第61話 グレートボア


「さあ! 冒険者のお仕事するわよ」

「行くぞー!」

「今日は雨が降りそうね。雨除けにマント持って行きましょう」


 冒険者のお仕事に2人と3匹で向かう。

 バーキンは仕事らしい仕事は出来ないが、くっ付いて来ている。


「今日も前回、下見した場所で薬草採集するよ!」


「おー!」「ナー!」ぽよんぽよん「チュンチュン」


 薬草採集は定常依頼なので、冒険者ギルドに行かずに直接向かう。

 イルネがバッカに会いたくないのも理由の一つだ。


 門を出て半刻ほど歩くと前回採集した場所に着いた。

 少し休憩してから作業を開始する。


「あまり同じ場所で採り過ぎると生えて来なくなっちゃうから、なるべく飛び飛びに取るようにね」

「分かった」

「マーモが頑張って掘ってくれるからたくさん採集出来るね!」

「うん。今日は稼いだお金だけでちゃんとお肉食べれそうね」

「やったー! マーモ頑張って!!」

「ふふ。セシルも頑張りなさいよ」


 ライムは地面に置いた背負い籠を触手で引き摺って付いてきてくれており、セシル達が掘った薬草を地面に置くと籠に入れてくれている。


「あっ! 背負い籠に入れた薬草に付いた虫をバーキンが食べてくれてる!」

「チュンチュン」


 バーキンはそこまで賢くない為、人間達が自分の為にエサを一か所に集めてくれていると思っている。


「今日は曇ってるね」

「そうね。雨降りそうだから雨よけマント持ってきといて良かったわ。ここは河原だから雨が降ると危険よね。お昼を食べたら早めに帰ろうか」

「うん分かった」


 イルネが作ったお弁当を食べる。

 ライムとマーモには干し肉だ。バーキンはすでにお腹いっぱいのようで、ライムの上でひっくり返って寝ており、ライムはバーキンが寝やすいように頭を凹ませてあげている。


「今日はもう十分集まったわね。腰が痛いわ」

「イル姉、おばあちゃんみたい」

「おやおやセシルや。おなごにそげなこつ言っちゃいかんぞぉ。あたしゃまだまだぴちぴちじゃぞ」

「やっぱりおばあちゃんだ! でも『じゃぞ』なんて喋り方をするお爺ちゃんお婆ちゃんなんて見たことないよ!」

「これはね。物語で分かりやすくするためにそんな喋り方してるんだよ。でもモデルになってる人がいるのかな?」

「大賢者様だったりして!」

「そしたらセシルも将来そんな喋り方になるかもよ~」

「絶対いやだよ!」


「シッ!」


 急にイルネの顔が真剣な顔になり、剣を手に取り、静かにセシルに川の方を見るように促す。

 そこにはイノシシの魔物であるグレートボアが水を飲みに来ていた。子連れだ。

 グレートボアは雑食で動物を捕食する事も少なくない。非常に危険な魔物だ。

 特に子連れは危険度が増す。


 すでに遅いかもしれないが食べかけのお弁当に蓋をし、匂いが漏れないようにすると、背負い籠を持ってグレートボアから逃れるようにその場を後ずさって行く。


 グレートボアは水を飲んで満足したのか今度は鼻をヒクつかせている。


(まずい。間に合わなかったか!)


「セシル! 走って逃げて!」


 その声でセシルが背を向けて走って行く。

 イルネは一度片付けたお弁当を開いて、中身がなるべく遠くに飛ぶように投げ捨てる。お弁当の中身を食べている間に逃げようとしたのだ。

 グレートボアから視線を外さないようにしながら。なるべく早くセシルが走って行った方に移動していく。


 お弁当の匂いに反応したグレートボアの親個体がイルネの方を向く。

 お弁当を投げた距離が足りず、イルネから美味しい匂いがしていると勘違いしてしまったグレートボアが走ってくる。体高が2メートルはありそうな巨体だ。


「ブォオオオオオ」


「チッ(裏目に出たか)」


 セシルの方に行かないように向きを変え、背負い籠も投げ捨て草木を分けるようにして森の中を全力で走る。


 ドッドッと足音を立てて走ってくる。

 すでに匂いの元であるお弁当を捨てた場所を越えているのだが、目視でイルネが見えているグレートボアは止まらない。


 イルネに凄い勢いで追い付いてくる。

 逃げきれないと思ったイルネは剣を構えて対峙する。


 木をバキバキとへし折りながら、グレートボアが直前までやってきた。

「ブモオオオオオ!!」


 小盾を持っているがグレートボア相手ではほぼ役に立たない為、横っ飛びをして避ける。

 ギリギリで避けられたグレートボアは、すぐさま地面を抉るように折り返してまた突進してくる。

 イルネは先程より少し勢いが落ちた魔イノシシをギリギリの位置で避け、剣で胴体を斬り付ける。


「ブモオオオオオ!!」


 浅い傷だが繰り返せば問題なく倒せる。とイルネは確信する。


 何度か避けては切りを繰り返す。イルネは身体の至る所に枝で細かい引っ掻き傷が出来るが、大きな怪我も無く順調だと思った矢先、後から「ブヒイイイイ」と鳴き声が聞こえて来た。


 グレートボアの子供達が2匹も追いかけて来てしまったのだ。

 子供とは言え、体高が70センチはあろうかというサイズだ。まともに当たると骨折を免れない。


(クソッ!! 流石にまずい)


 避けた所に別のグレートボアが突進してくる。ギリギリで躱せているが、躱すことに精一杯で攻撃に移る余裕がなくなってしまった。


「イル姉っ!!」


「えっ!? 何で戻って来たのっ! 逃げてっ!」


 イルネが中々来ない事に不安になったセシルが戻って来てしまった。

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