るとミニ魚っさんが追いかけて来ていないか振り返り、しばらく様子を見る。
手元にいるライライの光では50m先を完全に見通すのは少々難しい。
セシルの火魔法も小さすぎて遠距離を見るにはあまり役に立たない。
「追いかけて来なさそう?」
「来ていなさそうだね。鎧トカゲの影響かな? それとも以前この近辺で殺したミニ魚っさんの事を考えて、団体行動に徹しているのか」
「団体行動に徹するなら今まさにいっぱい集まっているんだから大勢で追いかけて来るでしょ?」
「言い方間違えたかも。そういう意味じゃなくて、えっとここの横幅が狭いから皆で来れないよねって」
「ああそう言う事ね。それはあるかも。あいつら賢いね」
「あれ? そう言えば、前殺したミニ魚っさんの死体が無くなっているね」
「たしかに……骨すらないな」
「ミニ魚っさん達が埋葬したとか?」
「マイソウ?」
「死体を土に埋めるとか、焼くとか」
「それはさすがにねぇだろ。火は使って無さそうだし、埋める土地も無さそうだ」
「共喰いしていたりして。ハハハッ」
「……意外にありそうで怖い」
「まあ可能性としてはスライムみたいに溶かすか、全部食べてしまう虫とかがいるのかもな」
「それはそれで怖いね。そいつが生きている生物も食べるなら危険だよ」
「たしかに」
「あいつらだったりして」
セシルが指さす先には壁をカサカサと動き回るゴキブリのような虫がいる。
動きが早すぎる上に光に寄って来る訳でもないので今の所、食料にはしていないし殺しもしていない。
「あいつらどこでもいるよな。肉喰うのかな?」
「寝ていても襲われた事無いし、とりあえず生きている間は食べられなさそう」
「あんなのが襲ってきたら結構地獄だよな。数的には蟻の方が怖いけど」
「そんな事より、ミニ魚っさん追いかけて来なさそうだし、トンボ倒しに行くよ」
「そうだな。あー気分が乗らない」
「それを提案したお兄ちゃんにだけはそれ言って欲しくないよ」
なんとなく気乗りしない面々はトボトボと歩き、一度通った時の1.5倍くらいの時間をかけてトンボが大量にいるポイントに辿り着く。
「さぁーて、撃ち落とすか。ライライ、マーモ、斥力魔法を空中で適当にぐるぐる回して」
「ピー」「ピョー」「ナー」
ライライが音魔法で返事をした瞬間辺りは暗闇に包まれる。
「真っ暗じゃねぇか。ライアかラインどっちかは点けといてくれよ」
「ごめんごめん。ライア点けといて」
「ピー」
ライアが雷魔法で身体を光らせ、ぼんやりと洞窟が照らされる。
セシル達の斥力魔法でバチッ バチッ と弾ける様な音と共にボタボタとトンボが落ちて来る。
「よし、俺達は頭と羽を千切っていくぞ。マーモット達は羽を摘まんでここに運んできてくれ」
マーモが角から魔法を出しながら口でナー ナーと通訳して指示を出す。
マーモット達が不器用ながらヨトとユーナの元にトンボを集めて来る。
中には「アッ!? うっかり!?」って顔をしながらつまみ食いしてしまうマーモットもいたが、 トンボの数は十二分に足りそうであったのでヨト達も苦笑いしながら見逃す。
「うーっ寒い寒い」と言いながらもほとんど時間を掛けずに全員分の耳栓を作る事が出来た。
余ったトンボの死骸をマーモット達が取り合いをしているのを見て、セシルが追加でバチバチと落としてやり満足するまで食べさせてやる。
「こいつら、朝しっかり食べていたよな?」
ヨトが冷えた手をゴシゴシと摩りながら呆れた顔でマーモット達を見る。
「まあいいじゃない。これからマーモット達が大活躍する予定なんだから」
大きな活躍をする予定のないヨトとユーナは少々居心地が悪い。
ボロボロとは言えティタノボアの鱗で作った鎧まで来ている自分達が活躍しないのが猶更堪える。
「そう、だね。マーモットちゃん達には頑張ってもらわないとね」
「ヨトとユーナはマーモット達が叫んであいつらの動きを止める事が出来たら飛び出してどんどん止めを刺してもらうからね」
自分達にも活躍する予定がある事に若干の安堵と、それ以上にやりたくない気持ちが溢れて来る。
「……セシル達は離れた所から魔法で殺していくんだろう? 俺達が前に出ていったら危なくないか?」
ヨトがそれとなくやらない方向に持っていこうとする。
「まさか。ちゃんと見えていれば僕達が外すわけないじゃん。まあでも一応左側を僕達、右側をヨト達って感じで大雑把に分けようか。僕達もなるべくミニ魚っさんの近くで魔法撃つようにするよ」
「……分かった。でもライアかラインのどっちか貸してくれよ」
「うんもちろん。じゃないと見えないもんね。そんな事より早くトンボを耳に入れてみなよ」
セシルがドサッと集まったトンボの胴体を指さす。
「うっ……」
嫌そうな顔をするヨトにユーナが指摘をする。
「本来なら最初の1匹を殺した時点で耳に入れてみるべきだったと思わない?」
そう。本来はトンボが使い物にならなかった場合、集める作業が無駄にならないように1匹目で試すべきなのだ。
だが、ヨトは「これを耳に入れるのか……なんか尻尾の先にハサミみたいな鋭利なのついているし……」と想像より嫌な形をしていたトンボを見て出来れば無かった事にしたいと、思い誰かに言われるまで見て見ぬふりをしていたのだ。
だが、もう後回しに出来ない段階に来てしまった。
「ん~、よし」
ヨトが気合を入れトンボの尻尾を手に取ると、近くにいたマーモットの胴体を空いた手でガシッと捕まえた。
捕まえられたマーモットは角も生えておらず身体のサイズも中頃、片耳が少し欠けている。
よく見ると怪我の痕だろうか、身体中至る所に細かく体毛が禿げた所がある。
序列的にはサイズ的にも中盤くらいのマーモットだろう。
他のマーモットより明らかに怪我が多い。
不運なのかどんくさいマーモットなのだろう。
「ナッ!?」
「「えっ!?」」
捕まえられたマーモットはもちろんの事、セシルとユーナも驚いて思わず声が出る。
ヨトが何故マーモットを捕まえたのか分からないのだ。
「大丈夫だ。大人しくしろ」
マーモットは序列が重要になってくる。
ヨトの序列ははっきりと決まっている訳では無いが、ほぼトップだと思われるセシルより身体の大きいヨトの序列は、セシルと同等かそれ以上とも思われている。
自分より明らかに上には逆らう事が出来ない。
「ナッ、ナァ~」
捕まえられた不運なマーモットは情けない声を出して周りのマーモットを見渡すが誰も助け船を出してくれない。
「お兄ちゃん……」
「マーモットもどうせ耳栓付けられるか試さないといけないんだから」
「それはそうだけど」
全員のドン引きをよそにヨトはマーモットの耳にトンボの尻尾をグイッと突っ込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます