第60話 相談


 翌日朝、イルネがセシルにいじめっ子の席順を聞き、キリエッタに告げに行くと、それを聞いたキリエッタはすぐ王城に向かった。

 キリエッタは昔から王城で務めており、宰相オルフとも上下関係はありつつも気心の知れた間柄である為、すぐ会う事が出来た。


「なんだと!? セシルがイジメにあっていると? クソ。次から次へと……胃が痛い。相手は誰だ?」


 オルフはお腹を押さえながら話す。

 座っている執務机には書類が山の様に重なっている。


「はい。サッタ家のゴライアス。ケリッジ家のロール。ナルロフ家のシエント。テントリー家のカバーでございます」

「伯爵家1人に子爵家2人、男爵家1人か。男爵家で上位クラスに入ってるという事は優秀なのだろうな。で、子爵家のゴライアスが暴力の主犯と?」

「そう聞いておりますが、家格から言うと伯爵家のロール=ケリッジがゴライアスの下に付いてるとは思えません」

「うむ。儂もそう思う。まあその辺りは何とも言えんな。とりあえず、すぐそれぞれの家には連絡する」

「ありがとうございます。それと、お願いが……」

「……まだ何か厄介毎じゃないだろうね?」

「いえ、この件に関して王様には連絡しないで頂きたいのです」

「それは何故だ?」

「知られてしまうと、クリスタ様が罰を受けてしまうようで」

「あぁそんな話であったな……」

「まだ入学して間もないのです。これで罰を受けるのはあまりに不憫かと」

「ぬぅ。クリスタ様の立場が良く分かるだけに無下に出来んな。――分かった。王様には伝えないようにしよう。だが、次に問題が起きれば隠すことは難しいかもしれんぞ」

「感謝いたします」



 こうして、いじめっ子たちの親や保護者には早急に連絡が行われた。

 内容はかなり苛烈なものだった。


『国益を損ねるつもりならばこちらも考えがある』


 国賊に認定するぞ? という脅しである。

 宰相は余計な問題を増やされてガチ切れしていたのだ。


 この連絡を受けた王宮務めのサッタ家とケリッジ家の当主は、学院での授業終わりで子供を呼び付け家族会議を行った。

 領地にいるナルロフ家とテントリー家には別邸の管理者から一族の一大事と領地まで早馬が飛ばされ、領主自ら王都まで足を運び我が子に説教することになった。


 ゴライアス達は親からの説教の前にクリスタ第二王子からも直接注意を受けており、表面上反省の意を示していた。

 その時点でチクったセシルに業腹であったが、授業が終わった後さらに親からの説教が加わり、セシルに対する怒りは留まる事を知らなかった。


 この日以降、しばらくはセシルに対するイジメはさっぱり無くなったように見えた。



「セシル、気付いてやれなくてすまなかった」

「いえ、平民の僕が貴族のクラスにいるのが悪いので。お手数をお掛けして申し訳ございませんでした。クリスタ様」

「とんでもない、イジメる方が悪いに決まっている! 貴族として恥ずべき行為だ。今後も何かあったら私に言うといい」

「ありがとうございます」

「イジメって何?」


クリスタとセシルを挟んで反対側の席に着いているマリーの耳に聞こえていたようだ。


「それは……」 

「マリー嬢、君にも協力して欲しい。ここでは話せないナイーブな事なので後で話そう」


セシルは自分がイジメられてる事が恥ずかしく、あまり広めないで欲しいと思っているがクリスタに反対は出来ないので俯いている。


「セシル、安心するといい。マリー嬢ならきっと君の力になってくれる」

「――はい」



 その日の午後、授業が終わり教室に残って3人で話すことになった。

 クリスタの取り巻きが中々帰ろうとしなかったが、クリスタが無理やり帰した。

 日は傾いて教室に西日が射している。


 クリスタは深呼吸をして慎重に話し始める。

 マリーはあまり深く考えずたまたま聞こえて来た『イジメ』という単語について興味を持っただけなのだが、まさかその対象がセシルで、さらに身体が痣だらけになるまで酷い事をされてるとは思いもしなかった。

 セシルの痣を見たマリーは取り乱し泣いてしまう。

 クリスタとセシルはマリーが落ち着くのをジッと待っていた。


「話さない方が良かったかな?」

「いえ、知れて良かったですわ。こんな酷い事が行える人間がいるなんて私は全く知りませんでしたし、想像も出来ませんでした」


 処刑を見学に行ったマリーが言うセリフとは思えないが、犯罪者に極刑は当然という思想がある為、今回の事件とは感覚的に全く別物として受け取っている。


「今朝、彼らには直接注意したし、おそらく親からも注意されるだろう。これで大丈夫だとは思うが、私の目が届かない事もある。マリー嬢、気にして見ていて欲しい」


「もちろんでございます。セシルに手を出させませんわ」

「ご迷惑をおかけして申し訳ございません」


セシルは頭を下げる。


「気にする事は無い。私達は友達だ。そうだろう?」


 クリスタは入学式の時にセシルを壇上に上げようとした件で『次に問題が起きたら罰を与える』と言われている為、表には出さないが内面は必死である。


「ええそうですわ! 頼ってくださいませ」

「ありがとうございます」


 セシルはまた頭を下げる。

 クリスタの友達という言葉は嬉しいが、やはり身分の差という壁はどうしても感じてしまい、気軽に相談するのは難しい。

 マリーにはかなり心を許せるようになっているが、それでもイジメの相談となると言い出しにくい。結局相談する事は無いだろうな。と、セシルは心の中で思うのだった。


 この日以降、クリスタやマリーからセシルに話しかける回数が露骨に増え、その度にゴライアス達は舌打ちをするのであった。


 何故かライムやマーモもベッタリくっ付いて来る事が多くなり、セシルを励ましてるようだった。鳥のバーキンは外担当なのか、家を出るとセシルにくっ付いてくるようになった。

 授業中は大勢の人間がいるからか流石にくっ付いて来ないが、人の少なくなった魔法の授業の時や移動時はセシルの肩や頭に乗ってくる。


 セシルは周りが自分の為に一生懸命色々やってくれてるのを見て愛情を感じ、相談する事が難しくても、少しだけ気持ちが楽になっていくのを感じていた。

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